「紳士協定」
(原題:Gentleman's Agreement)
1947年11月11日米国公開。
1987年10月9日日本公開。
第20回アカデミー賞にて作品賞・監督賞(エリア・カザン)・助演女優賞(セレステ・ホルム)の3部門を受賞。
興行収入:390万ドル。
脚本:モス・ハート
監督:エリア・カザン
出演者:
グレゴリー・ペック、ドロシー・マグワイア、セレステ・ホルム、ジェーン・ワイアット、ジョン・ガーフィールド
あらすじ:
妻に先立たれ、幼い息子トミー(ディーン・ストックウェル)と老いた母(アン・リヴェール)との暮らしが続く人気ライターのフィリップ、通称フィル(グレゴリー・ペック)。
彼は、週刊スミスの編集長ミニフィ(アルバート・デカー)の招きでカリフォルニアからニューヨークに移り、早速反ユダヤ主義の記事を依頼された。
この記事の発案者は、ミニフィの姪キャシー(ドロシー・マグワイア)で、フィルは彼女に心を動かされる。
ともかく今回の仕事は厄介だった。
幼馴染みでユダヤ人のデヴィッド(ジョン・ガーフィールド)に相談しようかとさえ悩んだ末、フィルは自分自身でユダヤ人になり切ることにする。
社の幹部との昼食会で、ユダヤ人だと名乗ったため、噂はあっと言う間に広まった。
真実を知っているのは、母、トミー、ミニフィ、キャシーだけだ。
フィルの秘書も実はユダヤ人だが、それが知れると雇ってもらえなかったとフィルに告白する。
フィルがユダヤ人と知ると、人々は急によそよそしくなる。
そんなおり、社の同僚のアン(セレステ・ホルム)のパーティに出席し、フィルはキャシーに求婚する。
そしてキャシーはフィルを姉ジェーン(ジェーン・ワイアット)に紹介するため、コネチカットの家を訪れたりしていると、デヴィッドが帰国。
彼をユダヤ人だからと罵ったり、フィル達のハネムーン先のホテルがユダヤ人を理由にキャンセルしたりと、現実にこの問題は大変根深かった。
このことがこじれ、フィルとキャシーの間にも溝ができた。
そしてようやくフィルの記事が発表された。
内容の素晴らしさが評価されると共に、実はユダヤ人でなかったとフィルに対する見方も変わる。
差別や偏見に目をそむけていたキャシーは、デヴィッドに悩みを打ち明け、彼の助言でフィルとやり直しを決意。
デヴィッドもコネチカットの山荘をかりて人生をやり直す決心をした。
コメント:
ユダヤ人への差別を取り上げた映画で、当時としては画期的な作品だった。
それが原因かどうかは不明だが、本作は米国での封切が1947年11月11日だったにもかかわらず、日本公開日は、なんと40年後の、1987年10月9日なのである。
人種差別というテーマは、単一民族の日本にとっては取り扱いが昔から難しいようだ。
印象的だったのは、トミーが罵られて帰った来た時の、キャシーの言葉だ。
優越感という言葉を中心にして、それがクリスチャンとユダヤ人、美男と醜男、金持と貧者、健常者と病人、と対比され、ハンデキャップを負っていないことの優越感を放棄しようとしているが、優越感は偏見でなく現実であると。
人間は常に優越感を持つために、差別を作り続ける動物なのだ。
グレゴリー・ペックを中心に、ドロシー・マクガイア、ジョン・ガーフィールド、セレステ・ホルム、アン・リヴィアと、名優たちがそれぞれに熱演していて、素晴らしい映画になっている。
同僚のアンを演じたセレステ・ホルムが、オスカーの助演女優賞を獲得した。
ジョン・ガーフィールドやアン・リヴィアの演技も印象に残る。
古き良きハリウッドの映画作りの雰囲気が良く出ている。
エリア・カザンは、ギリシャ人の血を引く著名な監督。
代表作は、本作のほかに『欲望という名の電車』、『波止場』、『エデンの東』など。
多民族国家によって構成されたアメリカ社会のでの民族間の反目や排他感情の中で、白人の黒人に対する差別やアンチ・セミティズム(ユダヤ人排斥感情)は当時根深いものがある。
特にユダヤ人排斥の事実や運動を映画に取り上げることは長いことタブーとされてきた。
しかし、『紳士協定』はその問題をテーマにしたはじめての作品である。
20世紀フォックスのプレステージ作品として構想されたこの作品は、ローラ・Z・ホブスンのベストセラー小説に基づき、モス・ハートが脚色し、社会派の監督エリア・カザンが監督した注目作だ。
この作品が、この年のオスカー受賞作品に選ばれ、カザンは監督賞も受賞したことの意義は大きい。
ハリウッドの映画人にはユダヤ人が多く、ザナックがロスのゴルフクラブにユダヤ人と誤認され入会を拒否されたことが映画製作のきっかけとなった。
ハリウッドの映画人としては画期的な勇気ある社会劇として評価されたのである。
原題の「Gentleman's Agreement」とは、いわゆる不文律(暗黙の了解)の1つ。
国家や団体、および個人間における取り決めのうち、公式の手続きや文書によらず、互いに相手が約束を履行することを信用して結ぶこと。
ある取り決めが文面に書かれていなかったり、サインがなかったりしたとしても、両者がお互いを完全に信頼する前提での合意をいう。
この不文律を意味する言葉が、本作のタイトルになっているというのは、なぜだろう。
このことが意味することは、相当深いのではないだろうか。
お互いに口には出さないが、「人種差別」という世間の常識になっていることへの問題提起なのだろう。
グレゴリー・ペック扮する主人公がユダヤ人をよそおって、ユダヤ人排斥運動の実態を暴いていくサスペスフルなドラマで、ドロシー・マクガイア、ジョン・ガーフィールド、セレステ・ホルム、アン・リヴィアといった第1線級の共演者、助演者で固められている。
ペックは主演男優賞にノミネートされたがオスカーを逸し、セレステ・ホルムが助演女優賞に選ばれている。
日本での劇場公開は米国より40年ほど遅い1987年10月で、シャンテ シネ2(現在のTOHOシネマズシャンテスクリーン2)の開場番組であったという。
日本公開時のキャッチ・コピーは「いま、答えてほしい! あなたも“紳士協定”に組する人なのか-」。
こんなキャッチ・コピーをいきなり張り出されても、その頃の日本人は何もコメントできなかっただろう。
もしかしたら今でも無理かも。
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