「妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII」
2018年5月25日公開。
「家族はつらいよ」シリーズ第3作。
興行収入: 9億4600万円。
脚本:山田洋次、 平松恵美子
監督:山田洋次
出演者:
橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優、風吹ジュン、小林稔侍、笹野高史、笑福亭鶴瓶、立川志らく
あらすじ:
三世代が同居する平田家。
主婦の史枝(夏川結衣)は、育ち盛りの息子ふたりと夫・幸之助(西村雅彦)、その両親と暮らしている。
ある日、家事の合間にうとうとしていた昼下がり、家に泥棒が入り、冷蔵庫に隠しておいたへそくりを盗まれてしまう。
「俺の稼いだ金でへそくりをしていたのか」と夫から嫌味を言われ、余りに気遣いの無い言葉にそれまで溜まっていた不満が爆発した史枝は、家を飛び出してしまう。
一家の主婦が不在となった平田家は大混乱。
身体の具合の悪い幸之助の母・富子(吉行和子)に代わり、夫の周造(橋爪功)が掃除や洗濯、食事の準備と慣れない家事に挑戦するが、長くは続かない。
家族揃って史枝の存在のありがたみをつくづく実感する。
だが、史枝が戻ってくる気配は一向になく、緊急の家族会議が始まる。
コメント:
大家族の生活を通して家族問題を扱う「家族はつらいよ」シリーズの第3作。
今回は主婦の労働問題を扱っている。
家事の労働評価を正面から取り上げている。
今こそこの映画からジェンダー問題を学ぶべし!
主婦という言葉はもう古い。
男女雇用均等法という法律も施行されて、今はもう男女が家事を平等に分担する時代なのだ。
この「家族はつらいよ」は、「男はつらいよ」シリーズ終了後、新たに始まった山田洋次の肝煎りのシリーズだ。
前作では、熟年離婚をテーマにして、主婦の独立心を大いに啓蒙した。
本作では、主婦業のあり方を追求している。
もはや、主婦という言葉は死語だ。
夫も家事をすることが全く自然な時代だ。
家事手伝いではなく、主体的に家事をするのだ。
主夫という言葉はまさにそれを表している。
家族それぞれが、思ったことを口にすることはなかなか難しいのが現実なのだが、この家族はそれができるから痛快だ。
この家族同士のやり取りがかなり面白く、大いに笑える。
この映画の良いところは、そこだ。
毎度おなじみ平田家の人々が巻き起こすてんやわんやの一幕。
今回のテーマは主婦の家出だ。
毎日の家事労働から解放された、夏川結衣扮する史枝の生き生きした表情を捉える山田洋二監督の目が鋭い。
寅さんシリーズにも通じる家族の有りようを見つめる山田監督の人間観察が際立つ。
安心してみていられる日本映画の良き定番だ。
今やジェンダー問題と称して、女性の社会進出の推進や家庭内での夫の義務がクローズアップされている。
3年前に、この問題を考えさせる家事を誰がすべきかを問うこの映画を制作した山田洋次の功績は大きい。
このシリーズの主な観客は、中高年の男女が多い。
その世代にジェンダーというテーマを突きつけた山田洋次は、時代の動きに敏感だ。
山田洋次監督は、多くの作品を世に出してきた。
その中でバックボーンとなっているのは、やはり「男はつらいよ」シリーズだ。
日本中を旅しながら生きているテキやという職業をライフワークにしている「ふうてんの寅」というキャラクター。
実際に昔はそんな人物がいたのかも知れないが、令和の時代には存在しないだろう。
それと同じように、「家族はつらいよ」に出てくる三世代が一つ屋根の下で暮らす家庭も、都市部ではもうほとんど見かけないようになってきた。
山田洋次は、おそらくそんな昔の人や家族たちを日本人の心の故郷として我々が思い出せるように生涯の仕事として続けてきたのではないだろうか。
人がびっくりするような映画制作に集中した黒澤明監督などとはある意味正反対の地味な作品をひたすら作り続けてきた山田洋次監督の偉業に賛辞を贈りたい。
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