「おとうと」
1960年11月1日公開。
幸田文の同名小説「おとうと」の映画化。
キネマ旬報第1位。
同監督賞受賞。
原作:幸田文「おとうと」
脚本:水木洋子
監督:市川崑
出演者:
岸惠子、川口浩、田中絹代、森雅之、仲谷昇、浜村純、岸田今日子
あらすじ:
げん(岸恵子)と碧郎(川口浩)は三つちがいの姉弟である。
父親は作家で、母親は二度目であり、その上手足のきかない病で殆ど寝たきりだった。
経済状態も思わしくなく、家庭は暗かった。
碧郎が警察へあげられた。友だちと二、三人で本屋で万引したのが知れたのだ。
しばらくたったある日、げんは鳥打帽の男に呼びとめられた。
男は警察の者だと名のり、碧郎や家のことを聞いた。
男は毎日のようにつけ始めた。
そんなげんを碧郎は「親がちょっと名の知られた作家でよ、弟が不良で、お母さんが継母で、自分は美人でもなくて、偏屈でこちんとしている娘だとくりゃ、たらされる資格は十分じゃないか」というのだった。
転校してからも碧郎の不良ぶりははげしかった。
乗馬にこりだし、土手からふみはずして馬の足を折ってしまった。
碧郎はその夜童貞をどこかへ捨てた。
二年たった。十七になった碧郎に思わぬ不幸が訪れた。
結核にやられたのである。
湘南の療養所へ転地し、げんが附きそった。
死が近づいてくるのを知った碧郎は、げんに高島田を結うよう頼んだ。
「姉さんはもう少し優しい顔する方がいいな」といいながらも、げんの高島田を見て碧郎はうれしそうだった。
父が見舞いに来た時は、治ってから二人で行く釣の話に夢中だった。
足をひきずってきた母には、今までになく優しかった。
夜の十二時に一緒にお茶を飲もうと約束して寝たげんは、夜中に手と手をつないだリボンがかすかに引かれるのを感じて目を覚ました。
医者が来た。
父や母も飛んできた。
「姉さんいるかい」それが碧郎の最後の言葉だった。
風のある晴れた寒い夜だった。
コメント:
1960年キネマ旬報で、2位以下を圧倒的大差で引き離しての第1位。
日本の文芸作品らしい映画を見たという実感が残る。
美しい映像と素晴らしい演技で、日本の文芸作品を堪能できる。
なんといっても、岸恵子の表情が美しい。
愛する弟をいつも大切にして毎日彼のめんどうをみる姿が輝いている。
そんな愛しい弟が亡くなる瞬間までの彼女の生き方を描く素晴らしい映画だ。
市川監督が、独特の映像で観客を楽しませてくれる。
通りを歩く人々を真上から捉えたり、躍動感ある遊びのショットは、望遠のアップで抑える。
細かい説明を排した思いきった場面繋ぎは実にすっきりと潔くテンポも心地良い。
この作品では時代の雰囲気を出すために彩度を落としコントラストを残す現像方法「銀残し」が初めて使われた。
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