「ときめきに死す」
1984年2月18日公開。
殺し屋と医者と女の三人の奇妙な共同生活を描く不思議な映画。
監督・脚本:森田芳光
キャスト:
- 沢田研二:工藤直也
- 杉浦直樹:大倉洋介
- 樋口可南子:梢ひろみ
- 岡本真:谷川
- 日下武史:中山
- 矢崎滋:新城
- 加藤治子:おたえさん
- 吉川游土:売春屋の女
- 宮本信子:旅館の女将
- 干場てる美(響野夏子):バニーガール
- 岸部一徳:泳ぐ男
- 林亜里沙:黄の女
- KIM(キム):赤の女
- 加藤善博:車の男
- 中村亜湖:車の女
- 上田耕一:新宗教の男
- 綾田俊樹:理髪店主
あらすじ:
自称、歌舞伎町の医者・大倉(杉浦直樹)は、ある謎の組織から莫大な報酬で、別荘の管理と一人の男の身の回りの世話と心身のチェックを依頼された。
それを引き受けた彼は、ある田舎町の駅で工藤(沢田研二)という若い男を出迎える。
大倉は工藤を別荘に案内し、組織の指示通りに調理した夕食で持てなすが、工藤は酒も煙草も拒否し、食事もデザートから手をつけるという変わり者だった。
大倉は工藤の正体も、ここに現われた目的も一切知らされず、また質問する事も禁じられていたため、ただひたすら、組織からの一方的な電話による指示通りに彼の世話をするのだった。
工藤は早朝、森林を駆け回り、昼は海で水泳をし、別荘に帰っては室内トレーニングを続けるという日課を黙々とこなしていた。
大倉はそんな彼のストイックな姿に魅せられていく。
あるコンピューター室で少年がキーを叩いている。
ブラウン管には工藤と大倉の行動がグラフィック化され、二人の体格、性格に対照して「コヅエ・ヒロミ」という女が叩き出された。
そして、梢(樋口可南子)という女が組織から工藤のために別荘に送り込まれてきた。
男二人と女一人の奇妙な生活が始まる。
工藤は梢に全く興味を示さず、その謎めいたペースをくずさない。
一時、大倉にモーションをかけていた梢も、工藤に興味を持ちはじめ、愛を抱いていく。
コンピューターが、遂に組織が排除すべき人物をあぶり出す。
驚く幹部達。
それは組織の会長・谷川の名だった。
夏の終わり、売春宿に出かけた大倉は、そこのおかみ・たえ(加藤治子)から、この町に信者の多い新興宗教の谷川会長(岡本真)が訪れることを聞く。
大倉は初めて工藤が負っている使命とそのターゲットを知った。
工藤は谷川会長を刺そうとするが、失敗し、警察に捕まった。
それを知った組織の新条(矢崎滋)は会長を暗殺する。
パトカーの中で、工藤は手首を噛み切って自決した。
コメント:
森田芳光監督らしい不思議な雰囲気を持った映画。
謎を秘めた暗殺者を演じるジュリー。
そのジュリーのお世話をする杉浦直樹と樋口可南子。
この三人の生活が暗殺実行日に向けて静かに進行していく。
ジュリーの演じるキャラクターは、トレーニングに励んだりはするが物静かで、暗殺者に連想される鋭さのようなものは全く感じさせない。
それがこの作品の独特の空気感になっているのだ。
しかし、唖然とするのは最後、なんのプロフェッショナル性も見せず、いとも簡単に暗殺に失敗し、自ら手首を噛み切り、大量出血で死んでしまう。
このエンドはあり得ない。
手首を刀で切断するならまだしも、自分の歯で噛んだくらいで大量に出血することはあり得ない!
さらにそれが原因で息を引き取るということにもならないだろう!
一体なんだったんだと思わずにはいられない。
やっぱり森田芳光という監督の感性が常人とは全く異なっているということだ。
それでもこの映画がちょっとだけ面白かったと思わせるのは、なぜだろう。
おそらく、ジュリーならではの存在感があって何とか映画になっていることは確かだ。
やはりジュリーは見ているだけでも良いと感じてしまうファンが多いのだ。
また、助演者の杉浦直樹と樋口可南子が良かったからかも。
まずは、自称・歌舞伎町の医者・大倉(杉浦直樹)が、とある組織から一人の若者(ジュリー)の世話を高い報酬で任され、彼との奇妙な共同生活が始まる。
「ワレワレノ組織ニ必要ノナイ人物ヲ摘出セヨ。」
コンピューターから発せられる謎のメッセージ。
黙々とトレーニングに励む若者。
この男は何者で、目的はなんなのか?
オフビートな笑いを踏まえつつ、静謐なムードで物語は進み、様々な謎が明らかになっていく。
捉えどころのない内面が見えない若者・工藤を演じるジュリーも素晴らしいが、世話係として雇われた杉浦直樹演じる大倉というキャラクターが魅力的だ。
普段の控えめな物腰とは裏腹に、女性に対して卑猥な言葉をバンバン投げかけたり、粋がった若者をあしらう時の豹変したオラついた姿が素晴らしい。
高身長な男にアレだけ高圧的に迫られたら、大概の人は黙らざる得ないだろうと思わせるだけの説得力と恐怖心を与える。
また、後背位での濡れ場でのワイルドさは驚きだ。
やがてコンピュータが割り出した、工藤と大倉の二人と相性の良い女性であるコンパニオンの梢(樋口可南子)が現れ、奇妙な共同生活は三人になった。
梢はそのつもりで来ているのに、工藤は一向に興味を示さない。
そういう欲望も彼は持ち合わせていないのか。
一方、そっち方面の欲望を丸出しにしている大倉は、好対照に、いやらしいほど、生を謳歌しようとする。
ストイックな工藤は、生に対する執着すらないのかも知れない。
とにかく、ジュリーは樋口可南子に全く反応せず。
それに反して、杉浦直樹が樋口と派手な濡れ場を展開する。
だが、工藤(ジュリー)は女に興味がないかといえば、そんなことはない。
三人の共同生活が普通になった頃、彼らは町に出かけ娼婦を買うのだ。
工藤(ジュリー)は娼婦と激しいセックスをする。
それをその隣の部屋で大倉(須浦直樹)と梢(樋口可南子)が聞いている。
梢は工藤が女にちゃんと興味を持っているのに驚くのであった。
(工藤の部屋に聞き耳を立てる大倉と梢)
このあたりの展開も、この映画の特異な部分だ。
こういう異常な演出は、森田監督の持ち味だ。
全くへんてこりんな監督なのだ。
森田監督の前作「家族ゲーム」の背景は、狭隘な都会で、草枯れた埋め立て場、人工芝の校庭、窓外は工場の煙突が立ち並んでいた。
この作品では一転して海あり、山あり、湖あり、といった広々とした空間に変わっている。
この頃、森田監督はいろいろと実験していたのだろう。
「家族ゲーム」でも、家族全員と松田優作が繰り広げる息子の入学祝記念パーティからの食い物の投げ合いという、訳の分からないエンドが気違いじみていた。
そういう狂人的な気味の悪い映画作りという点では本作も共通している。
森田芳光という人間の頭の中には、世の中の不条理と狂気を表現したいという欲望があるのだろう。
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