「暖簾」
1958年6月15日公開。
山崎豊子の同名小説の映画化。
原作:山崎豊子「暖簾」
脚本:八住利雄、川島雄三
監督:川島雄三
キャスト:
- 八田吾平:森繁久彌
- 八田吾平(十五歳):頭師孝雄
- 八田千代:山田五十鈴
- 八田辰平:小原新二
- 八田孝平:森繁久彌 - 二役
- 八田孝平(十七歳):頭師正明
- 年子:環三千世
- 年子(十二歳):渡辺昇子
- 浪花屋利兵衛:三代目中村鴈治郎
- 浪花屋きの:浪花千栄子
- 浪花屋信之助:山茶花究
- 浪花屋ゆき:汐風享子
- お松:乙羽信子
- お松(少女時代):竹野マリ
- 清助:海老江寛
- 定吉:田武謙三
- 定吉(十五歳):畑義温
- 定吉の女房:吉川雅恵
- 松吉:内藤栄造
- のぶ子:中村メイコ
- 城口:夏目俊二
あらすじ:
八田吾平が、たった三十五銭をにぎって淡路島から大阪へ飛び出して来たのは十五歳の時のこと。
ふとしたことから昆布屋の主人・浪花屋利兵衛に拾われてから十年、吾平は大阪商人の土性骨とド根性をいやというほどたたき込まれた。
吾平が二十五歳の時、主人利兵衛から暖簾を分けられた。
先輩の番頭をさしおいて。吾平の夢はふくらんだ。
丁稚の昔から何くれとなく心をつかってくれるお松と一緒になれると思って。
ところが、利兵衛は、吾平を見込んで姪の千代を押しつけて来た。
これには吾平も驚いたが、ついに千代と結ばれた。
しかし利兵衛が見込んだだけあって千代は立派な嫁であり、吾平も頑張った。
昭和九年、すでに吾平も一人前の昆布商人になっていた。
ところが、ようやく飛躍しようとする矢先、台風と水害が襲った。
しかしこれも千代の助けで、「暖簾は大阪商人の魂だす、これ程確かな抵当はおまへん」という吾平の捨て身の交渉で銀行からの融資がつき、切り抜けた。
それから十年、わいの女房が自由にならへんのと同じやとぼやく吾平を尻り目に、戦争はすべてを奪い去った。
敗戦--今は荷受組合の役員としてわずかに昔をしのぶ吾平の前に、もっとも頼みにしていた長男の辰平は再び現われなかった。
しかし、思いもかけぬ呑気坊主の次男・孝平の活躍で株式会社浪花屋は再建された。
商売のやり方が当世風に華美なのが吾平には気に入らなかった。
しかし華々しく浪華屋の店開きがあった日、突然の病魔に倒れた吾平の頬には微笑がただよっていた。
あたかも、客を迎えるかのように--。
波瀾に富んだ吾平の一生は終った。
しかし、暖簾の伝統はしっかり受けつがれるだろう。
コメント:
原作となっているのは、山崎豊子の同名小説。
「信じておくれやす、暖簾は商人の命だす――。」
大阪商人の気骨を描き切った山崎文学の原点。
一介の丁稚から叩きあげ、苦労の末築いた店も長子も戦争で奪われ、ふりだしに戻った吾平。
その跡を継いだのは次男・孝平であった。
孝平は、徹底して商業モラルを守り、戦後の動乱期から高度成長期まで、独自の才覚で乗り越え、遂には本店の再興を成し遂げる。
親子二代“のれん”に全力を傾ける不屈の気骨と大阪商人の姿を描いた山崎豊子の処女作。
山崎豊子の生家の昆布屋をモデルにした親子二代の商人の物語である。
物語は、大阪の昆布屋が舞台。この店の主人(中村鴈治郎)に付いて来て「奉公させてほしい!」と頼む少年。
この少年が暖簾をくぐる時に「暖簾をくぐる時はお辞儀をして、丁寧にくぐるように!」と主人から言われるあたりが印象的。
その子供が一生懸命に働いて大人になり、この店の暖簾分けを受ける。これが森繁久彌。
森繁久彌は幼馴なじみの乙羽信子と結婚したかったが、主人の命により山田五十鈴と夫婦になる。
そして、台風被害を受けたりしながらも、たくましく商人として生きていく。
世界第二次大戦、戦後の頑張り、自分の子供(森繁久彌(二役))との意見ぶつけ合いなどが描かれていく。
川島雄三監督のセンスが光る佳作であった。
ある男(主人公)の一生を描くドラマは、山崎豊子の得意とする分野だが、このデビュー作から続いている。
この女流作家の作品は、『白い巨塔』・『華麗なる一族』・『不毛地帯』・『女の勲章』・『ぼんち』など、たくさん映画化されている。
森繁久彌が演じる主人公・八田吾平をしっかり支え続けるその妻・千代を山田五十鈴が演じている。
こういう役柄がこの女優の最も得意とするところだろう。
戦前戦後の苦難を乗り越える夫婦の模範となる秀逸な作品を創り上げている。