「一番美しく」
1944年4月13日公開。
黒澤明監督の第2作。
戦争高揚を目的とした映画。
監督・脚本:黒澤明
出演者:
志村喬、矢口陽子、清川荘司、菅井一郎、入江たか子、谷間小百合
あらすじ:
昭和19年、全国から少女達が徴用を受けて女子挺身隊に組み込まれ、各地の軍需工場で働いていた。
光学機器を生産する東亜光学工業にも数十人が配属、女子寮に寝泊まりしつつレンズの増産に従事していた。
ある日、工場では非常増産強化運動が開始された。
男子が10割、女子が5割と発表されるが、少女達はそれが不服で男子の2/3を達成すると宣言する。
挺身隊の組長・渡辺ツル(矢口陽子)は、少女達をまとめ、成績も着実に伸びていく。
しかし、無理がたたり、怪我人や病人が出てきたことにより、成績は鈍化、挺身隊の結束もほころび始める。
そんな少女たちを所長の石田(志村喬)をはじめとする工場の上司、寮母の水島(入江たか子)が優しく面倒を見るのだった。
だが、内部の鬱積がピークに達したことから喧嘩が勃発。
仲裁するツルに対しても手厳しい批判が浴びせられる。
微熱を隠して働く久江とそれをかばうツルに対する誤解だったことがわかり、皆は仲直りした。
ツルは不注意から未調整のレンズが1個見あたらなくなっていることに気づく。
彼女は2000個あるレンズから未調整分を探し出すため夜を徹する。
早朝ようやく探し当てたツルを優しくいたわる上司達。
寮では水島と隊員達が歓喜で彼女を迎えた。
成績は再び伸び始める。
そんな中、ツルの父から母の死の知らせが入る。
帰郷を促す大人達に、ツルは「一身上の事で公務を棄てて帰ってはいけないと言うのが母の口癖だった」と言い、帰郷を拒むのだった。
そして代わりに病気がちな久江を休ませるように頼む。
溢れる涙をぬぐいながらツルは仕事を再開するのだった。
コメント:
主役は、直後に黒澤明夫人になる矢口陽子。
軍需工場で兵器の部品やレンズをひたすら作る女工達の話。
お国と兵隊のために身を粉にして働くのが「一番美しい」とされた時代を描いている。
女工の鼓笛隊が練り歩くシーンはいかにもプロパガンダ。
これは、戦意高揚映画。
プロパガンダ映画ゆえに啓蒙するのが目的で、楽しませるのが趣旨ではない。
しかし、この映画を観る意義はある。
当時の時代の空気を捉えたドキュメンタリーとしての価値がある。
そこに興味がある者にとっては“楽しめる映画”と言える。
お国のために少しでもお役に立ちたいとする「銃後の守り」とは何だったのかを知ることができる貴重な作品。
そういうことからもプロパガンダ映画だって日本史の教材に用いて、鑑賞するのは良いことだと思う。
憲法改正を諦めない安倍晋三の理想がこの映画の再現でないと言い切れない恐ろしさを感じる。