シレンツィオ ～ 静寂の中で ～
ここから先は、今ぼくが存在する次元よりもはるかに上層の次元、
きみのいる三次元の時間の概念でいうなら、
はるかかなたの未来の記憶になる。
もっともそれは前にも言ったように、
無限にある未来の記憶のうちの、
ほんのひとつの場面でしかない。
そして、
すべての魂がたどるそれぞれの道の中で、
ふたりが作り出すほんの一瞬のシーンでしかないのだけれど……。
遠い未来、
そしてどこかはるかかなたの遠い次元の話。
そのときぼくたちの魂は無数の次元上昇のあとで、
この上もなく精妙な光の波動でできたふたつの意識体にもどっている。
大きさのない、時間の概念もない宇宙に、
限りなく創造の光に近いふたつの意識体にもどったふたりが存在している。
宇宙はふたりを包み込むようにとても静かで、
とてもやすらかだ。
地球の表現で言えば、
まるで羊水の中にいるみたいに。
長い旅であり、
あっという間の旅だったかもしれない。
ひとつの小さな星に滞在した記憶の中ですら、
無数のいのちとして生まれ変わった記憶が存在する。
めぐりあったすべてのいのちとの思い出が、
無数にある。
さまざまな星での、さまざまな記憶。
そして、さまざまな宇宙での、
さまざまな記憶。
そして、さまざまな次元での、
さまざまな記憶。
無限そのものといえるほどの記憶の連鎖のすべてを、
ぼくたちは一瞬で思い出す。
もうすぐひとつにもどるときが来るね、
とふたりは同時に思う。
最後に何かの姿になりたい？
とぼくはきみに聞く。
わたしたちの魂がすごく若かったときの、
あの美しい星の、
ヒトといういのちの姿になりたい、
ときみがぼくに応える。
ふたりは再び意識の力で一瞬にして、
あの星のいのちとして生きたときの 「男」 と 「女」 の姿になる。
あの星のいのちとして生まれ、
無数の人生の数だけ何度もめぐりあったときのように。
そして瞳と瞳で見つめあう。
手と手を合わせてみる。
互いの頬を両手で触ってみる。
最後にふたりは静かに抱きあってひとつになる。
ふたりが感じるものは、
お互いの魂の 「絶対温度」 だ。
それはあの星にいたころ、
ふたりが求めたいのちのぬくもりに似ている。
なつかしさという温度……。
きみの瞳から涙がこぼれる。
不安ではなく、安寧の涙。
後悔ではなく、すべてに満たされた涙。
悲しみではなく、浄化の終わりの涙。
そしてその涙は宇宙空間へ無数の光の結晶となって流れ出ていく。
それは無限の光の帯に変わって、
永遠のかなたへと消えていく。
時を越えて、
未来へ、過去へ、
すべての宇宙、すべての次元へと、
きみの涙は静かに流れていく。
そっと夜空を流れていくきみの涙を、
過去のぼくが遠いどこかの星で見つけたかもしれない。
別の遠い星で幼いきみがひとりでいるとき、
それを流れ星として見たかもしれない。
また、他のもっと遠い星で、
再びふたりが出会ったとき、
はじめて一緒に空を見上げて、
そのかすかな輝きを見つけたかもしれない。
きみの涙のいく粒かは遠い過去の地球に届いて、
ある時は小さな水晶に結晶した。
そして、
古代にいのちを授かったぼくはその小さな水晶のかけらを見つけるのだ。
そしてきみに出会ったときに、
ぼくはその水晶のかけらをきみに渡したのだ。
それははるか遠い未来のきみの涙が、
過去のきみ自身に届いた瞬間だった。
時間を超え、
空間を超え、
次元を超え、
きみの涙の光はそれぞれの瞬間を過ごしている、
きみ自身とぼくに必ず届いていく。
そしてぼくたちはとてつもなく美しいビジョンを見る。
それはきみとぼくが今までに体験したすべての 「いのち」 の想い出を紡ぎ出した
タペストリーのような映像だ。
永遠ともいえる、
遠い過去にふたりがたったひとつの光から分かれ出て以来、
ふたりが歩んできたありとあらゆるの想い出を、
一瞬にしてすべて追体験する。
ふたりはお互いの長い旅路の体験を一瞬にして共有する。
どんなにささいな喜びも、
どんなにかすかな悲しみも、
何もかも。
そこには無駄な瞬間は一瞬たりとてなかった。
どんなに小さな瞬間もふたりの魂の浄化のプロセスの中で、
かけがえのない意味を持っていた。
きみとぼくというふたつの意識が、
経験しうるすべてがそこにあった
世界が平和でありますように
