◆デクスター、「ギャングスター」を求めて(パート1) | 吉岡正晴のソウル・サーチン

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◆デクスター、「ギャングスター」を求めて(パート1)

【Dexter Searching For Gangster (Part 1)】

探究心。

先日ていねいな問合せのメールをもらった。きちんとした礼儀正しい文章で書かれたもので、自己紹介からなぜこのメールを書いているか、その目的などが的確に書かれていた。

その彼は現在ニューヨークのコーネル大学に通う学生で、日本のソウル、ヒップ・ホップ・シーンについて興味があり、それをリサーチしていく中で70年代に発行されていた「ギャングスター」という雑誌を探している、お持ちではないですか、という問合せだった。お持ちでしたらコピーかスキャンさせてほしいとのこと。

「ギャングスター」という雑誌は、1976年から1977年にかけてたぶん7冊ほど出したディスコ、ソウルの情報誌だ。B5版48ページの活版印刷ででたもの。江守藹さんが発行人で江守さんに誘われ僕が編集したり、原稿を書いた。そこで倉庫を探してみると、7冊のうち第二号を除く6冊があった。

別件で江守藹さんと会うことになっていたので、せっかくだから、3人で会うことに。

待ち合わせのカフェにやってきたメールの主デクスター・トーマス君はキッドン・プレイ(映画『ハウス・パーティー』)のような上に伸びたヘアスタイルが印象的な若き快活なブラックだった。

いろいろ話を聴くと、こういうことのようだ。

国立国会図書館。

デクスター君は1984年9月カリフォルニア州サンバナディーノ生まれ。4人兄弟の長男、下に弟、妹、妹。2001年夏に一度交換留学で一月ほど日本に滞在。その後2002年9月カリフォルニアのリヴァーサイド大学に入学、そこの放送局KUCRで週一でヒップホップの番組の選曲、DJをするようになった。そこに多くのデモテープなどが送られてきたが、そんな中で日本の音楽に興味を持った。

2006年夏卒業後、仕事をしながら日本の大学の奨学金を得るために勉強、4度目の奨学金の応募で合格、2008年4月から2010年3月まで約2年間、早稲田大学・政治学部に入学した。この時期に日本のポップ・カルチャー、とりわけヒップ・ホップ・シーン、さらにそのルーツとなるソウル・シーン、ディスコ・シーンなどに興味を持つようになり、いろいろな資料を漁るようになった。

その中で、江守藹さんが書いた『黒く踊れ!』を読み、そこで触れられていた「ギャングスター」に興味を持ち、現物を入手しようとしたが、なかなか手に入らず、僕のホームページからメールで連絡してきたのだ。

デクスター君は江守さんをリサーチ。江守さんが1970年代にヤング・コミックという雑誌にブラック・カルチャーの記事を書いたという記述から、国立国会図書館に行き、1970年代のヤング・コミック誌を片っ端からチェックしたという。何年何月号ということがわからなかったので、創刊号(1967年8月)からしらみつぶしにあたった。当時は最初は月刊、途中から月二回刊。目次だけで見てても、なかなか当該の記事にあたらないので、結局全ページをめくって調べることに。

すると何時間もかけて、ついに1973年8月23日号でその目当ての記事を発見。これは漫画誌なのだが、それは活版の文字主体の記事だった。彼はそれをスキャンし、アイポッドで見せてくれた。江守さん本人もずっと探していたが、約40年ぶりに自身の記事に再会し感動の様子だった。江守さんが、福生などの基地での黒人仲間たちとのこと、ソウル・ミュージックのことについて書いた記事で、編集者が知り合いで、「ソウルのことを書かせてよ」ということで書いた記事だという。当時は、まだディスコもやっと火が付き始めたくらいの状況だったから、斬新な記事だったことはまちがいない。

デクスター君は、現在の日本のヒップ・ホップ・シーンに大変興味あるが、それを探っていくうちに、日本のそれより前のディスコ、クラブ、ソウル・ミュージック・シーンが必ずあるはずだと考え、そのあたりについてのリサーチを進めている。

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左から江守藹さん、デクスター君、吉岡

興味。

そして、当時江守さんや僕が、どのように黒人と接したのか、日本人であるあなた方にとってなぜソウルだったのか、当時のソウル・ミュージックがどのように受けいれられたかなどに強く興味を持った。

なにしろ、デクスター君は僕のブログを熱心に読んだり、僕と江守さんが『ソウル・ブレンズ』でドン・コーネリアスの追悼をやったポッドキャストを聞いて勉強し、その話をデクスター君のお父さんと話し、父親とそれをネタに熱い会話ができたという。もちろんそれだけでなく、古いソウル・ミュージックを勉強するにつれて、父親(もうすぐ定年を迎える警察官だそう)とそういう話をするようになった。「アメリカではなく、はるか離れた日本でこんな『ソウル・トレイン』のことを(日本人の二人が)詳しく話してるのなんて、ほんとヤバイでしょう」(笑)と日本語で話す。

っていうか、江守さんの『黒く踊れ』や僕のブログを日本語で読み(彼は漢字の読み書きOK)、そこからソウルの歴史に入っていくという、あなたこそヤバイでしょう。(笑) 

「ま、話は尽きませんが、とりあえず、これがギャングスターのうちにあった分6冊です。
コピーしてきていいですよ」

「これ、全部コピーしたら大変じゃない?」と江守さん。「48ページだから、A3でやれば24枚、1枚10円でも240円でできる。もし5円だったら120円くらいかな。1分で4ページずつやれば、1時間かそこらあればできるんじゃないですか」と僕。

駅の向こう側にコンビニがあると案内し、彼はギャングスターを抱えて出て行った。

(この項続く)

■ デクスター君はまずこの『黒く踊れ』を読んだ

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■そして、そこで知った江守さんのその前の本を探して入手した。

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