「柳生一族の陰謀」
1978年1月21日公開。
東映が社運を賭けた大型時代劇。
配給収入: 16億2100万円(1978年ランキング第3位)。
脚本: 野上龍雄・松田寛夫・深作欣二
監督: 深作欣二
キャスト:
- 萬屋錦之介 : 柳生但馬守宗矩
- 千葉真一 : 柳生十兵衛三厳
- 松方弘樹 : 徳川家光
- 西郷輝彦 : 徳川忠長
- 大原麗子 : 出雲の阿国
- 原田芳雄 : 名護屋山三郎
- 志穂美悦子 : 柳生茜
- 工藤堅太郎 : 柳生又十郎宗冬
- 矢吹二朗 : 柳生左門友矩
- 室田日出男 : 根来左源太
- 真田広之 : ハヤテ
- 浅野真弓 : マン
- 中谷一郎 : 天野刑部
- 丹波哲郎 : 小笠原玄信斎
- 高橋悦史 : 松平伊豆守信綱
- 夏八木勲 : 別木庄左衛門
- 成田三樹夫 : 烏丸少将文麿
- 中原早苗 : 春日局
- 金子信雄 : 九条関白道房
- 芦田伸介 : 土井大炊頭利勝
- 山田五十鈴 : 崇源院於江与
- 三船敏郎 : 尾張大納言義直
あらすじ:
元和九年五月十一日、徳川二代将軍秀忠が江戸城大奥にて病死した。
将軍秀忠の死は、発病後わずか二時間という文字通りの急死であり、そこに不自然な異変の匂いを嗅ぐ者もいたが、大奥御典医は、食当たりによる中毒死として発表する。
三代将軍の座は秀忠の長男の家光が継ぐべきはずであった。
しかし亡き秀忠は次男の駿河大納言忠長を溺愛し、秀忠夫人の崇源院於江与も、また時の天皇御水尾帝の妃となっていた長女の和子も、次期将軍には忠長を切望していた。
熱心な忠長擁立派の老臣たちも多かったが、若手老中松平伊豆守信綱や春日局の一派は、あくまでも家光を推してゆずらず、大阪夏の陣以来十余年の安定に馴れた天下は、再び動乱の兆を見せ始めた。
家光を推す松平伊豆守は、今後の策を相談するため将軍家剣法指南役の柳生但馬守宗矩を訪ねた。
そして、但馬守は長男の十兵衛三厳を忠長のいる駿府城下にもぐらせ、又土井大炊頭の近辺を見張らせる。
数日後、駿府に戻った大納言忠長のために自由の身となって尽くすべく、土井大炊頭は病気保養という名目で老中職を退く。
一方、家光側では対抗策として松平伊豆守を老中に、柳生但馬を大目付に据えて、家光陣営の強力をはかった。家光と忠長の争いは将軍職争奪の一点に絞られる。
松平伊豆らは御所を訪れ、家光への将軍宣下の詔勅を待ち受けるが、京都宮中の思惑がからみ、返事は得られなかった。
そんなある夜、江戸城西丸大奥で家老は、侍女に化けた玄信斎の弟子、歌舞伎役者の雪之丞に襲われる。
この事件を機に、但馬守の忠長派打倒は急がれた。但馬守は十兵衛を京都ヘ仕わし、宮中一のきれ者といわれる文麿を討たせる。
文麿の死に戦慄した朝廷は、直ちに勅使を江戸に下らせ、弁明と慰撫に当らせる。
そして、間もなく家光の上洛が決まった。衝撃を受けた忠長は重臣と策を練り、家光より先に京都へ入り、朝廷と話し合うことを決意する。
その頃、家光の行列が、駿府城下の浪人軍に襲われ、三条大納言実条が殺された。
この襲撃は、忠長の仕業に見せかけようと、但馬守が根来衆を使って仕組んだものであった。
家光は諸大名に檄をとばし、忠長との一戦も辞さずと、決意を披瀝する。
忠長は、一戦を混じえる覚悟であったが、信頼を寄せる大納言義直の説得で開城に承知する。
そして忠長は上州高崎へ配流された。
数日後、家光襲撃は但馬守の陰謀であったとの報を耳にした義直は、但馬守を問い正すが、彼は強く否定する。
その直後、但馬守は息子又十郎に命じ、根来衆を惨殺させる。
根来衆と十余年を共に過ごした十兵衛はそれを知り、父・但馬守への復讐の念に燃える。
その怒りは三代将軍についた家光の首をとることによって示された。
そして、柳生一族の陰謀の渦中に展開した闘争も、但馬守と十兵衛の宿命の対決を迎えるに至った。
それはまさしく、徳川家の輝しい歴史の中に消えていこうとする、父と子の姿でもあった。
コメント:
徳川二代将軍秀忠が病気のため急死した。
三代将軍は秀忠の長男である家光が継ぐべきだったが、秀忠を始め家族たちはみな次男の忠長を次期将軍に推していた。
家光派の松平伊豆守は柳生但馬守宗矩に相談。
こうして血で血を洗う権力闘争の火ぶたが切って落とされるのであった。
この映画が成功した一因は、仁義なき戦いの構造をそのまま取り入れて、史実を無視した荒唐無稽なストーリーにある。
肩入れする家光を将軍の地位につけるために卑怯で非道な権謀術数を実行する柳生宗矩の悲しさすら演じきった萬屋錦之介の大仰な演技が印象に残る。
剣豪として最強を追求しながら、最後は父親である柳生宗矩との対決をすることとなる柳生十兵衛を千葉真一が演じて、はまり役になった。
本作以降、千葉真一は柳生十兵衛役や服部半蔵役など多くの時代劇映画に主演することとなる記念すべき作品。
デビューしたての真田広之、志穂美悦子の初々しい熱演も見応えがある。
忠長(西郷輝彦)と出雲のお国(大原麗子)との身分違いの恋など様々な要素も盛りだくさん。
監督に深作欣二を配し、全編に個性際立つ俳優たちを散りばめた、くんずほぐれつの集団抗争劇は、まさに「仁義なき戦い」の変形亜種といっても過言ではない異色のエンタメ時代劇だ。
特に、ラストで三代将軍・家光の首を取る十兵衛と、それを抱えて「夢でござる。夢じゃ、夢でござーる!」と叫ぶ宗矩役の錦之助の演技は、すべての観客をくぎ付けにするものだ。
萬屋錦之介という俳優は、満4歳になる直前に歌舞伎の初舞台を踏み、21歳で歌舞伎界を引退して映画界に入った人物だ。
完ぺきに歌舞伎を演じられる俳優だけあって、この場面でのセリフは完全に歌舞伎役者のものだ。
本作の最大のテーマは、「徳川三代将軍はだれになるか」ということ。
だが、虚々実々の闘いの末、ようやく本命である長男の家光に固まった直後に、このラストになるとは。
この主人公たるべき家光役を演じたのが、松方弘樹。
最後に首を取られるという死に方。
これまで何度もやくざ映画で殺される役を演じてはきたが、この死にざまは、誰もが予想だにしないシーンだ。
殺される役を演じさせたら、松方弘樹は邦画界で間違いなく第一位だ!
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