(映画のネタばれは、鑑賞の妨げになるほどはありません)
【Lee Daniels’ The Butler : Movie】
執事。
南部の綿花畑の奴隷から、バー、ホテルで仕事をするようになり、ホワイトハウスの給仕人となり、最終的に7人の大統領に仕えたホワイトハウスの執事になったセシル(スィースル)・ゲインズの生涯を綴る物語。1957年から1986年くらいまで執事として働いたという、実話に基づいたフィクション映画。日本では2014年2月15日(土)からロードショー公開される。
(「ソウル・サーチン・レイディオ」でも2月に入ったらサウンドトラックとともに映画の紹介をします)
映画の予告編など。公式サイト。
http://butler-tears.asmik-ace.co.jp/
http://www.youtube.com/watch?v=QJ3C6JCewAQ
全米では2013年8月16日から公開。総予算3000万ドル(約30億円)で製作、2014年1月までに1億6700万ドル以上(約167億円以上)の興行収入をあげている。
南部で白人の奴隷として働いていたところから、そこを出てホテルで働きだし、白人の世界で目覚ましい躍進を遂げるが、その間に多くの人種差別、家族内でのさまざまな衝突に悩む。
この映画は、黒人の歴史をある程度知っていると、あちこちに歴史の事件が散りばめられていて、次にあれが来るとわかり、かなりどきどきする。主人公がブラックであるために、様々なブラック・ミュージックが各シーンにちりばめられており、ソウル・サーチンにはどんぴしゃな映画だった。
見所。
見所満載だが、僕は大きく二つの点で感動した。
最近では黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを描いた映画『42』やオーストラリアで虐げられてきたアボリジニを描いた『ソウル・ガールズ』、さらに3月公開の『それでも夜は明ける』など人種差別を描いた映画が多いが、人種差別に苦しめられた黒人がそれと闘うという点はいつ見ても感動的だ。人種差別については、やはり細かい具体的エピソードをあのように出されると、胸が痛くなる。
そして、それと並行して今作で感動したのが父親と息子の確執をうまく描いている点だ。父と息子は、それぞれ白人に対する考え方が違うが、どちらも正しい。それぞれの時代においてどちらも正しく、どちらかが間違っているということではない。だから、とても難しく苦しく、切ない。正解がないストーリー、筋書きの映画は往々にしていい作品になる典型的例だ。
僕は個人的に偉大な父(あるいは母)と子(息子娘)というテーマでソウル・ミュージシャンを追いかけるのが裏テーマになっているので、これはずばりそのテーマにはまった。たとえばリヴァート親子、ナタリーとナット・キング・コール、サム・クックとリンダ・クックなどなどの話と重なるところもある。
時代が変わり、価値観が変わり、かつては正しかったことが、ある日正しくなくなることもある。だが、父はそれまで間違っていなかった。白人の世界で生きて子供たちを食べさせていくためには、その白人の世界で行くための掟を守らなければならなかった。その苦悩をフォーレスト・ウイテカーは味わい深く演じている。
黒人・白人の点でいえば、シドニー・ポワティエ(1960年代にハリウッドで活躍した黒人俳優)に関する両親と息子の意見の対立は、あの時代、まさにあの通りで、わかりやすいエピソードを挟み込んだと思った。
視点。
もうひとつ、これが白人の視点ではなく、黒人監督の黒人視点で描かれているところが本当に素晴らしい。それは、同じオプラ・ウィンフリー出演のスピルバーグが描く『カラー・パープル』と決定的に違うと感じた。別にスピルバーグの描き方が悪いというのではなく、彼はやはり白人の視点で見て、それを描いていると感じてしまう。ときに彼が黒人のことがわかっていないと批判されるのは、そういう視点で描かれているからなのだろう。
だからといって、スパイク・リーほど黒人黒人していない。ちょうどいいバランスで描いているような気がした。このリー・ダニエルズという監督は本当に素晴らしい。うまくいけば、黒人のクリント・イーストウッドみたいになれるのではないか。(ちょっと褒めすぎか(笑)) 彼は前作『プレシャス』も、うまかった。人間、特にダメ人間を描くのがうまいような気がする。
老け方。
主人公フォーレスト・ウイテカーの時代に沿った老け方も素晴らしい。どんどん毛が薄くなり、顔が老人になっていく。彼は1961年生まれということは撮影時は51歳。最後など、70歳か80歳くらいに見えた。オプラもアル中のところがうまい。レニー・クラヴィッツも、キューバ・グッディング・ジュニアもそれほど目立たなかったが、いい味を出していた。
キューバ・グッディング・ジュニアのお父さんは1970年代にソウル・ヒットを放つメイン・イングレイディエントというヴォーカル・グループのリード・シンガーだ。ここにもきっと興味深い父と息子のストーリーがあるにちがいない。
ひとつトリヴィア。フィラデルフィア・ソウル、ピープルズ・チョイスの「パーティー・イズ・ア・グルーヴィー・シング」がオプラとフォーレストがパーティーに出かけようというときにかかる。あれは、1975年のヒット。たしかそのあとのシーンで字幕が1974年か1973年って出たような気がした。ちょっとだけ時制がずれているが、たいしたことではない。(笑)
この映画にはサム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」は出てこなかったが、どこかに出てきても、まったくおかしくない作品だった。きっとダニエルズ監督は、一瞬はその曲を考えただろうが、これまでにも『マルコムX』などで使われてしまっていたので、躊躇したのではないかと思った。
個人的にはブラック・ミュージックに興味がある方には強く大推薦します。これが、アカデミーでノミネートされなかったのが、不思議なくらい。
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サウンドトラック 日本盤発売予定なし。輸入盤。もちろんジェームス・ブラウンも流れます。「アウト・オブ・サイト」が。
原作本
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