TOKIO 『 AMBITIOUS JAPAN ! 』 (2003年) | 昭和レトロサウンド考房

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TOKIO 『 AMBITIOUS JAPAN ! 』 (2003年)
作詞:なかにし礼 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀

2003年10月1日東海道新幹線品川駅開業(とそれに伴うダイヤ改正)に合わせて制作されたJR東海のキャンペーンソングである。  品川駅で「のぞみ号」に乗れるという利便性向上もさることながら、新型(700系)車両の大幅増便が図られた画期的なダイヤ改正であった。
 
流線型の車体に「AMBITIOUS JAPAN!」 の塗装、くっきり鮮明なLED式発車案内表示などは、キャンペーンの重要なビジュアルシンボルとなり、“新幹線新時代”の幕開けをイメージさせた。

JR東海から提示された楽曲のコンセプトは「新しい鉄道唱歌を作って欲しい」という内容だったとのこと。
なかにし礼氏はそこから、クラーク博士の名言「Boys, be ambitious(少年よ、大志を抱け )」に寄せて「希望(のぞみ)は叶う」、「勇者」、「友情」、「輝く未来」といったポジティブなキーワードをつむぎだした。

世界に誇る高速度と安全性の一方で、効率化・省力化が進む日本の鉄道技術。無機質な方向へ技術が進化している中で、あえて「人の心」にコンセプトを置いた点は評価したい。

夢の超特急、東海道新幹線は長らく高度経済成長のシンボルでもあった。『AMBITIOUS JAPAN!』はカッコいい音楽でありながら、その実は“ニッポン経済再起”を願う応援歌なのかもしれない。

楽曲が素晴らしいことは言うを待たない。ソツないメロディー造りは、さすが安心の筒美ブランドである。歴史的キャンペーンソング制作にふさわしい人選だったと思う。

全体を支配している8ビートリズム(ドラム&ベース)は、列車の走行感をうまく表しており、高速、それでいてドタバタを感じさせない静音設計は、まさに現代新幹線の走行感である。
Aメロの「風切り裂いて走るように」の箇所のコード進行 Cm → F7 → BbM7 もインテリジェンスを感じさせる響きであり、これまた新幹線の高度(smart)な運転制御を思わせる要素である。

サビには、例によって筒美先生の得意技、長調におけるⅣmが登場する。
 これまで何度も書いているが、長調進行でⅣmを混ぜたときの「切なさ効果」は絶大である。「切なさ」に加えて空間的広がり(深み)を感じさせる心理効果があり、人によっては、新幹線の半世紀の歴史をもイメージさせる歴史的広がり を感じさせる効果さえあるかもしれない。
筒美作品が、ただ「単にカッコいい」だけで終わらないのは、こういうサビの最も深いところに哀愁の仕掛けを潜ませる技術によるところも大きい。

さて2003年のキャンペーンから今年でちょうど10年経過したが、楽曲はまったく色あせない。
Aメロとサビの冒頭のメロディーは、今でものぞみ号車内オルゴールで使用されている。おそらく半永久使用となるだろう。流行歌で終わるはずだったメロディーが、長期にわたって実用され続けることは筒美先生、作曲家冥利につきるのではないだろうか?


(※後日、加筆・訂正する場合があります)

youtube動画 TOKIO 『AMBITIOUS JAPAN ! 』