「世界を賭ける恋」
1959年7月12日公開。
石原裕次郎と浅丘ルリ子のラブロマンス映画。
原作:武者小路実篤「愛と死」
脚本:棚田吾郎
監督:滝沢英輔
出演者:
石原裕次郎、浅丘ルリ子、永井智雄、 奈良岡朋子、 瀧花久子、 葉山良二、 南田洋子、 清水将夫、 高野由美、二谷英明、梅野泰靖、下絛正巳、赤木圭一郎
あらすじ:
新進建築家・村岡雄二が彼の才能を認める批評家・野々村欽也の妹夏子に初めて会ったのは上野美術館で開かれた、現代美術展の会場だった。
そして、野々村の誕生祝の席上、雄二の才能をねたむ者たちが、不器用さを承知で隠し芸を雄二に強制した。
見かねて助け舟を出したのが夏子だった。
彼女は村岡さんの代りにと言って、宙返りの珍芸を披露した。
雄二の作品がローマのビエンナーレに当選した。
ストックホルムの公使館にいる叔父のすすめから、三カ月の渡欧の話が持ち上った。
雄二は、たとえ三カ月でも夏子と別れたくはなかったが、夏子は彼の渡欧を勧めた。
それから、二人は毎日逢った。
雄二の母や兄も野々村夫妻も、二人の未来を祝福してくれた。
雄二は、スカンジナビア航空の機上の人となった。
白樺林のアンカレージ空港も、グリーンランドの北極海も、パリも、コペンハーゲンも、夏子の面影を追う雄二には、余りにも淋しい、ただそれだけの景観だった。
ストックホルム空港では、従兄の稔が迎えに来ていた。
叔父の家は静かな湖畔にあった。
雄二は、夏子に宛てて毎日手紙を書いた。
夏子からも毎日手紙が来た。
六月三十日、待望の日だ。
雄二は日本へ向けて発った。
しかし、アンカレージに寄港した時、雄二は一通の電報を受け取る。
『ケサ九ジナツコシス」カナシミキワマリナシ」ノノムラ』
雄二は自分の目を疑った。
羽田空港に着いたが、今日の日を誰よりも待っていた彼女の姿はなかった。
「雄二さん、元気をお出しになって」夏子が耳許でそう囁いたように思われた。
雄二は涙に濡れた顔を上げ、力強く歩き出した。
コメント:
武者小路実篤の「愛と死」を原作とする映画。
映画のタイトル「世界を賭ける恋」とは似ても似つかない。
海外旅行が一部特権階級だけにしかできなかった時代のお伽話。
建築家に扮する石原裕次郎と建築評論家の妹を演じる浅丘ルリ子の楽しい恋物語がラスト直前まで続く。
二人は愛し合い、結婚を誓うが、裕次郎がヨーロッパへの招待旅行から帰ると、ルリ子は急病で死んでいたという悲劇のストーリー。
最後に彼女が急病で死んでしまうというあり得ない展開のように見える。
しかし、振り返ってみると、裕次郎が海外招待を受けてもなかなか行く気が起こらないシーンがある。
また、ヨーロッパでの名勝の各地を訪ねても、裕次郎はルリ子のことしか頭になく、旅行を心から楽しんではいないのだ。
これが伏線となっての、ラストになっているのだ。
映画の大部分は、裕次郎とルリ子の恥ずかしくなるような恋愛映画である。
お互いを想い、あからさまに恋を告白する。
それでも浅丘ルリ子が可憐で、裕次郎が格好いいからそれなりに成立している。
特に、浅丘ルリ子の可憐さは素晴らしい。
宙返り(これは吹き替え)を披露したり、劇中歌を歌う。
すその広がったスカート、着物と色んなパターンで目を楽しませてくれる。
欧州でのロケーションと、大胆な空中撮影が素晴らしい。
北欧スウェーデンのロケは、当時としては珍しかっただろう。
裕次郎が兵士に扮して記念写真を撮ってもらうところが笑える。
裕次郎との恋にときめき、結婚を夢見る浅丘ルリ子の溌溂とした演技も素晴らしい。
裕次郎との掛け合いのリズム・テンポがなんとスムーズなこと。
もう立派な日活に人気女優になっているのだ。
この映画の公開当時、ルリ子はまだ19歳の若さだ。
この映画は、今ならYouTubeで全編視聴可能。