「美徳のよろめき」
月丘夢路、葉山良二、三國連太郎、宮城千賀子、信欣三、安部徹、芦田伸介、渡辺美佐子、高田敏江、南田洋子、西村晃、北林谷栄
あらすじ:
名門の家に育ち、倉越一郎(三國連太郎)と親の決めた結婚をした節子(月丘夢路)。
彼女は、幼稚園に通う男の子の母としても、平凡な生活を送っていたが、その中には自分でも知らぬ官能の天賦がひそんでいた。
夫婦のいとなみも間遠くなったこの頃、彼女は結婚前に避暑地で、拙劣な接吻を交した土屋(葉山良二)という青年を思い出し、彼と再び交際をもつようになった。
節子は道徳的な恋愛、空想上の恋愛をすることにきめ、それ以上は青年と深入りしまいと考えていた。
だが二度目のあいびきの折、「真裸で御飯を食べたら」という土屋の話をきき、その情景を空想しながら眠れぬ一夜をすごした。
その後間もなくして、夫に偽って土屋と旅に出たホテルで、二人は肉体的な関係をもつようになり、真裸の朝食をとって以来、節子は土屋と会うたびに自分の体を男にまかせた。
そのうち彼女は夫の子供を懐妊したが、「不義の受胎」として中絶した。
その後も、土屋の前で酔いしれたあげく、夫にその場を発見されたり、快楽と苦痛の逢引を重ねていた。
しかし、たまたま友人の与志子が情夫に刺されたという新聞を読み、その夫が会社を辞めたときくと、そろそろ土屋との関係を断とうと考えはじめた。
それは夫のためでも家のためでもない。
自分のつくり出した恋愛を、自分の手で断とうという、一つのためしであり、土屋と会うたびに彼女は「別れ」という言葉を口にした。
土屋もそういう節子の気持を理解し、一度の接吻を交しただけで大阪に去った。
だが、男がいなくなってしまうと、節子はこの「別れ」が想像以上に苦しいものであることを知った。
その苦しさを、激しい恋の手紙に書きつらねたが、その手紙は彼女の手で破りすてられた。
コメント:
三島由紀夫の同名小説を新藤兼人脚本、中平康監督で映画化。
中平康は、増村保造、岡本喜八、市川崑、鈴木清順らと共にモダン派と称された異色の監督。
代表作品は、石原裕次郎を一躍有名にした「狂った果実」。
名家の娘(月丘夢路)が育ちの違う実業家(三國連太郎)と結婚するが、学生時代に恋仲だった男(葉山良二)に再会して、親友(宮城千賀子)に画策してもらい一泊旅行に出かけて“よろめく”というストーリー。
流行語大賞という賞がある。
この映画が1957年に公開されると「よろめき」という言葉が大流行した。
まさに、この年の流行語大賞ともいえる新語だった。
「不倫は文化だ」という石田純一の名言が生まれる前は、不倫のことは、「よろめき」と言ったのだ。
代々の名家だった家に生まれた女性が、実業家の男に嫁ぎ、子供も成して、何の不自由もない身分なのに、不倫に走るというお話。
実業家の主人に扮するのが三國連太郎。
この男は、立派な家に住み、上品な妻を持っているが、くちゃくちゃ音を立てて食事をする卑しい成り上がり者だ。
どんな配役にもなれるカメレオンのような三國連太郎が、金持ちではあるが卑しい習性を捨てられないカッコ悪い男を演じ切っている。
こんな男と一生同じ屋根に住むならば、せめてつかの間でも別の世界を持ちたいと妻が思うのはしごく自然な成り行きだ。
不倫妻を演じる月丘夢路がお上品で和服が良く似合っており、本作のヒロインにぴったり。
令和の現代とは異なり、一流ホテルでのこんな行状は相当勇気がいることだったと偲ばれる。
親友の女性に扮する宮城千賀子は、オーラがあり、かっこよかった。
不倫相手の葉山良二は、真面目そうでワルの雰囲気がゼロ。
この映画の雰囲気にぴったりの好青年を演じている。
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