三船敏郎の映画 第23作 「西鶴一代女」 田中絹代主演! ヴェネツィア国際映画祭国際賞受賞!  | 人生・嵐も晴れもあり!

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「西鶴一代女」

 

 

「西鶴一代女」 予告編

 

1952年4月17日公開。

ヴェネツィア国際映画祭国際賞受賞作品。

田中絹代の代表作。

 

原作は井原西鶴の浮世草子『好色一代女』

脚本:依田義賢

監督:溝口健二

 

キャスト:

  • お春:田中絹代
  • 奥方:山根寿子
  • 勝之介:三船敏郎
  • 扇屋弥吉:宇野重吉
  • お春の父新左衛門:菅井一郎
  • 笹屋嘉兵衛:進藤英太郎
  • 笹屋番頭文吉:大泉滉
  • 菊小路:清水将夫
  • 菱屋太三郎:加東大介
  • 磯部弥太衛門:小川虎之助
  • 田舎大尽:柳永二郎
  • お局吉岡:浜田百合子
  • 待女岩橋:市川春代
  • お局葛井:原駒子
  • 老尼妙海:毛利菊枝
  • 笹屋女房お和佐:沢村貞子
  • 松平晴隆:近衛敏明
  • 重役真鍋金右衛門:荒木忍
  • 重役田代甚左衛門:上代勇吉
  • 丸屋主人七左衛門:高松錦之助

 

 

あらすじ:

時は江戸時代。

奈良の町はずれの荒寺の門前にたたずむ惣嫁(そうか)と呼ばれる売女三人。

その中に、老い疲れた顔を厚化粧にかくしたお春(田中絹代)の姿もあった。

乞食の焚火に明るんだ羅漢堂に並ぶ仏の顔に、お春は過去の幾人かの男の面影を思い浮かべるのだった。

--若く美しかった御所勤めの頃のお春に懸想した公卿の若党・勝之介(三船敏郎)は、彼女をあざむいて寺町の中宿へつれ込んだところを、折悪しく役人にふみ込まれた。

お春とお春の両親は洛外追放、勝之介は斬首に処された。

宇治に移り真葛原(まくずはら)の出振舞(でぶるまい)に踊ったお春の美しさを見込まれ、江戸松平家のお部屋様に取り立てられ、嗣子(しし)までもうけたお春であったが、側近の妬みに逢って実家へ返され、お春の流転が始まった。

島原の廓に身を売られ、田舎大尽に身受けされようとしたが、彼が偽金作りと判り、笹谷喜兵衛(進藤英太郎)の家へ住込女中となった。

それも前身が判ったことから喜兵衛の女房・お和佐(沢村貞子)に嫉妬され追い出された。

扇屋の弥吉(宇野重吉)の妻になり平和な生活に落ち着けたのもつかの間、弥吉の急死で、笹屋の番頭文吉(大泉滉)の世話になったが、文吉がお春のために店の品を盗んだことが発覚、文吉につれられ駆け落ちして桑名で捕えられた。

それ以来、宿屋の飯盛女、湯女、水茶屋の女、そして歌丘尼(うたびくに)から、老いさらばえて、辻に立つ惣嫁とまでなり果てたのだった。

ふと自分の名を呼ばれ我にかえったお春は、老母・ともから、松平家の呼出しを告げられた。

もしや自分の生んだ子がとの喜びも裏切られ、お春は卑しい女に堕ちた叱責を受け、永の蟄居を申し渡されたばかりであった。

やがて嵯峨の片ほとりに草庵を営む老尼の姿が見られた。

お春であった。

注:

「惣嫁(そうか)」:江戸時代、上方(かみがた)で、街頭に立って客を引く最下級の売春婦のこと。

「出振舞(でぶるまい)」:客を料理屋、茶屋など自宅以外の所に招いてもてなすこと。

「嗣子(しし)」:一般に正室(正嫡)の生んだ男子のうち最も年長の子を指す。あととりのこと。

「歌丘尼(うたびくに)」:念仏に節を付けて歌う尼のこと。

 

 

コメント:

 

原作は井原西鶴の浮世草子『好色一代女』で、依田義賢が脚色した。

ヴェネツィア国際映画祭で国際賞を受賞した、溝口健二監督の代表作品。

封建制度下の江戸時代を舞台に、男に弄ばれ悲劇的流転の人生を歩んだ女性・お春の一生を描き、溝口が得意とするワンシーン・ワンカットの長回しや流麗なカメラワークが随所で効果をあげた。

海外では特に作品を高く評価しており、後のフランスヌーヴェルヴァーグの映画作家にも大きな影響を与え、ヨーロッパ映画界では長回しの流行を生じさせることとなった。

 

こういう女性を生真面目に演じた田中絹代の存在感がすごい。

戦後まだ7年の巷では、このような不幸の流転の女性が多くいたのではないかと想像される。

昔の女性にとって生きるということは大変なことだったのだろうと偲ばれる深い作品だ。

 

三船敏郎は、田中絹代が演じる主人公・お春の若い頃のシーンに登場する。

公卿の若党・勝之介に扮して、若く美しかった御所勤めの頃のお春に懸想するのだ。

そして、お春をあざむいて寺町の中宿へ連れ込むのだが、折悪しく役人に見つかって逮捕され、斬首に処されてしまう。

前半に消えてしまう役柄ではあるが、イケメンの若々しい若者姿はなかなか存在感がある。

 

西鶴一代女 (1952) : Life of Oharu,The Gallant Lady | 100KenjiMizoguchi.com

 

波乱万丈の物語に引き込まれずにはいられない。
なにより映像が雄弁である。

オープニングから歩く女性をカメラは追うのだが、その様子と通り過ぎる人々の様子だけで、説明がなくとも状況を把握させる。

昔の日本映画では、スムーズな移動撮影は今程多くないから、なおさらだ。

さらにクローズアップが少ないのだ。

この映画はヒロインが次々と過酷な運命に翻弄される物語。

なのにヒロインの口惜しい感情や途方に暮れる様子を表情をアップで撮ることで表現してしないのである。



例えば、大名の妾として世継ぎを生んだ後、突然に暇を出される残酷な仕打ちの場面。

実家に戻ったヒロインを遠くから捉えるだけで、両親の狼狽ぶりだけで全てを語り尽くしている。

田中絹代の表情を正面から撮っているのは、散々な目にあった後のクライマックスくらい。

成長した息子が生みの母を呼び寄せると聞いて屋敷に上がったにもかかわらず、浴びせかけられるのは冷たく心ない言葉の数々。

それを黙って受け流すかのような冷めた表情は、実に切ない。

ヒロインをとりまく男たちの身勝手、理不尽、江戸時代の女性の扱われ方に憤りと悲しい気持ちが湧き上がる。

次にどうなる、お春は幸せになれるのか、と先が気になって仕方ない。

黒澤明のアクション時代劇でもないのに、140分超の日本映画クラシックに引き込まれる。

 

 

 

DVDの映像特典に海外向けの予告編があり、題名が「A LIFE OF OHARU」とある。

つまり、「お春の一生」というタイトルで海外に紹介されたのだ。

この方が分かりやすい。

だが、日本人に対しては、「井原西鶴」の書いた「好色一代女」という題名の方が格式が高いと思ったのだろうか。

 

井原西鶴の「好色一代女」は、この映画とストーリーはあまり変わらないが、好色なるが故に犯した罪を恥じて、御仏にすがる老女を描いており、映画とはニュアンスが異なっている。

そのあらすじは、以下の通り:

「好色庵」に住む一代女は、元来由緒ある家に生まれて、大内の宮仕えをしていたが、13歳の時にある青侍と恋愛事件を起こして追放された。以後、舞妓となり、更に大名の愛妾となって華やかな生活を送ったが、16歳の時、父の負債のために島原の遊女となった。遊里では自己の出自と美貌をもって一時は全盛を誇るが、次第に客が離れ、太夫から天神、天神から鹿恋へと位を下げつつも、13年の年季明けで素人女に戻る。そして、町家の腰元や武家お抱えの髪結女などの勤めをするが長続きせず、歌比丘尼や茶屋女などの売春婦を経て、大坂玉造で夜発として徘徊するも、誰にも相手にされない。ある雨夜、自らの不行跡のために堕胎した水子の群れが現れ、一代女の良心を責める。また、四条寺町大雲院の仏名会に詣で、五百羅漢堂の諸像にかつて馴染んだ男達の面影を認め、自らの拙い宿業を恥じ、広沢の池に入水しようとするが助けられ、庵を結んで菩提を願う身になった。65歳の頃であった。

 

 

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(ただし、14分割されており、画面が暗いのが難点)

「西鶴一代女」 (ニコニコ動画)

 

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