「春琴抄 お琴と佐助」
1935年6月15日公開。
谷崎潤一郎の耽美主義の極致といわれる名作を映画化。
第12回キネマ旬報ベスト・テン第3位。
原作:谷崎潤一郎「春琴抄」
監督・脚本:島津保次郎
キャスト:
- 春琴:田中絹代
- 佐助:高田浩吉
- 利太郎:斎藤達雄
- 安左衛門:藤野秀夫
- しげ女:葛城文子
- 正木吉:坂本武
- 春松検校:上山草人
- 加平:水島亮太郎
- ならず者の親父:武田春郎
- 直吉:磯野秋雄
- 店員:小藤田正一
- 貞造:河村黎吉
- お楽:松井潤子
- 春琴の姉:坪内美子
- 医者:野寺正一
- 春琴の弟子:大塚君代
- 春琴の弟子:小桜葉子
- 美子:村瀬幸子
- 若旦那:小林十九二
- 若旦那:大山健二
- 若旦那:山内光
あらすじ:
大阪にある薬屋の次女である琴は、幼少の頃から琴や三味線を習っていた。
しかしその後、病気で失明してしまう。
そして琴は、三味線奏者として「春琴」と名乗るようになる。
春琴の身の回りの世話をするようになったのは、佐助という少す。
わがままなお嬢様気質の春琴は、佐助を振り回す。
また、佐助は三味線を学び始め、その師匠に春琴がつくことになる。
春琴は、佐助が泣き出すような厳しい稽古をした。
やがて、春琴の妊娠が発覚する。
ところが春琴と佐助はお互いに関係を否定し、結婚もしなかった。
春琴が生んだ佐助そっくりの子供は、里子に出された。
春琴が20歳になったころ、春琴の師匠が亡くなる。
これを機に、春琴は家を出て三味線奏者として独立した。
佐助もそれに付いて行き、入浴の手伝いやトイレでの世話などをして、かいがいしく仕える。
そんなとき、利太郎という金持ちの息子が春琴に弟子入りする。
彼は、美しい春琴が目当てだったため、彼女を口説こうとするが、春琴は軽くあしらう。
さらに春琴は、態度の悪い利太郎をぶち、けがをさせてしまう。
利太郎は、「覚えてなはれ」と言って立ち去る。
その一か月半後、春琴は家に忍び込んだ何者かに熱湯をかけられ、大火傷を負ってしまう。
春琴はただれた自分の顔を見せまいと、佐助を自分に近づけようとしない。
そのあと、春琴の気持ちを思う佐助は、なんと自分の両眼を針で突いて失明した上で、春琴に使えるようになった。
そして、佐助は春琴から「琴台(きんだい)」という名前を与えられ、春琴の弟子の世話を引き受けた。
春琴と佐助の主従関係はその後も変わることはなかった。
コメント:
「春琴抄」は、谷崎潤一郎による中編小説。
盲目の三味線奏者・春琴に丁稚の佐助が献身的に仕えていく物語の中で、マゾヒズムを超越した本質的な耽美主義を描く。
「春琴抄」の最初となった映画化作品である。
封切と同時に大ヒットとなり、翌週も続映されたという。
以下の通り何度も映画化されている。
- 1935年『春琴抄 お琴と佐助』(制作:松竹蒲田、監督:島津保次郎)
- 春琴:田中絹代 / 佐助:高田浩吉
- 1954年『春琴物語』(制作:大映、監督:伊藤大輔)
- 春琴:京マチ子 / 佐助:花柳喜章
- 1961年『お琴と佐助』(制作:大映、監督:衣笠貞之助)
- 春琴:山本富士子 / 佐助:本郷功次郎
- 1972年『讃歌』(制作:近代映画協会・日本アート・シアター・ギルド、監督:新藤兼人)
- 春琴:渡辺督子 / 佐助:河原崎次郎
- 1976年『春琴抄』(配給:東宝、監督:西河克己)
- 春琴:山口百恵 / 佐助:三浦友和
- 2008年『春琴抄』(制作:エースデュースエンタテインメント・日本出版販売・ワコー・ビデオプランニング・アールグレイフィルム、 監督:金田敬)
- 春琴:長澤奈央 / 佐助:斎藤工
原作者の谷崎潤一郎も認めたという、見事な映像化。
田中絹代は、お琴さんにしか見えず、愛おしい。
日本映画黎明期のはずなのに、ひとつのピークを感じさせもする高い完成度。
助監督豊田四郎、吉村公三郎、撮影助手木下惠介という裏方も豪華。
江戸末期の舞台作品なので、昭和10年の制作当時としても100年近く前の古い時代を再現した作品。
身分違いの純愛を描いた作品であり、盲目の世界という異色の分野での男女の恋を突き詰めた谷崎文学の名作を見事に映画化している。
田中絹代も高田浩吉も自然で素晴らしい。
春琴を演じた田中絹代の江戸時代のお嬢様ぶりが見事な絵になっている。
佐助を演じている高田浩吉は、松竹を代表する時代劇俳優で、忠臣蔵や新選組など多くの作品で主役級の活躍をした。
本作の公開当時、すでに「歌う映画スター」として人気若手俳優になっていたが、本作での春琴の世話をする下男の立場を終始演じ切っている。
身分の違いを意識しながらも、春琴に心底惚れている姿をこれほど徹底して演じている役者魂は驚嘆に値する。
本物の春琴と佐助を見ているようだ。
田中絹代のラストでのこの一言:
「佐助、もうなんも言わんといて。いつまでもこうして、ふたりの世界で暮らそう」
このセリフが本作のクライマックスだ。
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