「太平洋の地獄」
(原題: Hell in the Pacific)
1968年12月21日公開。
太平洋戦争末期に南太平洋の孤島に漂着した日米両軍の軍人の物語。
出演は、日本人1名と米国人1名のみ。
松竹配給。
興行収入:3.2百万米ドル。
脚本:アレクサンダー・ジェイコブズ、エリック・バーコヴィッチ
監督:ジョン・ブアマン
出演者:
三船敏郎、リー・マーヴィン
あらすじ:
第2次世界大戦の末期。
南太平洋のカロリン諸島の小島に1人の日本海軍大尉(三船敏郎)が漂着し、飢えと孤独の中で生きる道を求めていた。
ある暴風雨の夜、その島にアメリカ海軍少佐(リー・マーヴィン)が救命ボートでたどり着いた。
(ここで2人を仮に、その皮膚の色で、日本人をブラウン、アメリカ人をレッドと呼ぶ)
2人は、豪雨の中で会った。
だが、互いにその正体がわからぬまま、ただ不安がつのるばかりだった。
翌朝、ブラウンは、救命ボートを発見、昨夜の化物の正体がアメリカ兵であることを知った。
灼熱の太陽はレッドの喉を灼いた。
そしてついにブラウンが水を貯めてある貯水布に近づいた。
ブラウンは眠ったふりをしてレッドをつかまえようとしたが逃げてしまった。
そこで、ブラウンは煙でレッドを森からいぶり出すことにした。
だが、レッドは出てこなかった。
翌日、水をめぐって2人の闘いは続いた。
そして遂にその翌朝、レッドはブラウンの捕虜となった。
しかし、この特殊な環境の中で勝者と敗者にどれほどの違いがあろうか。
2人の間には無益な疲労感が残るだけで、ブラウンもレッドを捕虜扱いしている無意味さに気がついた。
2人はこの疎外感を救うにはほかの世界へ脱出するしかないという気持ちに到達、筏をくんで外海に出た。
そして数日後、ついに第2の島へ着いた。
その島にも人影はなかった。
が、そこは旧日本軍の陣地であったらしく、建物、軍服、酒、缶詰などが見つかった。
生きられたという気持ちがゆとりとなったのか、2人は初めて友情を感じ、酒をのみながら、言葉もわからないままに身の上話を始め、徹夜で騒いだ。
そうしているうちに、ブラウンはふと手にしたライフ誌の中に日本兵の死体の写真を見た。
ブラウンの心にレッドは敵だという意識がわいた。
だが、2人はお互いに闘いの空しさを知っていた。
今日もまた島は、南海特有の美しい朝をむかえた。
互いに正装し、2人は、敬礼を交わし、それぞれの方角に去っていった。
コメント:
登場人物は、三船敏郎とリー・マービンの二人だけという異色作。
本作の見どころはまず、三船敏郎がリー・マービンと体格的にも風貌も存在感も全く互角に繰り広げる迫力ある演技。
前半の二人の争いは熾烈で、段々悪ガキの喧嘩みたいになってくるが、ついにリー・マービンは三船敏郎におしっこまでかける始末。
三船さんは「わあ~、汚い、汚い、汚い!」と叫びながら海に突進して汚れを落とす。
そして怒り狂った三船が迫力ある効果音とともに逆光の画面にばーんと立ち上がる。
二人が段々奇妙な友情を感じていく過程も、細かいエピソードの積み重ねで面白く語っている。
無人島での共同生活、太平洋に漕ぎだしてからの地獄、ひとときの安らぎ、不穏な空気、そして『突き放し』の結末。
この作品は戦争や争うことの無意味さを語っているが、それと同じくらい冒険活劇のような面白さを持ち合わせている。
登場人物が二人だけなのにもかかわらず、退屈させない面白さがある。
南大平洋の美しい風景が素晴らしい。
最後に辿り着く島の俯瞰の美しいこと!
ラロ・シフリンの音楽も印象的だ!
元々は、1965年に東宝とベネディクト・プロによる日米合作映画『恐怖の島』として企画されていたものだが、三船がマーヴィンとの出演料の格差に抗議して製作延期となり、その後東宝の手を離れ、ABC出資によりアメリカ映画として完成するに至った。
撮影はパラオで行われた。
100分間で出てくるのはキャスト2人だけという異色の映画で、暑苦しいお芝居で引っ張り続けるパワーが凄い。
ほとんど説明がなくて、何故ここにいるのか? 何者なのか? というものがなくて、ひたすら対立していく姿を映し出していく。
無人島だったところに最初は日本の軍人が生活していて、そこにアメリカの軍人がいることがわかり、殺し合いをしようとするが。
そんなことをやめて、飲み水を奪い合ったり作ったボートを流したりするいじわるをしたり。
お互いを捕まえて捕虜にして上に立ったり。
だが、そんなことしている場合ではないと悟り、竹を使ってイカダを作って無人島を脱出しようとする。
そこから友情が芽生えていく姿が映されていく。
日本人はまるきり英語を理解しないし、アメリカ映画なのにどちらかというとアメリカ人の方が頭が悪く描かれたりしているのが突っ込みどころになっている。
三船敏郎とリー・マーヴィンの芝居で引っ張る力が凄い映画である。
太平洋戦争中、三船は海軍でこそないが陸軍上等兵であり、マーヴィンは海兵隊に実際に所属していた。
この映画のエンディングは2つのバージョンがある。劇場公開版では、2人が口論しているところに突然爆発が起きて唐突に終わってしまうが、DVDに特典として収録されたもうひとつのエンディングは、口論の後、翌朝、2人が身なりを整えた後、お互いに敬礼し合って別れていくという展開になっている。
三船は、監督から『ライフ』に掲載された戦死した日本兵の死体の写真を見て泣いてほしいという指示を受けたが、それに対して「バカを言うな!日本の軍人は泣かんのだ!人前では涙を見せんのだ!」と猛反発したという。
リー・マーヴィンは、ハリウッド俳優として、多くの映画に出演し、『キャット・バルー』でオスカーの主演男優賞も受賞している。
代表作は、『殺人者たち』、『キャット・バルー』、『特攻大作戦』など。
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