「PERFECT DAYS」 | 野中宗助の日常

野中宗助の日常

漱石「門」の主人公の名前を拝借

わかりにくいが主人公(役所広司)が夜、アパートの一室で布団に入りながら、文庫本を読んでいる様子をポスターにしてある。

 

面白い映画だった。

 

主人公は60代、毎日同じような日常を繰り返している。

 

朝早く起き、布団をたたみ、歯を磨き、口ひげを整え、小さな鉢のなかの草花に水をやり、ユニフォームに着替え、アパートの外にでて自販機の缶コーヒーを買い、小さな車で仕事に出かける。

 

一人暮らし。

 

仕事は都内の公衆トイレの清掃。

 

とにかく丁寧に仕事をこなし、便器をきれいにするために自分でこしらえた道具も持っている。

 

昼は決まって神社境内のベンチで、パンと牛乳。

 

仕事が終わると銭湯の一番風呂、朝早い分、早く仕事も終わるらしい。

 

その帰りに居酒屋でチューハイとおつまみ。


夕食はカップ麺。

 

寡黙で誰ともほとんど話さないが、愛想が悪いのではなく、礼儀正しい。

 

家に帰ると100円で買った古本の文庫本を読みながら、眠くなるとスタンドを消して寝る。


テレビはない。

 

休日はコインランドリー、常連になった小料理店ですこし贅沢をする。

 

その繰り返しが描かれ、なにも変わらないが、実際はすこしずつ違う毎日が描かれ、その中の主人公が描かれる。

 

監督のヴィムヴェンダースはロードムービーの監督として知られているが、主人公が毎日小さな車で都内を走る様子はやはりロードムービーで、彼が移動中にかけるカセットテープから流れる曲はどれも「イケてる」。

 

大してドラマは起こらない。

 

身勝手な若い同僚に振り回されることや、姪(妹の娘)が家出して訪ねてくることなど。

 

主人公がどういう人物でどうして公衆トイレの清掃員になったかは具体的には解かれない。

 

家出した姪を迎えに妹がやってくるが、彼女は運転手付きの高級車でやってくる。

 

妹は彼らの父親と和解することを主人公に勧めるが、首を振らない。

 

主人公が資産家の跡取りで、父親と衝突し、そのあげくに公衆トイレの清掃員になったことが明かされるが、その過程は省かれる。

 

ささやかで地味な生活。

 

公衆トイレの清掃という設定がいい。

 

自分はいつもそういう人や家庭ごみを回収に来てくれる人に感謝している。

 

彼らがいなければ自分たちの生活は成り立たない。

 

汚いとか、そういう問題ではない。

 

自分が使用したトイレぐらいは自分で汚れを落とし、自分がたれた糞や小便と向かい合った方がいい。

 

「穢れ」という言葉がある。

 

それを人は忌避してきた。

 

しかし忌避できない。

 

それを代わりにやってくれる主人公に、自分の狡さ、醜さが投影される。

 

彼をみているとある清々しささえ感じる。

 

そういう清浄のための映画にも思える。

 

ただ、彼が休日に通う小料理屋の女将を石川さゆりが演じ、歌まで披露するのはげんなりした。

 

さらに彼女の元夫役で三浦友和が登場し、癌であるために元妻に会いに来たというシーンが凡庸に思われた。

 

なにもかわらない毎日がいつまでも終わらない。

 

自分も同じだ。


でも単調さを嫌っていそうで単調な毎日を願い、愉しんでいる気がする、

 

だからPERFECT DAYSなのかもしれない。