「復讐するは我にあり」
(Vengeance Is Mine )
1979年4月21日公開。
佐木隆三のドキュメンタリー小説を映画化。
受賞歴:
- 第22回ブルーリボン賞
- 作品賞 / 監督賞 / 助演男優賞(三國連太郎) / 助演女優賞(倍賞美津子)
- 第53回キネマ旬報ベスト・テン
- 監督賞 / 助演男優賞(三國連太郎) / 助演女優賞(小川真由美)
- 第4回報知映画賞
- 最優秀助演男優賞(三國連太郎) / 最優秀助演女優賞(小川真由美)
- 第3回日本アカデミー賞
- 最優秀作品賞 / 最優秀監督賞 / 最優秀脚本賞 / 最優秀助演女優賞(小川真由美) / 最優秀撮影賞
脚本:馬場当・池端俊策
監督:今村昌平
キャスト:
- 榎津巌:緒形拳
- 榎津鎮雄:三國連太郎
- 榎津かよ:ミヤコ蝶々
- 榎津加津子:倍賞美津子
- 浅野ハル:小川真由美
- 浅野ひさ乃:清川虹子
- 柴田種次郎:殿山泰司
- 馬場大八:垂水悟郎
- 畑千代子:絵沢萌子
- 吉里幸子:白川和子
- 河井警部:フランキー堺
- 吉野調査官:浜田寅彦
- 桑田警部補:園田裕久
- 市川刑事:浜田晃
- 口石刑事:辻萬長
- ハルの旦那:北村和夫
- ハルの麻雀友達:火野正平
- ステッキガール:根岸とし江
- 「あさの」の客:佐木隆三
- 質屋の主人:河原崎長一郎
- 駅の助役:金内喜久夫
- 海軍主計中尉:小野進也
- 巌の少年時代:佐野大輔
- 被告の母:菅井きん
- 保護司:阿部寿美子
- 裁判長:石堂淑郎
- 河島弁護士:加藤嘉
- 警官:梅津栄
あらすじ:
九州の日豊本線築橋駅近くで専売公社のタバコ集金に回っていた柴田種次郎、馬場大八の惨殺死体が発見され、現金四十一万円余が奪われていた。
かつてタバコ配給に従事した運転手の榎津厳が容疑者として浮かんだ。
榎津は駅裏のバー「麻里」のママ千代子を強姦、
アパートに連れこんで関係を強要し続けるなど、捜査員の聞き込んだ評判も悪い。
二ヵ月前までは、ヌードダンサー上りで「金比羅食堂」をやっていた吉里幸子と同棲、母子家庭をガタガタにもした。
数日後、宇高連絡船甲板に幸子と両親宛ての榎津の遺書と、一足のクツが見つかり、投身自殺の形跡があったが、警察は偽装と判断。
警官が別府市・鉄論で旅館を営む榎津の実家を訪れると、老父・鎮雄、病身の母かよ、妻・加津子は泣きながら捜査の協力を誓う。
一家は熱心なカトリック信者だが、戦争中、厳は網元をしていた父が軍人に殴られ、無理矢理舟を軍に供出させられた屈辱の現場を目撃して、神と父への信仰を失い、預けられた神学校で盗みを働き、少年刑務所へ送られた。
その後も犯罪と服役を繰り返し、その間に加津子と結婚した。
結婚後、加津子も入信したが、榎津に愛想をつかし離婚するも、その後、尊敬する義父の懇望に従い再入籍。
榎津は出所する度に父と加津子との仲を疑い、父に斧を振り上げるなど、一家の地獄は続いた。
その後、浜松に現われた榎津は貸席「あさの」に腰をすえ、大学教授と称して静岡大などに出没、警察をあざ笑うような行為を重ねる。
さらに、千葉に飛んだ榎津は裁判所、弁護士会館を舞台に老婆から息子の保釈金をだまし取り、知り合った河島老弁護士を殺して金品を奪った。
この頃になると警察史上、最大といわれる捜査網が張り張り巡らされていた。
浜松に戻った榎津の素姓に「あさの」の女主人ハルやその母・ひさ乃も気づき始めた。
しかし、榎津に抱かれるハルは「あんたの子を生みたい!」とその関係に溺れ、元殺人犯で競艇狂いのひさ乃も榎津を逃そうとする。
だが、そんな母娘を榎津は絞め殺し、「あさの」の家財を売り飛ばし、電話まで入質して逃亡資金を貯え、七十八日後、九州で捕まるまで詐欺と女関係を繰り返した。
絞首台に上がる直前、最後の面会に来た父に榎津は「おやじ……加津子を抱いてやれ……。人殺しをするならあんたを殺すべきだった」と毒づく。
残された一家にも重い葛藤があった。
死の床にある母は「私も女じゃけえ、お父さんを加津子に渡しとうなか」と言い続けた。
父も地獄のような家を守ってきた嫁が心底可愛いく、信仰とのはざまに悩みぬく。
そんな義父を加津子は無性に好きだった。
榎津の処刑後、別府湾を望む丘に、骨壷から、榎津の骨片を空に向って投げる、鎮雄と加津子の姿があった。
コメント:
鬼畜な殺人鬼を緒形拳が見事に演じきっている。
その悪人に徹し切った、凄絶なまでの演技力は映画史に残る。
三國連太郎やミヤコ蝶々も表面上は真っ当な人間を装いながらも、どこか心の奥底では闇を抱えていそうな雰囲気を醸し出すことに成功しておりこちらも見事である。
フィクションとして観客を説得させるにはこの親にしてこの子ありという雰囲気を醸し出すのはわかりやすくする上で重要なことだと思う。
本心をひたすら隠す天才詐欺師であり、色情狂でもある榎津巌というモンスターの人物像を描くにあたって、周囲の人物の人間模様は重要で、その脇役達が適材適所で素晴らしい働きをしている。
異色監督の今村昌平の作品中トップの地位を占める力作といって良い。
この映画のタイトル「復讐するは我にあり」は、聖書から来ているのです。
副題の英文「Vengeance Is Mine 」は、ロム記(Rom: 12章19節)から引用されたもの。
神が、復讐をしたいと苦しむ人間に対して「悪人に報復を与えるのは神である」と諭す教えなのです。
「Vengeance Is Mine」を直訳すると:
「復讐は、私のものだ」。
そして、以下のように諭しているのです。
「お前は復讐などを考えず、神の下でいつも通り生きればよい」
「さすれば、必ず、悪事を働いた者に対して、私が罰を与える」
「それを信じて生きることこそ、神の子であるお前の生き方なのだ」
ということで、この映画の主人公である連続殺人鬼とは真逆のことを訴えている聖書の格言です。
このタイトルを採用した裏には、キリスト教徒でありながら、何人もの人を殺め、悪事を繰り返した張本人への贖罪を示唆するような深い意味が込められてるいると解釈します。