「博徒斬り込み隊」
1971年10月14日公開。
福島の飯坂温泉を舞台にしたヤクザと警察の抗争を描く。
脚本:石松愛弘、佐藤純彌
監督:佐藤純彌
キャスト:
- 相羽雄作(元新宿淡野組幹部):鶴田浩二
- 山野みどり(飯坂町のホステス・三郎の姉):工藤明子
- 山野三郎(元新宿淡野組組員):小林稔侍
<浅川組>
- 浅川佳雄(浅川組組長):山本麟一
- 山本常次郎(浅川組若頭):近藤宏
- 川島:室田日出男
- 木崎:今井健二
- 浅川の子分(みどりの情夫):地井武男
- 浅川の子分:堀田真三
- 浅川の子分:佐藤晟也
- 飯坂町の売春婦(相羽と寝る女):小林千枝
<北洋会>
- 橋場(北洋会橋場組組長):諸角啓二郎
- 藤岡(北洋会会長):菅井一郎
<大日本菊名会>
- 陣野行夫(大日本菊名会若衆頭・陣野組組長):渡辺文雄
- 岩井(菊名会岩井組組長):植田灯孝
- 菊池幸太郎(陣野組幹部):八名信夫
- 陣野組組員(相羽をつける男):中田博久
- 死神の竜次(菊名会岩井組の鉄砲玉):渡瀬恒彦
- 二階堂剛蔵(大日本菊名会会長):河津清三郎
<警察>
- 矢野刑事(飯坂署):若山富三郎
- 刑事(相羽の事情聴取):久保一
- 警察幹部(警察庁):河合絃司
- 警察幹部(警察庁):山岡徹也
- 榊警視正(警察庁捜査二課長):丹波哲郎
あらすじ:
新宿淡野組幹部・相羽雄作(鶴田浩二)が、七年ぶりに出所した時、組は既になく、新宿は今、東日本最大の暴力組織盟友会傘下の陣野組が仕切っていた。
盟友会は会長・二階堂(河津清三郎)の指揮のもと、全国制覇を目指し、特に、北上作戦と称して東北地方に勢力の浸透をはかっていた。
傘下団体四一六、組員一万を越すこの盟友会を崩壊させるために、警察は、暴力団退治の鬼と異名をとる刑事局捜査第二課長・榊警視正(丹波哲郎)に捜査を担当させた。
一方、相羽は子分の三郎(小林稔侍)が陣野組のチンピラに殺されたことから、陣野組組長、盟友会若衆頭・陣野行夫(渡辺文雄)をゆすって三郎の葬式代百万を奪って、三郎の故郷・飯坂を尋ねた。
東北有数の温泉町飯坂は、大木戸組が支配する土地だったが、ここにも盟友会の魔手が迫っていた。
キャバレーのホステスをしている三郎の姉・みどり(工藤明子)に骨箱を手渡した相羽は、その発端となった事件を目撃した。
盟友会系岩井組の竜次(渡瀬恒彦)が、大木戸組組員に喧嘩を売り、抗争のきっかけを掴もうとしていたのだ。
これを救った相羽は、大木戸に頼まれ組にワラジをぬぐことになった。
竜次の遺体をひきとった岩井組は、そのまま居残り、盟友会東北支部の看板を掲げて、大木戸組を挑発したが、相羽の術策にかかり全員根こそぎ逮捕された。
そして岩井組に替って陣野組が大木戸組の新しい相手になった。
だが、大木戸組に北洋会が援助を申しでた。
代理戦争の片棒をかつがされるだけだと反対する相羽を押し切ろうとする大木戸は、陣野組に入質にされてしまった。
その夜、無理に二階堂に盃を受けさせられた大木戸は殺された。
こうして盟友会と北洋会の抗争が表面化した。
この不穏な動きを察知した地元の矢野刑事(若山富三郎)は、陣野、橋場(諸角啓二郎)の両組長を逮捕したが、両者に殺し合いをさせ根こそぎ検挙したいと東京から乗り込んできた榊の命令で二人を釈放しなければならなかった。
再び凄惨な抗争が開始され陣野も、橋場も組員たちもほとんど死んだ。
二階堂も逮捕されたが、証拠不十分のため釈放が決定した。
その夜刑事が、相羽の耳もとで二階堂の釈放されることを告げた。
警察を踏みだした二階堂は相羽の銃弾を受けて倒れた。
その相羽を武装警官が包囲した。
同時に相羽をねらった銃がいっせいに火をふいた。
その中に榊の姿を認めた相羽は、榊に向けて拳銃を発射させた。
コメント:
福島の飯坂温泉が舞台。
「特急とき」、飯坂温泉駅、ブルーフィルム、郡山・北陽会、血縁式。
葬式の寺で、室田が拳銃を抜く。
ここから、手持ちカメラで画面が揺れる。
2年後に始まる「仁義なき戦い」の萌芽を感じさせる映像になっている。
出所したものの、シャバに居場所が無い鶴田浩二が、田舎ヤクザのもとに身を寄せて参謀として活躍する話だ。
前半、鶴田浩二の強かな策謀によって三つ巴の勢力による抗争を勝ち上がっていく展開はかなり面白い。
さらに、第4勢力「警察」の介入が物語に奥行きを持たせている。
本作の鶴田浩二は、不穏分子を誅殺したり騙し討ちによって敵を仲間割れさせたりと「現代やくざ仕様」であり、着流し時代よりも悪辣な手法で戦っていく。
そして、警察はそれをさらに上回る汚い策謀家として描かれ、若山富三郎演じる刑事はその汚さに苦悩する。
『組織暴力』の換骨奪胎でもあり、そこで主役だった丹波哲郎が本作で逆の立場で暗躍する意趣返しも面白い。
また、出番は短いものの、鉄砲玉役の渡瀬恒彦の雄々しさが非常に印象的だ。
「『鉄砲玉の美学』は期待外れだった」という人達は、おそらくはこういう渡瀬恒彦を期待していたのだろう。
(入れ墨の入った背中を見せている渡瀬恒彦)
クライマックスの前にもクライマックスがあるという手の込んだストーリーだ。
葬式場にて2つの組織が向かい合い、警察の陰謀によって主人公不在のまま殺し合いが始まる…
展開、シンメトリーの画、殺し合いの凄惨さ、物語の総てが頂点に達し、痺れる映像だった。
ここで終わりで良かったのに、最後に鶴田浩二に丹波哲郎を殺させちゃう。
なんでだ?
室田日出男は台詞も多く、なかなか良い役である。
地井武男が浅川組の室田日出男の弟分で出演している。
鶴田浩二と若山富三郎の演技が良い。
特に若山富三郎の屈折があるが正義漢でもある刑事がこの映画に厚みを与えている。
この役者がこういう役を演じるのは珍しい。
若山、鶴田などの、印象的なセリフの数々:
若山:
「どうせウジ虫の銭やないけ」
鶴田:
「無抵抗のチンピラ殺して飛ばされたって訳か」
若山:
「なんぼ腐っても菊名会の金はいらん」
渡辺文雄:
「昔のことは水に流しましょう」
若山:
「俺も昔のことを思い出してやる気になってるんや」
丹波哲郎(警察庁捜査二課長・警視正):
「少々のことには目をつぶれ。狙いは菊名会会長の逮捕と菊名会の壊滅だ」
若山:
「人殺し同士の乾杯や。お前ら極道が人殺しなら、俺たちも人殺しや。俺たちに命令した奴はノウノウと・・・」
この映画は、TSUTAYAでレンタルも購入も可能: