「阿修羅のごとく」
2003年11月8日公開。
「女は微笑む顔で鬼になる」
シナリオライターにして直木賞作家・向田邦子の代表作を映画化。
興行収入:7.9億円。
昭和後半のある冬、70歳を越える父の愛人に子供がいることを知ったある一家の四姉妹。
この事件を契機に、長女の不倫、二女の夫の浮気、三女の嫁ぎ遅れ、四女の同棲とそれぞれの抱える問題が顕わになっていく。
脚本: 筒井ともみ
監督: 森田芳光
キャスト:
- 三田村綱子(長女)
- 演 - 大竹しのぶ
- 45才。後家で、夫亡き後は自宅で一人暮らししている。料理屋で華道の先生をしている。貞治と不倫関係にある。自由気ままで奔放な性格で、言いたいことを胸の中に抑え気味な性格の巻子とは少々気が合わない所がある。
- 里見巻子(次女)
- 演 - 黒木瞳
- 41才。専業主婦。鷹男と中学生と高校生の子供2人の4人家族。心の中では思う所があってもはっきり口に出さない性格。日々夫や子供の世話や家事をこなしながら、ビーズアクセサリーの内職をして小遣い稼ぎをしている。
- 竹沢滝子(三女)
- 演 - 深津絵里
- 29才。図書館の司書をしている。独身で恋人はおらず、実家を出て一人暮らしをしている。成績優秀だが生真面目でお堅い性格で四姉妹の中で一番貞操観念がある。性格が合わないのかは不明だが、英光のことを嫌っている。
- 陣内咲子(四女)
- 演 - 深田恭子
- 25才。喫茶店でウェイトレスとして働いている。英光と同棲生活を送り、その後籍を入れて夫婦となる。末っ子ということもあり甘えん坊な性格。巻子によると子供の頃から滝子とお互いにライバル視しており色々と小競り合いをしている。
四人姉妹の両親
- 竹沢恒太郎
- 演 - 仲代達矢
- 四姉妹の父。年は70才ぐらい。家族を愛しているが寡黙で不器用な性格。愛人である友子とその子を養い毎週火曜と木曜の午後に会社を早退して彼女のアパートで逢引を重ねる。
- 竹沢ふじ
- 演 - 八千草薫
- 四姉妹の母。67才。穏やかでしとやかな性格。結婚して数十年間専業主婦として恒太郎や四姉妹のために家事をこなして支えてきた。独立した娘たちの身を案じながら、恒太郎との夫婦2人の生活をのんびりと過ごしている。
四人姉妹の恋人や夫など
- 枡川貞治(ますかわさだはる)
- 演 - 坂東三津五郎
- 妻帯者だが綱子と付き合っている。綱子に惚れ込んでおり豊子と離婚して結婚することも考えている。ただし夫婦生活では豊子に押され気味で、いざという時にやや頼りない性格。
- 里見鷹男(たかお)
- 演 - 小林薫
- 巻子の夫。職場では部長。自宅に四姉妹が集まって恒太郎の愛人の話をした時に自身もその場にいたため、姉妹以外で恒太郎の愛人の存在を知る人物となる。姉妹が愛人が発覚した恒太郎に戸惑う中、彼を擁護する。
- 勝又静雄
- 演 - 中村獅童
- 興信所の調査員。滝子に依頼されて恒太郎の愛人調査がきっかけで滝子と親しくなる。正直者で気弱な性格で少々鈍臭いがどこか憎めないタイプ。
- 陣内英光
- 演 - RIKIYA
- 咲子の同棲相手。咲子から『ひでちゃん』と呼ばれている。プロポクサーで新人王になることを目指している。ボクサーとしての愛称は、名前を音読みした『エイコー』。やや自分勝手で周りの人や場の状況を考えないで行動するタイプ。
その他
- 土屋友子
- 演 - 紺野美沙子
- 恒太郎の愛人。40才。小学4年生の男の子と2人暮らし。週2日、自宅アパートにやって来る恒太郎と、息子を交えて過ごしていたが、作中の後半で恒太郎に別れを告げる。
- 赤木啓子
- 演 - 木村佳乃
- 鷹男の秘書。有能で頭の回転が速く、落ち着いた物腰の中に色気を感じさせる女性。巻子から密かに鷹男との不倫を疑われている。
- 枡川豊子
- 演 - 桃井かおり
- 貞治の妻。夫婦で料理屋を営む。以前から綱子が生けた花を店内に飾らせてもらっているため顔見知り。
- 緒方
- 演 - 益岡徹
- 鷹男が探してきた綱子の見合い相手。見合いの席で会った綱子と付き添いの巻子に、「土地活用による資産運用や株式投資などで資産を増やすべき」と力説する。
- 里見洋子
- 演 - 長澤まさみ
- 里見家の長女。15歳。年の近い兄と仲が良く、作中の出演シーンでは2人一緒にいる事が多い。
- ナレーション
- 演 - 加藤治子
- 本作の冒頭で“阿修羅”という言葉の意味を説明する。
相関関係:
あらすじ:
昭和54年冬。
三女・滝子(深津絵里)の突然の呼びかけで、久し振りに竹沢家の4姉妹が集まった。
70歳を迎える父・恒太郎(仲代達矢)に、愛人と子供がいるというのだ。俄かには信じられないが、滝子の雇った探偵の写真には、見知らぬ女性と子供と写る父の姿があった。
母・ふじ(八千草薫)の耳には入れないようにしよう、と約束する姉妹。この事件を機に、一見平和に見えた女たちがそれぞれに抱える、日常のさまざまな事件が露呈してくる。
未亡人の長女・綱子(大竹しのぶ)は、華道の師匠で生計を立てており、出入りの料亭の妻子ある男性と付き合っているが、その妻に勘付かれてしまう。
次女の巻子(黒木瞳)は、サラリーマンの夫と2人の子供と平凡な家庭を営んでいるが、最近夫の浮気を疑い始め、ノイローゼ気味。
図書館に勤める三女の滝子は、潔癖症の性格が災いして嫁き遅れている。
父の愛人の調査を頼んだ内気な青年・勝又(中村獅童)と恋愛感情はあるのだが、その恋はなかなか進展しない。
四女の咲子(深田恭子)は、売れないボクサー陣内(RIKIYA)と同棲中。新人戦に勝ったあと、家族に紹介し結婚しようと思っている。
母・ふじ だけは、夫の愛人問題も耳に入っていないのか、泰然と日常を過ごしているようだった…。季節が移り、滝子はようやく勝又と結ばれ、結婚に至る。
その結婚式場に現れた咲子と、今はチャンピオンになり結婚した陣内だったが、控え室で陣内は倒れ、意識不明の重体となってしまう。
夫のことで心乱れる咲子を襲うアクシデント。
そのとき、敢然と事に立ち向かったのは、咲子と普段何かとぶつかることの多い滝子だった。
父の騒動でも、母の身の上に急展開が生じた。
巻子が、恒太郎の愛人宅の前に行ってみると、そこには呆然とドアを見つめるふじの姿があった。
母はいつの間に知ったのだろう。
老いた母の心にも「阿修羅」が宿っているのか。
巻子の姿を認めた時、ショックで倒れてしまうふじ。
両親のいざこざを自らとかさねあわせて複雑な思いを抱きながら、見守る4姉妹たちだった。
コメント:
大竹しのぶVS桃井かおり、黒木瞳VS木村佳乃、深津絵里VS深田恭子の火花散る闘いは、物語の役柄としてもさることながら、役者としてのプライドを賭けた勝負としても見応え十分。
特に、大竹しのぶと桃井かおりとのバトルシーンは圧巻だ。
大竹しのぶは、夫に先立たれた出戻り後家である。
彼女の不倫の相手は坂東三津五郎といういい男。
その妻である桃井かおりに不倫を感づかれてしまい、二人の女が対決することになる。
圧倒的に大竹しのぶは不利な立場なのだが、絶対に負けてたまるかと凄まじいファイティングが巻き起こる。
これぞ、「阿修羅」の如き女の業だ!
この大竹しのぶと桃井かおりは、当時最も勢いがあり、演技力でも引けを取らないトップクラスだった。
この二人が直接対決するこの映画は、当時最も話題になった作品である。
サラサラ、ズルズル、ボリボリと、お茶茶漬けをはじめ、蕎麦やおかき、うな重やすき焼など、ホームドラマの常套句でもある食事シーンに空腹感を刺激されるグルメ映画としても楽しめる。
物語を余情豊かに盛り上げるB・フォンテーンの「ラジオのように」が絶妙な効果音になっている:
音源はこちら:
この歌を背景に、登場人物が織り成す愛憎を、時に激しく、時にユーモラスに、時に切なく紡ぎ出した森田芳光のこなれた語り口が光る。
向田版「細雪」ともいえるホームドラマだ。
仲代達矢をはじめ、小林薫や中村獅童といった男優陣の滋味深い好演が印象に残る。
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