「極道の妻たち」
(ごくどうのおんなたち)
配給収入:7.5億円。
原作:家田荘子「極道の妻たち」
脚本:高田宏治
監督:五社英雄
キャスト:
- 粟津環(あわづたまき)
- 演 - 岩下志麻
- 粟津組組長の妻。高松市で暮らす。3年前から夫に代わり組を仕切り組員や対立組織にも凄みを利かせているが、基本的に人情を大事にする性格で実家の家族や組員の妻などに思いやりを持つ。統率力があり夫の服役中に粟津組の勢力を2倍に増やすなど、その手腕を発揮している。組員の妻たちのストレス発散のため3ヶ月に1回“懲役やもめの会”を開いている。子宝に恵まれず子供はいない。結婚前は北新地のクラブで人気No.1ホステスだった。
- 池真琴
- 演 - かたせ梨乃
- 環の妹。24歳。大阪在住。スナックでバイトをしておりカウンターで酒を提供するなどしている。恋愛には真面目な性格で以前は高校教師と交際していたが貞操を守っていた。姉妹仲は悪くないが、環が時々お節介を焼くため少々疎ましく感じることがある。スナックの客としてやって来た杉田から惚れられ、その後結婚と同時に杉田組の姐さんになるよう告げられる。
- 杉田潔志
- 演 - 世良公則
- 朋竜会の組員で、傘下の杉田組組長。真琴と初めて会った当初、イメージ良く見せるためにヤクザであることを隠し芸能事務所社長を装い愛想よく振る舞っていた。背中には、“義・勇・情”と書かれた玉を持つ3匹の竜の刺青が彫られている。小磯への忠誠心は強いが、基本的に短気で強引に物事を進める性格。
堂本組(本家)
- 堂本絹江
- 演 - 藤間紫(特別出演)
- 本家の総長の妻。周りから“本家の姐さん”と呼ばれており、環も彼女には頭が上がらない。やもめの会の集まりに顔を出し粟津組の妻たちに、ヤクザの妻として夫をしっかり支えるよう激励する。
- 堂本りゅうぞう
- 本家の総長。絹江の夫。冒頭で亡くなる。作中では、粟津組を傘下に持つ「日本最大の暴力組織・堂本組の総帥。関西を拠点に全国的に勢力を伸ばしている」と言われている。生前、自身が亡くなった後の堂本組を案じており不安は現実のものとなる。
- 柿沼辰郎(かきぬまたつお)
- 演 - 岩尾正隆
- 若頭で周りには過激派として知られる。年齢は40代後半ぐらいだが、堂本組の幹部の中では「年齢が若い方」と言われている。りゅうぞうの死後、二代目総長となるがその後襲撃事件に遭う。
朋竜会
- 小磯明正(こいそあきまさ)
- 演 - 成田三樹夫
- 堂本組舎弟頭補佐。56歳。りゅうぞうの死後、朋竜会副会長となる。杉田にとって任侠の世界での親のような存在。どちらかと言うと穏健派でヤクザにしては少々気が小さい。私生活では子煩悩な性格で小学生の息子を可愛がっている。
- 蔵川将大
- 演 - 疋田泰盛
- 堂本組舎弟頭。堂本組結成以来堂本の片腕として支えてきた人物。りゅうぞうの死後、自身が会長となり朋竜会というヤクザ組織を結成する。朋竜会結成時には、二代目堂本組と勢力が五分五分の状態となる。
- (役名不明)
- 演 - 成瀬正
- 朋竜会の組員。環がホステスをしていた頃、小礒と共に店に通いつめていたが、等が4日間通っただけで彼女を物にしたことを羨んでいる。
粟津組
- 粟津等
- 演 - 佐藤慶
- 粟津組組長兼堂本組若頭補佐。冒頭では、3年前から殺人の罪で高松刑務所に収監中。堂本総長の急死直後のテレビのニュースでは、二代目総長の候補の一人として自身の名前を挙げられている。環によると外出時は、スーツ、帽子、靴など白ずくめのものを着用するのがお気に入りとのこと。
- 新海高明
- 演 - 鹿内孝
- 粟津組の幹部らしき人物。環の秘書のようにいつも行動を共にしている。
粟津組組員の妻たち
- 井手緋紗子
- 演 - 汀夏子
- 粟津組の妻の中で環に次ぐNo.2的存在。普段は自営業で化粧品店を営む。浮ついた所がなくしっかり者な性格で夫がいない間もヤクザの妻として家を守るという気持ちが強く、環への忠誠心もある。小型犬を飼っている。
- 小磯泰子
- 演 - 佳那晃子
- 明正の妻。姐として組を取り仕切る環を憧れ尊敬している。プール付きの豪邸で明正と小学生の息子・たけやと3人で暮らしている。旦那の朋竜会結成後、自宅にも息子の通学にも仰々しくボディガードがつくようになったのを不満に思っている。
- 滝江
- 演 - 明日香尚
- 女遊びや借金を繰り返し、暴力を振るう旦那に散々苦労してきたが、いざ夫が刑務所に入ると生活に馴染んでいるのかを心配している。
- 早崎久美
- 演 - 芹明香
- 旦那がダメ男で、博打でスッて借金を作るたびに自身がソープランドで働かされることに悩み環に相談する。2人の子供がいる。
- 由香利
- 演 - 春やすこ
- 夫は服役中で小学生の子供を育てている。夫の服役が子供の同級生にバレてイジメに遭っており悩んでいる。
- 恵
- 演 - 内藤やす子
- 環がスナックを借り切ってする“懲役やもめの会”に粟津組組員の他の妻たちと参加し皆で日頃の鬱憤を晴らす。
杉田組
- 菊永竜二
- 演 - 石井博泰
- 杉田組組員。組員のまとめ役らしく作中では“イケイケ軍団行動隊長”と名乗っている。
- 時岡辰平
- 演 - 古川勉
- 杉田組組員。千葉県出身。事務所の入り口などを映す監視カメラを用いて怪しい人が来ないか確認する業務を担当。趣味はトランペット。
- 紺野京一
- 演 - 土岐光明
- 杉田組組員。ヤクザ家業に憧れて組に入った愚連隊上がり。
- 花田太市
- 演 - 竹内力
- 杉田組組員。本人曰く「やる時はやる男」。その後環を車に乗せて、杉田の隠れ家まで案内する。
- 露木勉
- 演 - 水上功治
真琴と関わる主な人たち
- 池保造
- 演 - 大坂志郎
- 環と真琴の父。大阪の生野区にある自宅兼町工場で一人で部品加工などをして働いている。持病の喘息に加え血圧も高く娘たちから体を心配されているがタバコが手放せない。7年前に妻を亡くしている。
- 清野伴司
- 演 - 清水宏次朗
- 取り立て屋のチンピラ。保造が不渡りを出したため、夜逃げされないよう見張りとして池家に訪れる。自身と保造・真琴親子とは、ただの取り立て屋と債務者の関係だったが徐々に打ち解けて池家の居候のように暮らし始める。その後環に拾われて粟津組の一員となる。広島カープのファン。
- 柴田梓
- 演 - 松尾和子
- 真琴が働くスナックのママ。面倒見が良い性格で会話にユーモアがあり機転が利き、雇っているホステスを口説こうとする男にも臨機応変に対応する。
その他の主な人
- 川瀬肇
- 演 - 小松政夫
- 愛知県のヤクザ組織の組長。杉田と個人的に親しくしており、朋竜会とは特に繋がりはない。杉田の依頼を受けて柿沼を銃で撃って怪我を負わせ、後日警察署に出頭し逮捕される。
- 川瀬秋子
- 演 - 円浄順子
- 川瀬の妻。小学生の娘がおり、家族で常滑市に暮らしている。家族でグアム旅行に訪れ同行した杉田から真琴を紹介され、親しくなろうと彼女に自宅の住所を伝えるがその後面倒なことになる。
- 得津
- 演 -
- 大手不動産会社社長。環とは仕事上で付き合いがあり彼女を信頼している。東大卒の跡取り息子がおり、環から真琴を紹介されて2人を見合いさせる。
- 雪江
- 演 - 絵沢萠子
- 池家(環の実家)の隣家のおばさん。数日前から外に干している下着を盗まれるようになり、真琴に同じく被害にあったかを尋ねる。
- 刑事
- 演 - 不破万作
- 警官たちを引き連れて杉田組の事務所に訪れ、柿沼の傷害事件の参考人として杉田に任意同行を求める。
- リポーター
- 演 - 藤田恵子
- 柿沼の襲撃事件直後に病院前に駆けつける報道陣の一人。入り口から車へと向かう環に、柿沼の容態や堂本組の今後についてコメントを求める。
- はつ
- 演 - 八神康子
- 清美
- 演 - 家田荘子
あらすじ:
粟津環(岩下志麻)は堂本組若頭補佐で粟津組組長(佐藤慶)の妻である。
気丈な彼女は、服役中の夫・等に変わり、組を守っていた。
ある日、環は貧しい工場を経営する父・保造(大坂志郎)と暮らす妹・真琴(かたせ梨乃)に縁談を持ちかけた。
そんな時、堂本組総長が急死した。
関西を拠点に全国的に勢力を持つ堂本組は、傘下組員二万人の暴力団で、粟津組はその直系である。
堂本組の跡目相続人は、故人の遺言によって若頭の柿沼に決定した。
これを不満とする舎弟頭の蔵川は、同補佐の小磯(成田三樹夫)らを引き連れて朋竜会を結成した。
環はあくまで堂本に忠誠を尽し、小磯の誘いを拒否する。
小磯は傘下系列の名古屋の杉田組組長の杉田(世良公則)に柿沼暗殺の指揮を命じた。
一方、アルバイト先のスナックで杉田にしつこく言い寄られていた真琴は、バカンスを楽しむグァム島で偶然、彼と再会。
コテージで力ずくで抱かれた。
杉田は兄弟分の川瀬組組長・川瀬(小松政夫)と共に柿沼暗殺のための拳銃の試射に来ていたのだ。
帰国した真琴は、環に縁談を断り、やくざと関係したことを告げた。
ある日、柿沼が射殺された。
すぐに、愛知県常滑市の暴力団員・川瀬が自首して出た。
TVでそれを知った真琴は常滑へ向かう。
杉田と真琴は、子分に囲まれながら結婚式を挙げる。
だが、杉田は突然踏み込んで来た刑事たちに逮捕された。
真琴のもとに、杉田が柿沼を射止めた拳銃が残された。
ある夜、粟津組系組長の妻たちが集まる“懲役やもめの会”で、環が小磯系組員の襲撃を受けた。
このまま抗争を続ければ、双方の組織が壊滅しかねないと案じた堂本の妻、絹江(藤間紫)は関東から手打ちの仲介を頼むと環に告げる。
環は小磯の妻、泰子(佳那晃子)の手を借りて小磯と会い、戦争終結を話し合った。
一方、保釈となった杉田は、朋竜会解散の真偽を確めに大阪へ。
やけくそになった杉田は、家族と海水浴を楽しむ小磯の前で自らの腹を突き刺すも死ぬことはできず、そのまま行方をくらます。
堂本の三代目はあと数ヶ月で刑期を終える服役中の粟津に決まった。
大阪に戻った真琴は父親の死を知る。
真琴は環のもとで暮らし始めたが、ある朝、見張りの清野伴司と出かけた際、杉田の子分・花田太市(竹内力)と再会した。
杉田のもとへ行くという真琴を環は止める。
激しい喧嘩の後、「今日限り、わてらは姉妹でない。身内でもない。別々の極道の女房や」と絶縁を突きつけた。
杉田と真琴の久方ぶりの逢瀬の際中、環の子分・清野(清水宏次朗)が現れ杉田をメッタ刺しにする。
真琴は清野を射殺するが、杉田は真琴を抱きながら息を引き取る。
その後、粟津(佐藤慶)が出所する日が来た。
環や組員らが総出で出迎える中、突然花田が絶叫しながら駆け寄り、粟津に向かって発砲する。
粟津の白いスーツは血に染まり、環は驚愕の表情を上げた。
原作本は「極道の妻たち」(ごくどうのつまたち)だが、映画のタイトルは「ごくどうのおんなたち」であり、読み方が異なる。
愛する夫を組同士の抗争や内部の謀略で失った『極妻』が自らの手で仇を取るという復讐劇である。
1960年代のヤクザ映画全盛のオールナイト興行には、体制に不満を持つ学生を中心に、底辺で働く若者や水商売の女性、あるいは都会の片隅で孤独に生きる人たちが多かった。
バブル期直前の1980年代半ばの日本には、代わってごく普通のOL、あるいは女子学生にも広く受け入れられる映画が要求された。
ヤクザ映画はマンネリといわれたが、方法論を変えれば打破できるはずだと東映の日下部プロデューサーは考えていた。
一般の主婦やOLは、ヤクザ映画には抵抗を持ちながら、一方で見てみたいという気持ちを強く持っている。
それには、主婦やOLに違和感なく、ヤクザ映画には縁のない、テレビなどで好感度の高い大物女優を主人公に起用して安心感を与える、ヤクザ映画とは全然関係のないスターを起用することで、ヤクザ映画に市民権を持たせたかった。
日下部は当初、「"極妻"は東映の監督陣と日本を代表する女優たちとで回していきたい」と、一作目の主演女優を岩下志麻、二作目を十朱幸代、三作目を三田佳子、四作目を山本陽子、五作目を吉永小百合という構想を練っていたという。
ところが、四作目の製作が決定した際に、岡田社長が「やっぱり岩下に戻そうや」と"鶴の一声"を発して構想は変わった。
それ以降は長く岩下が主演を務め、"極妻は岩下"の代名詞となるほどの岩下の当たり役シリーズとなり、シリーズ終了後も岩下が出演するCMは"極妻"のパロディーで制作されたものが多かった。
岩下は、同じ五社英雄監督の1982年、『鬼龍院花子の生涯』で、既に"姐御"役を経験していたが、本作では凄みの効いた低い声で「あんたら、覚悟しいや!」と拳銃をぶっ放し"姐御"イメージを決定的にしたのであった。
岩下自身「"極妻"は自分の財産になる作品になったと思うんです。こんなに長いシリーズ物をやらせていただいたのは、女優生活で初めてなんですね。年代的にもう中年になってから、こういう主演作に巡り逢えるとは思いもよらなかった」と述べている。
岩下は、忘れられない3本として『心中天網島』(1969年)、『はなれ瞽女おりん』(1977年)とともに『極妻』を挙げている。
岩下とともに"極妻"に欠かせない女優が、かたせ梨乃である。
シリーズ第1弾のDVDジャケットにあるキャッチコピーは、「愛した男が、極道だった」。
かたせ梨乃が演じた真琴という女性は、まさにこのキャッチを地でゆく極道の妻なのである。
つまり、この第1弾の真の主役は、かたせ梨乃だったのだ。
かたせは当時テレビを中心に活動していたが、官能的で毒の部分を表現できる女優がヤクザの男たちの好みのタイプと判断しキャスティングされた。
映画の大役は初めてで極度に緊張して、岩下がかたせに宝石店で指輪をはめてあげるシーンでは、かたせの手が震えて指輪がなかなかはまらなかったというくらい、うぶだった。
この第1弾では、かたせ梨乃と世良公則の濡れ場シーンが大きな話題を呼んだ。
かたせは、大柄で身長は168cmもある。
バストは98cmだったという噂だ。
目鼻立ちもはっきりしていて、まさに極道の妻にはぴったりなのだ。
かたせは、最初はお色気担当のような役割だったが、次第に姐さんとともに闘う女に変身していった。
芸能生活10年目で初めて手にした大役をやりとげ、出演者の中で最多の8作品に出演し、女優として大きな成長をとげたのである。
かたせ梨乃の相手役のやくざを演じた世良公則。
ご存じの通り、22歳になった1977年11月に、メンバーの大学卒業とバンドの解散のけじめに出場したヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)と世界歌謡祭で「あんたのバラード」でグランプリを獲得。
これを機に、歌手としてヒット曲を連発して一世風靡した。
本作の2年前から映画にも出演していたが、やはり本作での本物のやくざ顔負けの捨て身の殺陣や、かたせ梨乃との激しい濡れ場の演技で役者としても一気に人気を獲得した。
まさにこの映画は、かたせ梨乃や世良公則といった若手俳優の突破口となった記念すべき作品でもある。
本作のヒットにより、シリーズ化されて、多くの役者たちのあこがれの映画となってゆくのだ。
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