「石中先生行状記」
1950年1月22日公開。
成瀬巳喜男監督の三船敏郎初出演作品。
石坂洋二郎原作の青森を舞台にしたオムニバス映画。
原作:石坂洋次郎
脚本:八木隆一郎
監督:成瀬巳喜男
出演者:
- 宮田重雄
- 渡辺篤
- 堀雄二
- 進藤英太郎
- 木匠久美子
- 藤原釜足
- 出雲八重子
- 杉葉子
- 中村是好
- 池部良
- 三船敏郎
- 若山セツコ
- 飯田蝶子
あらすじ:
第一話「隠退藏物資の卷」
岩木山麓のリンゴ園に、軍がドラム缶のガソリンを埋蔵したいう、青年の河合(堀雄二)の証言をもとにして、中村(渡辺篤)が、石中先生(宮田重雄)を伴って、リンゴ園の主人・山崎(進藤英太郎)と発掘作業を始める。
山崎や中村は、ガソリンを独り占めしようという気配をにじませるが、実はこの話は河合青年が、リンゴ園の娘・モヨ子(木匠久美子)に一目惚れしていて、なんとか近づくために捏造した話だった。
そして、誰も腹を立てることなく、若い二人の恋を祝福するのであった。
第二話「仲たがいの巻」
古本屋の主人、山田武造(藤原釜足)と友人の木原(中村是好)は、町の芝居小屋に「裸レビュー」がかかっているので、なんだかんだ理由をつけて二人で観にいく。
古本屋の娘まり子(杉葉子)と木原の息子秀一(池部良)は、恋人同志で、二人の行動に怒って、懲らしめようとするが、誰が最初に誘ったのか、お互いになすり合う。
お互いの父を尊重するあまり、まり子と秀一も大喧嘩となり、石中先生が中に入り二人の仲を取り持つのであった。
第三話「千草ぐるまの巻」
ある日ヨシ子(若山セツコ)は、街の病院に入院している姉のカツ子(中北千枝子)のお見舞いに行きます。
病院では、手相見が趣味の患者の相川(田中春男)が、ヨシ子は今日にも運命の人との出会いがあると告げ、ヨシ子はワンピースに着替えて映画を観にいき、若山セツ子の出演している青い山脈を楽しむ。
その帰り道、疲れ切ったヨシ子は眠くなってしまい、知り合いの馬車の干し草の上で、眠り込んでしまう。
ところが、それは別の馬車だったため、ヨシ子は眠っている間に、馬子の長沢貞作(三船敏郎)によって長沢家にきてしまい、遅いからと泊まることになった。
そして、貞作の母(飯田蝶子)とも意気投合し、楽しく夕飯を一家と共にした。
翌日そこに来合わせた石中先生は、ヨシ子の外泊時の純潔を証明する書類を書き、二人は無事に結ばれたのであった。
コメント:
青森県弘前市出身の小説家・石坂洋次郎の自伝的ユーモア小説を原作としたオムニバス作品である。
この小説は何度か映画化されているようだ。
この映画には三つのお話が含まれている。
そしてどれも、ほのぼのとしたラブストーリーになっている。
ヒロインはそれぞれ、木匠久美子、杉葉子、若山セツコで、対する男優は、堀雄二、池部良、三船敏郎という組み合わせ。それを藤原釜足や飯田蝶子などなど、しっかりした脇役陣が固めている。
三つの物語はそれぞれ違ったシチュエーションで面白いが、第3話の三船敏郎が登場する物語は特に素晴らしい。
三船敏郎が演じた極端に無口の青年と、ヒロインの若山セツコのどこまでも明るい笑い声が際立っている。
エンドで二人がすっかり打ち解けて青い山脈を歌うシーンは最高だ。
若き日の三船敏郎の唄が聞ける貴重な作品になっている。
三船敏郎が演じる青年のあまりにも無口な様子がおかしく、それがしだいにヒロインと親しくなるにしたがって話をするようになる。
東北の青年らしさが感じられる微笑ましいシーンだ。
『青い山脈』は前年の今井正監督の作品であり、主題歌も一世風靡した大ヒット曲だ。
当時とても流行ったことを窺わせるシーンである。
狂言回し的な存在で、ポイントとなって3つの物語を導いていく石中先生役の宮田重雄は、俳優としては素人で、学者であり画家。
クイズの長寿番組で人気者だったようだ。
その学者然とした雰囲気が、この石坂洋次郎がモデルの小説家という役柄にマッチしていて好感が持てる。
あまり葛藤のようなものはなく、サラっとした楽しい映画に仕上がっている。
舞台が青森の岩木地方なので、のどかで尋常身溢れる作品である。
三船敏郎と共演した若山セツコは、1949年に『青い山脈』での丸メガネの女学生・笹井和子役で人気を獲得した。
そして、同年に東宝の映画監督であった谷口千吉と結婚した。
三話ともに、ほのぼのした楽しいお話で、のんびりした岩木山麓で展開していく。
お祭りなども含めた津軽地方の映像も、美しくとらえられていて、それだけでも見る価値がある。
この時代の成瀬巳喜男監督の作品は、こういった叙情的な田舎のほのぼのした作品が連続しているが、この監督にとってそういう時期だったなのだろう。
この映画は、今ならYouTubeで全編無料視聴可能。
(第3話は、57分経過時点からスタート)
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(しかし、VHS)