倍賞千恵子の映画 「二人で歩いた幾春秋」 佐田啓二・高峰秀子の主演! | 人生・嵐も晴れもあり!

人生・嵐も晴れもあり!

人生はドラマ!
映画、音楽、文学、歴史、毎日の暮らしなどさまざまな分野についての情報やコメントをアップしています。

「二人で歩いた幾春秋」

 

 

「二人で歩いた幾春秋」 プレビュー

 

1962年8月12日公開。

戦後の貧しい時代を歩んだ夫婦の感動作。

 

原作:河野道工

監督・脚本:木下惠介

 

キャスト:

  • 野中義男:佐田啓二
  • 野中とら江:高峰秀子
  • 石川美代子:倍賞千恵子
  • 野中利幸:山本豊三
  • 義男の父:小川虎之助
  • 義男の母:岸輝子
  • 千代:久我美子
  • 望月:野々村潔
  • 望月の妻:菅井きん
  • 床屋のおやじ:坂本武
  • 浮田:高木信夫
  • 寺下:浜田寅彦
  • 飲み屋のおかみ:三崎千恵子

 

 

あらすじ:

昭和二十一年。

復員した野中義男(佐田啓二)は、仕事がないままに故郷の山梨で道路工夫になったが、生活はみじめだった。

給料は一ヵ月二千円。

両親、義男、妻・とら江(高峰秀子)、息子・利幸(山本豊三)は、丘の上の小さな借家に住んだ。

翌年、誠実さを認められたとら江は土木出張所の小使に雇われ、義男一家は小使室に住むことを許された。

五年後、小学三年生の利幸は成績も一番で、義男はこれからもまともに育ってくれと願う。

工夫仲間の望月(野々村潔)が脳溢血で倒れた。

休みの日、義男は不自由な望月をリヤカーにのせて平塩之岡へ花見に出かけたが、思いがけず初恋の千代(久我美子)と逢った。

彼女は義男の出征中、静岡の豪農のもとへ嫁いたが、良人は戦死して今は未亡人である。

「片想いじゃ花も咲かない」と、義男は笑いにまぎらして望月にいった。

やがて最優秀の成績で中学を卒えた利幸は甲府高等学校へ。

幾歳月の苦しみも忘れて、義男ととら江は喜び合った。

昭和三十二年。

利幸(山本豊三)は京都大学に入った。

学資の仕送りで義男は好きな酒を半分に減らし、とら江は食べものを節約した。

その年も明けて、利幸から意外な手紙がきた。

「実は去年、大学の受験に失敗したが、それをいうと叱られると思い、アルバイトしながら勉強した。

今年は試験に合格したから安心して下さい」

というのだ。

三年に進学した利幸は、仕送りに悩む両親に迷惑をかけまいと、アルバイトをつづけるが、学資が足りず、とかく沈みがちだ。

利幸に好意をよせる石川美代子(倍賞千恵子)はそんな彼を慰めた。

そのころ、とら江が京都へやってきた。

利幸は遂に学業を諦めてとら江と山梨へ帰った。

義男は利幸を殴りながら「親の気持が判らないのか」と泣き、利幸もとら江も泣いた。

昭和三十七年。

新しく学士として京都大学を巣立つ卒業生の中に、利幸の明るい顔があった。

大講堂に列席した義男ととら江のふしくれ立った掌に涙が落ちた。

 

 

コメント:

 

原作は、河野道工の歌集「道路工夫の歌」。

木下恵介が脚色・監督したある夫婦の半生を描いた物語。

「喜びも悲しみも幾年月」のセカンドバージョンのような作品で、佐田啓二と高峰秀子が夫婦を演じている。

道路工夫の歌が元になった作品ということで、度々挿入される五七五七七調で語られる夫の義男の心情も作品にいい味付けをしている。

 

戦地から復員してきた野中義男は、妻のとら江、息子の利幸と、山梨の疎開先で再会を果たす。

いきなり映画のクライマックスのような感動のシーンである。
しかしこの映画の描く現実の厳しさはここから始まる。
義男はリヤカーを引き、雨の日も炎天下でも雪が降るに日も、スコップやつるはしで道路を直す道路工夫の仕事につくのである。

 

貧しく学もない義男ととら江は、いつしか成績優秀で甲府の高校を合格し、京都の大学を目指すことになる利幸の才能に賭けてみる。
まだまだ大学に入れる者は一握りだった時代だ。

利幸の高校の入学式にみすぼらしい格好では校舎に入れないと、校庭の外から体育館を見守る義男ととら江の姿が印象に残る。
しかし利幸は両親を招き入れるために体育館を飛び出してくる。

三人で走り出し、校庭の柵を越えるシーンは感動的だ。

 

 

大学を辞めると言い出した息子の利幸を、初めはとら江が彼の想いを汲んでおおごとにしないように計らうのだが、義男は怒り心頭である。

何とか利幸を殴らないように義男を説得するとら江。

しかし利幸を目の前にして義男が取った行動は、金銭の援助はするから何としても大学を出て欲しいと懇願することだった。

そしてそれは義男の夢を息子に託す行為でもあった。
父親の切実な態度にも心を変えようとしない利幸を、たまりかねたとら江がひっぱたく。
人には殴るなと言っておいてと抗議する義男だが、この繋がっていないようで二人の想いがちゃんと通じているのが分かる場面はとても感動的だ。

ここが本作のクライマックスだ。

 

このシーンを見ていると、最近当たり前のようになっている「親が子供を叩くことは厳禁」という日本の最新の常識が本当に正しいのか疑問に思えてくる。

もちろん毎日のように子供を暴力でしごくのはダメだが、大切なことを伝えるには、いくら口で言っても通じないときは叩くしかないのかも知れない。

家庭教育の難しさを痛感するシーンである。

 

倍賞千恵子は、佐田啓二と高峰秀子の息子・利幸の恋人役を演じていて、後半でのヒロイン的な存在になっている。

デビュー2年目とは思えない溌溂した演技だ。

 

 

この映画は、GYAOでレンタル可能: