「激動の昭和史 軍閥」
1970年8月11日公開。
陸軍大臣から首相になった東条英機(小林桂樹)を描く。
東宝8.15シリーズの第4弾。
脚本:笠原良三
監督:堀川弘通
キャスト:
- 東條英機(陸軍大臣→首相):小林桂樹
- 米内光政(海軍大臣):山村聡(特別出演)
- 東郷茂徳(外務大臣):宮口精二
- 木戸幸一(内大臣):中村伸郎
- 来栖三郎(全権特使):清水将夫
- 近衛文麿(首相):神山繁
- 山本五十六(連合艦隊司令長官):三船敏郎
- 大西瀧治郎(第十一航空艦隊参謀長→第一航空艦隊司令長官):三橋達也
- 南雲忠一(第一航空艦隊司令長官→中部太平洋方面艦隊司令長官):安部徹
- 新井五郎(記者):加山雄三
- 竹田(編集総長):志村喬
- 吉沢(編集局長):清水元
- 山中(政治部長):北村和夫
あらすじ:
二・二六事件の衝撃を利用して、軍部の政治進出がはじまった。
日華事変、日独伊三国同盟、軍部は大陸進攻をつづけながら、着々と国内統制を強化して総力戦体制を作りあげて行った。
軍部の期待を担って近衛内閣が成立し、東条英機が陸相に就任した。
しかし、泥沼に陥った日華事変に焦った軍部は、南方進出を企て、その結果アメリカとの関係は険悪になった。
海軍の米内光政や山本五十六はあくまで対米戦争の不可を強調したが、彼等は次第に孤立化した。
そして近衛内閣は倒壊、次期内閣首班は東条に大命降下した。
その間にも軍部の中には、開戦への大きな流れが渦を巻いており、東条ももはやそれを替えることは出来なかった。
そして開戦。
山本五十六指揮による真珠湾奇襲攻撃の大戦果はかやのそとにおかれていた国民を湧かせるに十分だった。
マレー沖海戦、シンガポール戦略と、戦果は相いついだ。
東条も今までの心労が一気に吹きとんで、大いに意気があがった。
しかし、ミッドウェーの大敗を機に戦局は逆転した。
そしてガダルカナルの悲惨な敗北。
新聞記者新井五郎はこの撤退作戦に海軍報道班員として従軍し、はじめて前線の真相を知った。
だが、大本営は厳重な言論統制をしき楽観的な誇大戦果を発表していた。
新井は弾圧を覚悟で、真実を報道することを決意した。
長い間、真実に飢えていた読者からの反応はすばらしかった。
しかし、軍の反応もまた強烈だった。
新井は報道班員の召集免除の慣例を無視しての陸軍の策動で徴罰召集された。
やがて、サイパン島陥落。
王砕した兵士の中には、新井と一緒に召集された老兵たちも混っていた。
東条批判の声はますます高まり、内閣総辞職を余儀なくされた。
その頃、新井は海軍の尽力で再び報道班員として、フィリピンに赴いていたが、二度と還らぬ特攻機をみながら、戦争をくいとめることが出来たかも知れない新聞人としての自分を責めていた。
しかし、もうすべては遅かった。
敗戦を信じぬかのように東条のあのカン高い声がなおも響いていた。
戦争はそれからなお一年ばかりも続き、激しい空襲に日本の国土も人々も、壊滅的な打撃を受けたのであった。
コメント:
東宝8.15シリーズの第4弾。
陸軍大臣から首相になった東条英機(小林桂樹)を描く異色作。
東条英機を小林桂樹が演じている。
首相になったばかりの東条は、天皇の平和主義の意思を尊重して和平に熱心だったが、戦況の悪化と共に意地になって好戦的になっていく。
このシリーズをコロナ禍の2020年代に観ると、日本の政治家は、昔も今も非常時に情報を冷静に分析したうえで、政治的判断をするということが出来ないのだと、よくわかる。
三船敏郎は、山本五十六を演じている。
昭和11年から20年までの東条英機を中心にしてダイジェストで描いている。
戦闘シーンなどは当時の記録フィルムと挟んだり、過去の東宝の戦争映画を再利用しているんではないかと思われる。
加山雄三の新聞記者が軍部に対する正義として描かれているが、ラストの黒沢年男のセリフでその薄っぺらさが剥がされてしまう。
このセリフこそが、作り手が最も言いたかった事ではないかと思う。
小林圭樹の演技で引っ張られていく作品。
官僚(軍人)とマスコミ…自分たちが国を良い方向に導いていると信じていながら、自分たちの作った世間の流れにがんじがらめになっていく姿が、滑稽でありながらも狂気に見えてしまう。
何故か、今の日本を見ている気がしてくる。
いつの世も、政権中枢とマスコミが国民を欺いているのではないか。
本作は、二・二六事件から広島原爆投下までを描く「激動の昭和史」シリーズ第一作(「激動の昭和史」をシリーズと考えれば)。
東宝8・15シリーズの第四作でもある。
東宝8・15シリーズの第一作である「日本のいちばん長い日」とは内容的に相互補完的な側面はある。
本作は真珠湾攻撃への道及びその後を軍閥の抗争を軸に描いている。
軍閥の抗争と言っても、歴史上、陸軍側と海軍側の対立と単純化はできない。
例えば、陸軍省と参謀本部、海軍省と軍令部では立場が多少異なり、その辺りのニュアンスも本作でも少し描かれている。
ただ、映画化に当たり力強い筋書きのため概ね単純化した史観で描くのはやむを得ない。
本作の一番の特徴は「軍閥の抗争」の視点をマスコミにまで広げていることである。
戦前、新聞記者たちも漠然とした形ではあるが陸軍側と海軍側に分かれていた。
何故そうなるかと言えば、記事にはネタが必要だが、政治関係のネタを提供してくれるのが官僚だけだったからである。
政治家の認識は漠然としていてネタ元にする情報としては使い道のない場合が多い。
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