「運が良けりゃ」
1966年3月19日公開。
江戸の長屋での庶民の暮らしを描いた喜劇。
脚本:山田洋次、山内久
監督:山田洋次
キャスト:
- 熊さん : ハナ肇
- 八っあん : 犬塚弘
- おせい : 倍賞千恵子
- ツケ馬の番頭 : 藤田まこと
- 久六 : 桜井センリ
- 赤井御門守:安田伸
- 吾助 : 田辺靖雄
- 若旦那 : 砂塚秀夫
- おかん : 武智豊子
- 吾助の父 : 左卜全
- 近江屋守兵衛:田武 謙三
- 差配の源兵衛 : 花沢徳衛
- 弥五 : 穂積隆信
- 弥八 : 江幡高志
- 八の女房とめ:富永美沙子
- 按摩の梅喜:松本染升
- 隠坊 : 渥美清(特別出演)
あらすじ:
春。向島山谷堀の裏長屋の住人たちは、貧乏ゆえにかえって傍若無人に、人間の姿を赤裸々に見せる。
住人は左官の熊五郎(ハナ肇)、相棒の八(犬塚弘)、因業金貸しのおかん婆(武智豊子)、それにクズ屋の久六(桜井センリ)、按摩の梅喜(松本染升)、頑固でお人好の差配・源兵衛(花沢徳衛)。
そして八の女房とめ(富永美沙子)と、熊の妹ではきだめの鶴と言われるせい(倍賞千恵子)。
そんな中で近江屋の若旦邦七三郎(砂塚秀夫)は道楽息子ながら、長屋では唯一のエリートだ。
せいは美人をみこまれて五万石のお大名・赤井御門守(安田伸)に見染められ、お妾奉公にあがるばかりになっていたが、熊が酔払って話をぶちこわしてしまった。
だがせいは、長屋に肥汲みに来る吾助(田辺靖雄)に思いを寄せ、二人はいつかくさい仲となった。
やがて、秋も近くなった頃、近江屋の主人守兵衛(田武謙三)は、源兵衛に長屋の店賃値上げを厳命する。
しかし長屋の連中は馬耳東風と聞き流す始末。
だが店賃値上げに失敗した源兵衛は、責任を追及されてお払箱になる様子。
こんな時に黙っていては江戸っ子の名がすたると熊が一計を考え出し、家主の近江屋がひっくり返る大騒ぎとなった。
ついに町方に召捕られた源兵衛と熊のいない間に、冬がやって来た。
政治の腐敗、経済の窮乏が庶民の身に沁みる季節だ。
熊が入牢して既に二カ月が過ぎた。
おかん婆さんは寒さも加わって衰弱し、誰の目にも死期がせまっていた。
必死になって貯めた金を冥土まで持ってゆこうと、病床のおかんは、心をわずらわした。
一方、間男の子をはらんだ八の女房・とめの出産が迫り、死と生が長屋のすべてを支配した。
おかんが死んだ。
これを機会に年内立ちのきを命じる近江屋の過酷さに、また熊は立ちあがった。
そのうち、とめが男の子を産んだ。
再び春がめぐって来た。
吾助とせいの晴れの婚礼の日、あいかわらずバクチですってんてんの熊と八が、いちかばちかの賭けに、春の日射しをうけて一攫千金を夢みていた。
コメント:
山田洋次監督による時代劇コメディ。
落語に造詣の深い山田監督が、古典落語の「突き落とし」「らくだ」「さんま火事」「黄金餅」などを元に、独自の解釈を施しながら自らシナリオを創り上げた作品。
熊さんにハナ肇、八つあんに犬塚弘、熊の妹のせいに倍賞千恵子、長屋の住民・久六に桜井センリ、差配の花沢徳衛、因業婆の武智豊子、近江屋のドラ息子の砂塚秀夫など、芸達者が揃っている。
複数の古典落語を下敷きにしている為、一貫したストーリーはない。
長屋の連中がたらふく無銭飲食をした挙句、ついてきた番頭(藤田まこと)を突き落とし、サンマを焼いて煙を出し、「かし(河岸)だー!」と叫んで騒ぎを起こしたり。
死期が迫った金貸しの武智豊子が金を墓まで持っていかんと餅の中に入れて食べてしまったり、長屋からの立ち退きを迫る近江屋(田武謙三)の前で武智豊子の死体のカッポレを披露したりと、騒動の連続。
最後は、妹・せいと、肥やの吾助(田辺靖雄)の婚礼で物語は終わる。
やはり山田監督はバイタリティ溢れる庶民を描けば天下一品だ。
寅さん以前の山田作品の傑作の一つである。
山田洋次監督の「男はつらいよ」のベースがここにあるのではと感じられる作品だ。
倍賞千恵子が演じる妹・せいのお殿様の妾になる寸前で、熊がそれをぶちこわすところは、まさに寅さんがさくらの縁談をこわすシーンを想起させる。
『男はつらいよ』第1話(1969年8月公開)で、20年ぶりに故郷・柴又へ帰ってきた主人公の車寅次郎が、たった一人の妹さくらと久しぶりに再会したものの、さくらのお見合いの席で失態をさらしてしまい、それがキッカケで縁談は破談となってしまう。
本作の3年後にスタートする寅さんシリーズの予感がする。
効果音の使い方から住民たち同士の関わり方、笑いのセンス。そして良く出来たしっかりものの妹と、どうしようもない兄。
しかし、この暴れん坊の兄は、本当はとても妹思いであったりして、その辺りの描写で少しホロリとさせられる。
このパターンは、この頃からやっていた訳だが、まだ未完成か。
死体を使ったギャグは行き過ぎの感はあるが、演じている役者は何だか嬉しそうに活き活きとしている。
若い藤田まことが何だか初々しい。
倍賞千恵子は愛くるしい。
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