「霧の旗」
1965年5月28日公開。
松本清張の同名小説の映画化。
山田洋次監督唯一のサスペンス映画。
倍賞千恵子の新境地開拓の作品。
脚本:橋本忍
監督:山田洋次
出演者:
倍賞千恵子、滝沢修、新珠三千代、川津祐介、近藤洋介、内藤武敏、露口茂、市原悦子、穂積隆信、三崎千恵子、井川比佐志
あらすじ:
柳田桐子(倍賞千恵子)は高名な大塚欽三(滝沢修)の法律事務所を今日も訪れた。
だが返事は冷たい拒絶の言葉であった。熊本の老婆殺しにまきこまれた兄(露口茂)のために、上京して足を運んだ桐子は、貧乏人のみじめさを思い知らされた。
「兄は死刑になるかも知れない!」と激しく言った桐子の言葉を、何故か忘れられない大塚は、愛人河野径子(新珠三千代)との逢瀬にもこの事件が頭をかすめた。
熊本の担当弁護士から書類をとり寄せた大塚は、被害者の致命傷が後頭部及び前額部左側の裂傷とあるのは、犯人が左利きではなかったかという疑問にとらわれた。
この疑問は大塚の頭の中で雲のように広がった。
数日後桐子の名前で「兄が死刑になった」と知らされた。
大塚は弁護を引き受けなかった自分を悔んだ。
兄の死後、上京した桐子はバー“海草”のホステスとなった。
そして常連の記者から「大塚が事件の核心を握ったらしい」と聞かされて復讐の念にかられた。
その頃桐子は同僚のホステス信子(市原悦子)から恋人杉田健一(川津祐介)の監視を頼まれた。
ある夜尾行中の桐子は、健一が本郷のしもた屋で何者かに殺害される現場を目撃する。
そして桐子は偶然いあわせた大塚の愛人径子に冷たい視線を送った。
桐子は健一の死体の側にあった径子の手袋を残すと、健一の親友であった山上のライターをバッグにしまった。
径子は殺人犯として逮捕され、大塚の社会的地位も危ぶまれた。
大塚は証拠品のライター提出と、正しい証言を求めて桐子の勤め先に足を運んだ。
そんなある夜、桐子はライターを返すと大塚をアパートに誘い、ウイスキーを勧めて、強引に大塚に関係を迫った。
翌日桐子は担当検事に「大塚から偽証を迫られ、暴行された」と処女膜裂傷の診断書を添えて訴えた。
いまや大塚は完敗した。
九州に向う連絡船上、桐子の胸に虚しさが突きあがって来た。
コメント:
当時「馬鹿」シリーズなどで喜劇を手がけていた山田洋次監督が独自色を封印してサスペンスの演出に徹した作品。
彼のフィルモグラフィの中では異色作といえよう。
山田作品のミューズである倍賞千恵子が、弁護士への復讐を狙う九州女に扮し熱演している。
貧しさのために腕の良い弁護士を雇えないという怒りは、山田の小市民コメディに通じるものがあった。
むしろこういう社会派サスペンスが山田には合うのかもしれない。
松本清張の他の作品も山田洋次版で見てみたかった。