「海の魚は5年で枯渇」養殖あるのみ 近大ナマズ産みの親、有路昌彦教授に聞く | source message

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 サンマ、カツオ、イカ……、このところ日本の漁業は不漁続き。食欲の秋にも関わらず、スーパーに並ぶ魚の値段は高止まりしている。世界的な食糧需要の高まりを受け、乱獲が止まらない。海に住む魚の数が減り、それでも魚を捕ろうと漁師は乱獲を続け、結果多くの水産資源は枯渇へと突き進んでいる。ウナギ味のナマズ、におわないブリの開発者として有名で、水産・食料経済を専門とする近畿大学の有路昌彦教授は「多くの魚種はあと5年ぐらいで枯渇する」と指摘する。その上で、日本の漁業者は養殖へのシフトを加速すべきだと主張する。美味しい魚を安く沢山食べられる未来とするためには、今何が必要なのか。

 

有路昌彦(ありじ・まさひこ)
近畿大学世界経済研究所水産・食料戦略分野教授。1975年福岡県生まれ。京都大学農学部卒、京都大学大学院博士課程修了後、大手銀行系シンクタンク研究員、民間経済研究所役員、近畿大学農学部水産学科准教授を経て現職。博士(農学:生物資源経済学)。専門は水産、食料経済、事業化、リスクコミュニケーション。近畿大学支援の株式会社食縁の社長も務める。(撮影:菅野勝男 以下全て)

 

 

 

 

 

ーーーーーサンマやカツオの不漁が続いています。水産資源はやはり減少しているのでしょうか。

 

 

 

有路:海の魚が減ってきているとここ数年話題になっていますが、実は水産資源は1994年から減少タームに入っています。

 

 最新版の国連食糧農業機関(FAO)による資源評価では、生物学的に持続できない乱獲・枯渇状態にある魚が世界全体の約30%。これ以上捕ると資源が減少する魚が全体の60%を占めます。一方で、今後も漁獲量を増やせる可能性がある資源はわずか10%となっています。

 

 今後増やせる魚種と、枯渇している魚種がちょうど同じ割合になったのが94年でした。資源学的に言うと94年が転換点で、そこから枯渇した資源の割合はどんどん増えている状態です。

 

 

 

 

 

ーーーーー海に住む魚の数は減っている。それにも関わらず、世界の漁獲量はここ数年約9000万トン前後と概ね横ばいです。

 

 

 

有路:漁船の高性能化や最新漁具の導入などで、魚を捕る能力が向上しているためです。漁獲量はとりあえず維持することができていました。しかし、減っている魚を無理して捕ったら、更に水産資源が減ってしまいますよね。一昨年の後半から明確に海の魚が減ってきて、今年の漁獲は全滅です。

 

 まずカツオがダメになった。サンマがダメになった。シロザケがダメになった。スルメイカがダメになった。イカ類は全世界的にダメですし、練り物の原料となるイトヨリダイもダメですよ。マゼランアイナメ、タラ……、要するに主要魚種はもう全部ダメ。これが実情です。

 

 

 

 

 

回遊魚は乱獲・枯渇の運命

 

ーーーーー魚の資源量が減っているのに、乱獲状態を止められない理由は何でしょうか。

 

 

 

有路:一番の理由は世界的に魚の需要が拡大しているからです。所得が増加するにつれて、人々は動物性タンパク資源を鶏肉→豚肉→牛肉という順に選ぶようになります。ブリやサーモンなどのグラム当たりの価格は高級な豚肉や豪州産牛肉に並びます。世界の人口増加と所得増加で、魚や豚肉、牛肉を買える人が増えてきたことが需要増につながりました。

 

 

 

 

 

ーーーーー急速な需要拡大に応えるために、捕りすぎたということですね。

 

 

 

有路:はい。きちんと資源管理のルールを設定して、再生産可能な範囲内での漁獲上限を漁船に守らせればよいのですが、現状は資源管理が機能していません。資源量が目減りしてしまっている。

 

 

 

 

 

ーーーーー資源管理をより厳しくすればよいのではないでしょうか。

 

 

 

有路:限られたエリアで生息する魚種の場合は、ある程度ルールに則った持続可能な資源管理は可能です。しかし、広い海を回遊する魚の場合は話が違います。漁船の目の前に魚の集団がいると、間違いなく漁船は魚を捕ります。今捕らなかったら誰かに奪われてしまいます。海の魚は所有権が決まっていない無主物です。先に捕った人に所有権は生まれます。従って、先取り競争が発生します。回遊性資源は最初から乱獲され枯渇する運命を持っているわけです。もうどうしようもない。

 

 船ごとに毎年漁獲できる上限量を設定し、魚を港に持ち込んだ際に何トン漁獲したと記録を取れば良いとの意見もあります。しかし、これには抜け道があります。陸に上げなければ良いのです。海の上で魚の売買をする、いわゆる洋上取引という手段があります。広い海を漁場とする日本では違反行為を監視することは非常に難しい。

 

 

 

 

 

ーーーーーこのままでは、海の魚は減る一方ですね。

 

 

 

有路:資源管理は当然頑張らないといけません。たとえ機能しなくても、抑止力にはなっているはずです。しかし、それ以上に大切なのは、天然の水産資源にはもう依存できないという事実を認識することです。もうダメです。30年ほど前は何とかなったかもしれませんが、今は完全にダメです。

 

 

 

 

 

ーーーーーこのままじゃダメですか。

 

 

 

有路:いえ、このままではなくて、現時点でもうダメです。負のスパイラルが完全に始まっています。魚の資源量が減り、魚が捕れなくなって供給量が減ります。需要は増えていますから、需給バランスで価格が上がります。価格が上がれば、漁師は頑張ってより多く魚を捕ろうとして水資源の枯渇は進みます。経済学的に考えると、歯止めが効かない。

 

 多くの人は水産資源が減少タームに入ると、横ばいになってゆっくり減るとイメージしますが、実際はある時点から放物線的にポンと落ちます。恐らく多くの魚種はあと5年ぐらいで枯渇すると考えています。

 

 

 

 

 

日経ビジネスオンライン より http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/100400106/