「実録三億円事件 時効成立」
1975年11月22日公開。
原作:清水一行『時効成立』
脚本:小野竜之助、石井輝男
監督:石井輝男
キャスト:
- 向田孝子:小川真由美
- 西原房夫:岡田裕介
- 久住みどり:絵沢萠子
- 西原を見た主婦:浜田ゆう子
- 青野刑事:滝沢双
- 大島:杉義一
- 中田資金係長:土山登士幸
- 日本信託銀行国分寺支店行員:打越章之
- 遠山:田中邦衛
- 葛木正男:金子信雄
あらすじ:
博奕好きで、女にだらしない西原房夫(岡田裕介)は証券会社の運転手をしていたが、会社の金四百万円を横領し、競馬につぎ込んでしまった。
だが、横領が会社にバレて警察に突き出されるところを、情婦の向田孝子(小川真由美)がダイヤの指輪と土地を売り、金を返済してくれたので、刑務所行きはまぬがれた。
その後、二人は同棲生活を送るが、借金に追われる苦しい状態が続いた。
昭和43年7月、多摩農協に再三の脅迫状が舞い込んでいた。
送り主は西原である。この脅迫状は警察をあざむくためのカモフラージュで、彼は42年12月から三億円強奪の準備を始めていた。
そんなある日、西原の態度に不審を覚えた孝子は、彼から日本信託銀行国分寺支店から東芝工場に輸送される三億円の強奪計画を聞かされた。
月賦屋に追われる生活に嫌気がさしていた孝子は、西原と行動を共にする決心をした。
西原は準備資金にするために、金持ちの未亡人・久住みどり(絵沢萠子)を誘惑し、百万円を騙し取った。
8月12日、西原はトランジスターメガホンを盗んで以来、白バイ警官衣装等の獲得準備をすすめ、ヤマハスポーツ350RI、41年型カローラ、43年型カローラ等を、次々に盗み、12月9日、全ての準備を完了した。
12月10日。午前6時に、西原と孝子は日野の自宅を出発。
9時21分、府中刑務所裏にさしかかった現金輸送車である黒のセドリックを停止させた西原は、車内に爆弾が仕掛けられていると偽りセドリックに乗って逃亡。
そして、国分寺・七重の塔跡で待つ、第2のカローラにジュラルミンのトランクを移し、孝子の運転で山梨県大月市にある西原家の墓地へと向かった。
途中、ラジオで五百円札には通しナンバーが控えてあるとの報道で、五百円札は全て処分、残金を墓の下に隠した。
その後、西原と孝子は金には手をつけず、以前と全く変わりない生活を送っていった。
一方、警察の捜査網は拡大していくばかりだったが、葛木刑事(金子信雄)は、その経験とカンで不良退職者のリストを地道に洗っていた。
その中に、西原の名も上っていた。
昭和50年9月、西原は府中駅前広場で、久住みどりと会い、百万円を返さなければ警察に訴えると脅される。
時効成立間近になって動揺した西原は、金を引き出すべく山梨の墓地に向かった。
そこには西原の態度に気づいた孝子がいた。
西原から事情を聞いた孝子は百万円使うなら全部使うのも同じ、と金を掘り出した。
時効まであと40日。
葛木刑事は、府中競馬場で、西原がイギリスの名馬ペガサスを二億一千万円を出資して輸入する、という話を耳にした。
葛木は西原に目をつけた。
四百万円横領事件、住居が日野にある……。
時効10日前。
西原が他人名儀で所有するマンションがガス爆発を起こした。
西原を犯人と断定した葛木は、ガス事故の件を利用して、西原を別件逮捕した。
取調べ室で、葛木に訊問される西原だが、黙杏権で何も答えない。
時効を数日後にひかえている葛木は、西原の家で五百円札を焼いた残りが発見されたとか、ペガサスが死んだとか執拗な訊問を行ない、ついに西原は精神的に衰弱し倒れてしまった。
しかし、彼は医務室のベッドの中で「黙否権でいけば絶対に助かる」と言った孝子の言葉を反芻していた。
そして、12月10日、西原は証拠不充分でついに釈放された……。
コメント:
原作は、小説家の清水一行の『時効成立』。
清水一紘は、実際に起きた経済事件に関わった実在の人物をモデルに、企業の実態や事件の内幕を描く作風で一世風靡した。
本作もその典型であり、1968年(昭和43年)12月10日に発生した三億円事件を題材にしている。
昭和の大事件としてあまりに有名な“三億円事件”を題材に、その真相を描いた作品。
東映が独自に捜査を行ない、緻密な資料をもとにしっかりしたシナリオを立ち上げたという。
事件に関わる多くの登場人物たちの人間模様を克明に描き出す名作である。
実録とは言いながら、ほとんどはフィクション。盗むまでのわくわく感と、捜査から逃げるわくわく感がハンパない。
ギャンブル好きのクズ男の犯人に岡田祐介と、それを甘やかす情婦に小川真由美がはまり役。
小川真由美の世話女房ぶりがすごい。
男を掴まえておくために三億円事件の共犯になるなんて並大抵の女じゃない。
嫌疑をかけられて拘留されても、叱咤激励するのもすごい。
「馬を買ったりするような頓馬じゃない」というセリフが笑える。
そして何より犯人を追う刑事の金子信雄が良い。
金子信夫のこのしつっこい刑事は、今なら確実に人権侵害で訴えられるだろう。
『仁義なき戦い』などで見せる女好きで金にしか興味のない悪辣なヤクザの親分役とは別人間だ。
金子信雄の「事件は府中競馬場を扇の要にして広がっている」というセリフが光る。
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