◇映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』～アルバムから映画まで27年を経てのブラックムーヴィーの

◇映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』～アルバムから映画まで27年を経てのブラックムーヴィーの金字塔～日本公開12月に決定

【Straight Outta Compton: Will Be Released Japan December】

公開決定。

全米映画興行チャートで公開初週から3週連続で1位となった西海岸のラップ・グループ、N.W.A.の自伝的映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』の日本公開が決まった。2015年12月19日から渋谷シネマ・クイントなどで。

N.W.A.（エヌ・ダブリュー・エイ）とは、実質的には1986年から1991年までアメリカ西海岸カリフォルニア州コンプトンを本拠に活躍した基本5人組のヒップ・ホップ、ラップのグループ。コンプトンは貧困層が住むいわゆるゲットー。彼らは「ギャングスタ・ラップ」というジャンルを生み出し、1988年8月にリリースされたデビュー作『ストレイト・アウタ・コンプトン』は300万枚以上売れる大ヒットとなった。

ヒップ・ホップ発祥の地、東海岸のそれと一味違うギャングスタの出来事をリアルにラップし大きな支持を集めた。音楽的にはドレらが作りだすビート、またアイス・キューブが紡ぐディープなラップ歌詞（リリック）の世界が独自の世界観を作りだした。メンバーのドクター・ドレ、アイス・キューブはその後ソロとなりヒット、前者はさらに最近では「ｂ」のマークのヘッドホンが世界的大ヒットになり起業家としても大成功、後者はハリウッドで俳優として大成功している。

当時はレコードだけでなく、ファッションなども流行し大きな影響力を持った。わかりやすく言えば、西海岸ヒップ・ホップ界のビートルズのようなカリスマ的存在になったグループだ。また精神的には1960年代にジェームス・ブラウンが主張していたことを、1980年代から90年代にかけて主張、西海岸ヒップ・ホップ界のジェームス・ブラウン的存在ともいえるかもしれない。

N.W.A.は Niggaz With Attitudeの略。突っ張った黒人、偉そうな態度の黒人、押しの強い黒人といったニュアンスの意味。ジェームス・ブラウンもアティテュードのあった人物だった。

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伝記。

3週間連続全米1位を獲得した話題の映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』を先日（2015年9月11日）横須賀・米軍基地内の映画館で見てきた。去年のジェームス・ブラウンの厚木のときはほんの数組しかいなかったが、今回は日本の映画館で初上映ということもあってか、けっこう多く6－70人はいた感じ。この時点では日本公開はまったく未定。去年のジェームス・ブラウンの映画が8月に全米公開され日本公開が翌年5月と9か月遅れだったことと比べれば、今回は8月全米、12月日本公開で4か月のみの遅れということで比較的早い公開となったとも言える。

（少しネタばれになります。これからご覧になるうえで余計なことを知りたくない方はご注意ください。また映画についてお知りになりたい方、見ようか見まいか迷ってる方はどうぞ）

予算2800万ドル（1ドル120円で約36億円）で製作、全米では2015年8月14日に公開され（LAプレミアは8月11日）、初週でこれを突破、現在まで1億8900万ドル（約225億円）の興行収入を獲得、興行ランキングで3週連続1位を獲得した。監督はF・ゲイリー・グレイ。これまでに、『フライデイ』（＝監督デビュー作1995年）、『セット・イット・オフ』（1996年）、『交渉人(ネゴシエイター)』（1998年）、『ビー・クール』（2005年）やアイス・キューブ、ドクター・ドレなどのミュージック・ビデオを監督している人物。

映画予告編
https://www.youtube.com/watch?v=l5r5cZk0EfY

楽曲のビデオ＝N.W.A. –Straight Outta Compton
https://www.youtube.com/watch?t=3&v=TMZi25Pq3T8

一言で言えば、西海岸を代表する黒人人気ヒップ・ホップ・グループ、N.W.A.の自伝だ。彼らの出身地コンプトンはロスアンジェルス地区でもひじょうに治安の悪いゲットー。映画タイトルは「コンプトン出身」、「コンプトンから抜け出て」。N.W.A.の1988年に発売されたデビュー・アルバムのタイトルから取っている。多くの若者はそのコンプトンから抜け出せず、早死にしたり、犯罪に手を染め刑務所行きになったりで、ほとんど希望らしい希望がない地域だ。

5人の若者たちがそんな希望のないゲットーからラップで抜け出し、成功していくその過程での多くの裏切り、強欲、暴力、友情、絆を描く。特にアイス・キューブ役は実の息子がやっているだけに本人そっくり。そして、ドクター・ドレ、イージーEも本人に近い実にいい味を出していた。ジェームス・ブラウンの映画のように時系列の逆転などもなく、普通に時が進んでいくので、起承転結がわかりやすい。

冒頭、ドクター・ドレが家でレコードを聴いているときに流れてくるのはロイ・エヤーズの「エヴリバディー・ラヴズ・ザ・サンシャイン」だ。あのシンセは我らがフィリップ・ウーのもの。

ドクター・ドレ、アイス・キューブ、イージーE、そして、白人（ユダヤ人）マネージャーのジェリー・ヘラー（彼も徐々に儲けをくすねていく）、悪徳起業家シュグ・ナイトらの個性のぶつかり合いがリアル感たっぷり。ジェリーにしろ、シュグにしろ、結局、才能あふれる連中はみなそういうビジネスマンにいいようにされてしまう。搾取する側と搾取される側の闘い、そしてされる側が結局絆を深めるというストーリーが普通に胸を打つ。そうした友情から一度は解散したN.W.A.を再結成しようという矢先に、グループ最年長で、リーダー的存在でけっこうお茶目なキャラだったイージーEがHIVで若くして死ぬというドラマ性も十分ある。イージーEの取り分が残り4人の合計より多いことが発覚しアイス・キューブが激怒するところなど、音楽業界のリアルさも出している。

このあたりのイージーEが一番年上でリーダー格だったゆえに、他のメンバーよりも上に立っていたこの力関係は今回初めて知った。

最初のほうでN.W.A.のグループ名について問われたとき、マネージャーの白人が「No White Allowed白人お断り」かと思ったと言い、イージーEが「Niggaz With Attitude（つっぱてる黒人、はっきり物言う黒人）」ときっぱり言ったところはちょっと歓声があがった。

そして、このN.W.A.はいわゆる「ギャングスタ・ラップ」のカリスマ的グループとして神格化されていく。この名前ゆえに、彼らはこの世界でスーパースターとなっていく。

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「ブラック・ライヴズ・マター」。

また、しばしばポリスに何の意味もなく暴力的に扱われ、そこから「ファック・ザ・ポリース」が誕生するいきさつ、それを歌うことを押さえようとするデトロイト・ポリスの前でパフォーマンスするシーンなど、実にスリリングな展開もある。また、警官に暴行されるロドニー・キング事件の映像も差し込まれる。

N.W.A. - Fuck Tha Police (The Explicit)
https://www.youtube.com/watch?t=1&v=9jOqOlETcRU

こうした警官の暴力に関して言えば、1980年代の後期から、2015年の現在までなんら変わることなく、この楽曲が今も有効であることが、この映画ストーリーに普遍性を与えており、それが結果的に3週連続1位になっているのだろうと感じた。つまり今起きている『Black Lives Matter』の波(黒人の命も大事なんだというムーヴメント)がこの映画に強力な追い風になっているのだ。

アイス・キューブがグループを辞め、ソロ・デビューしこれが大成功すると、その実入りは『ストレイト・アウタ・コンプトン』の印税よりも多かったという。そして、それをディスる古巣N.W.A.とのやりあいも描かれる。

グループを辞め、一時期別の黒人起業家シュグ・ナイトとデス・ロウ・レーベルを作るドクター・ドレは、スヌープ・ドッグやトゥーパックらをプロデュースし成功。しかし、徐々にシュグのやり方、暴力主義的なところに疑問を持ち、最後には袂を分かつ。

1994年12月、アイス・キューブとイージーEがニューヨークのクラブで偶然再会。そこでN.W.A.再結成の話が持ち上がり、アイス・キューブはマネージャーのヘラーがかかわらなければ、再結成しようと約束。

しかし、それが実現する前の1995年3月26日、イージ―EはHIVが原因で死去。再結成はならなかった。このあたりは、ちょっとした劇作家では書けないようなドラマティックなストーリー展開だ。

最後、ドクター・ドレはシュグから「お前の次のレーベルは何ていう名前にするんだ？」と問われ、「アフターマス（余波、影響、後遺症、二番刈り）」と答える。この映画を見て、彼らのストーリーを知ると「なるほど」と思った。

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アフターマス。

そして彼らはそれぞれの道を歩み、ドレはヘッドホン・ビジネス（今大人気の「B」のヘッドホンを出しているビーツ・エレクトロニクス社創設）で、また、キューブは一足先に俳優として『ボーイズ・イン・ザ・フッド』『フライデイ』『バーバーショップ』などで大成功を収める。

映画上映後ロビーに出るとニューヨーク出身というシスターに声をかけられた。「これで（この映画を見るのは）3回目。あのシュグ・ナイトは今、刑務所入ってるのよ」。「知ってる。それにしても、シュグは悪い奴ですよねえ」。

ちなみに、映画の企画段階では、イージーE役にイージーEの息子リル・イージーEの抜擢も検討されていたという。また、ドクター・ドレ関連のミッシェルレなどの女性アーティストたちが暴力を受けるところなどがほとんど描かれていない点を指摘する向きもあるが、5人全員の物語を網羅するのは時間的に無理の様で、そうしたことを除けば概ね好評のようだ。実際、全米1位3週間という興行成績は相当の支持がなければあり得ない。

この映画を見てラップを始めたい、あるいはDJをやりたいと思う若者が出てきてもまったく不思議ではない。かなり影響力のある映画作品だと思う。その最大の理由は、描かれている物語、彼ら自身の人生がリアルだからだ。彼らもそれぞれ究極のソウル・サーチンをしていることが描かれている。

僕は個人的には、1989年の『ドゥ・ザ・ライト・シング』、1991年の『ボーイズ・ン・ザ・フッド』と同じくらいのインパクトがあった。本作も含めどの作品にも、どうにもならない現実と不条理が描かれているからだ。いずれもとても強い作品だ。

1988年の同名アルバムから、2015年この同名映画まで27年。ギャングスタ・ラップの金字塔アルバムが、四半世紀を経てブラック・ムーヴィーの金字塔に変身した。

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まだ日本公開の映画オフィシャル・サイトはできていないようです。

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この映画について書かれたブログなどをまとめてみました。

音楽の伝記映画として過去最高のヒット　N.W.A.伝記映画がついに12月に日本公開決定
2015年09月25日 18時33分
http://bmr.jp/news/144683

夏休みの宿題：映画感想文『Straight Outta Compton』（ネタばれ注意）
塚田桂子
by kokosoul | 2015-08-17 15:58 | hip-hop | Trackback | Comments(0)
http://kokosoul.exblog.jp/22033105/

Lerato Ans
2015/8/14　鑑賞
http://www.blackmovie-jp.com/movie/straightoutta.php

町山智浩映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』を語る
2015/8/19
http://miyearnzzlabo.com/archives/29322

池城美菜子的紐育日記～Minako Ikeshiro' s NY Journal
N.W.A.　ストレート・アウタ・コンプトン　Pt.１
2015-08-26
http://ameblo.jp/mmr9/entry-12066023515.html

N.W.A.　ストレート・アウタ・コンプトン　Pt.2
2015-08-26
http://ameblo.jp/mmr9/entry-12066030191.html

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