DONT TRUST OVER FIFTEEN -3ページ目

真・ショートショートvol.2「世界一」

ココまで成り上がるのにずいぶん苦労した。

 

家族を失い友人を裏切り恋人を売った。

 

どうしようもないロクデナシだと自分で思う。

 

しかしそれに見合う代価は手にいれた。

 

俺はもはやこの世界で何でもトップの男である。

 

「そうだ!俺はこの世界で一番なんだ!!」

 

正確に言えばオンリーワンにしてナンバーワン。

 

誰もいなくなり荒廃した大地で、寂しく声を上げる。

その声は誰にも聞かれることなく灰色の空に消えた。

真・ショートショートvol.1「神様」

「やっぱり神様なんていなかったね」


彼女はそれだけ言うとこの世の全ての悲哀を凝縮したような寂しげな顔をして、

俺と彼女の間の防弾ガラスよりも厚く強固な透明な壁の向こうで弱弱しく微笑む。


ガラスにどす黒いシミとなって飛沫しているのはいやになるほど大量の鮮血。


「そうさ、神様なんていなかった」


俺は笑った。子供相手にまんまと出し抜かれた自分への嘲笑の意味を込めて。


段階的に危険な室温上昇を続ける空間に残された時間の少なさを感じながら、

俺は一人逃げる少女の背中を見送った。



ショートノベルvol.16「シナリオ」プロローグ

全ての芸術は模倣から始まる。


いくら頭ひねって考えて出した結論も、

結局のところ過去に誰かが到達した真理なのだ。


「つまり、オリジナルを作れないってのが大前提なんだね」


「そうだ」


烏丸の問いに俺は短く答えを返す。あまり長い時間

話したくなかったのだ。夕暮れの喫茶店、夕飯時なのに

店内に客は俺とコイツしか居なかった。


それも全て最初から決まっていたこと。

この世界にはオリジナルが存在しえない確固たる理由が存在している。


簡単に説明すれば―――「シナリオ」以外の行動は、どんなに些細な

ことでも徹底的に禁止されているのだ。

ショートショートvol.6「電信柱」3

見飽きた振るような星空の下を俺はこれまた見飽きた

道をひたすらがむしゃらに疾走していた。


さっきの怪現象について自分なりに説明をつけようと思った。

そうだ。俺は疲れてるんだ。毎日単調なことばかりしているせいで、

ちょっと自身の作った刺激あるイベントをさも現実のように

錯覚しているだけなんだ。そもそも現実にこんな刺激のある

事はそうそう起きるもんじゃない。


「でも、人生なんてわけのわかんないことの繰り返しなんだから」


色々思考をめぐらせていたので、不意打ちのように聞こえた声に

反射的に振り向いてしまった。ひしゃげたガードレールに腰を

おろしたさっきの少女がそこに出現していた。

くしくもその場所は、2年前兄ちゃんが命を散らしたその場所。

傍らには真新しい百合の花がと菓子が供えられている。

それは母さんが今でも毎日続けている習慣だった。


俺は鋭利な恐怖を感じ、またしてもダッシュで逃げ出した。

そのたびにその少女はどういう仕掛けなのか、

逃げる先々で待ち伏せしていやがり、その姿を見つけるたびに

俺はUターンで逃げるということを繰り返す。


あたりはすでに暗闇が広がっていたが、さらに闇がその色を

深めたように見えた。普段は路傍の石同様何の脅威も

感じなかった暗闇が、今では俺を追い詰める魔物に思える。


何度も姿をみたらダッシュ、姿をみたらダッシュの

俺ばかりが疲れるやりとりに疲れ果て、俺は電信柱に

背中を預けた。部活で疲れているのに、さらに鞭打って

走り込みしたんだ。バテるのは必然である。


荒い呼吸を整えながら、俺は後ろの気配を感じる。

夜の鬼ごっこは終わりを迎えた。


「エイジ……アンタこんなとこで何やってんの」


聞き覚えのある声だった。突然の救済に驚き振り返ると

スーパーの袋を両手に抱えた母さんがいた。


俺はアハハちょっと都市伝説を体験しててと

適当なことを言い、母さんと一緒に帰ることにした。


電信柱から身を起こすと、急に胸の辺りがザワザワして、

何か不安になって後ろを振り返る。


もちろんソコには誰も存在していなくて、

どこまでも続いているような暗闇が広がっているだけだった。

気配

ショートショートvol.5「電信柱」2

人間が本来持っているのは「逃避」と「攻撃」の

二つだけの行動らしい。それが大脳を持つことに

よって「理性」と「本能」の対立が起こるようになった。


そして今俺がこの奇ッ怪な状況下に出来る最善の

行動としては、全速ダッシュで逃避することだけだ。


俺だって現実と妄想の区別くらいつくさ。

その境界はあいまいで、ふとした拍子に忘れる事もあるけど。


一度ココで今の状況を整理してみよう。

俺は普通の中学生で、毎日部活や勉強で忙しい平凡な日々を

流れのままに過ごしている。大体全校生徒の8割があてはまる

将来に漠然とした不安を抱えた平凡に平凡を重ねた男だ。

そして今はなんとなく入った柔道部で別にやりたくもない練習を

して地獄から開放された気分で悠々と帰路についている途中、

なんか古風といえばすごいレベルで古風な身なりの少女に出会った。

その少女は俺に気づくと知り合いでもないのに「ひさしぶり」と

声をかけてきやがり、一方俺はでくのぼうの様に突っ立っているだけ。


この状況はここ数年で一番不可思議なイベントである。


ちょっとそういうオカルトな出来事に対して耐性のない俺は、

情けなくもその場から逃げ出してしまった。


後ろで少女が何か言った様だったがかまわずスピードを上げた。


「ったく、意味分かんねえよ!!」


少女の姿が見えなくなったところで、今の感想を声に出してみる。


次回予告「電信柱」

ようやっと「真実」を完結させることができました。

楽しんで読んでいただけたなら幸いです。


この作品は「アンドロイド」というありふれた題材

を扱っているんですが、もうちょっと相沢愛美が

ケイイチを好きになる過程を丁寧に書ければなあ

と反省点が多々残り、若気の至りが炸裂

しているといった感じになりました。


次回のテーマは「電信柱」


この作品は思いつくままに即興で勢いで

書いちゃった作品で、正直前編の電信柱の下に居た

少女が誰なのか?どうして「久しぶり」なのか?

まったく考えてなくて、これは無かったことに

する作品だな。お蔵入りだな。と放棄しかけたんですが、

なんとかプロット完成したので続きを書いてみようと思います。


今度のこれは青春の鬱屈とした感情を書くことをテーマとし、

どろどろした「空気」を表現する実験的な作品です。


では、次の作品も死ぬ気で書き上げます!


ああでも最近母がうるさいので勉強もほどほどにやらないとなぁ…


ショートノベルvol.15「真実」完結編

「まったく素晴らしい……私の考察はやはり机上の空論

では無かったんだ……」


相変わらず理解不能な言葉をぶつぶつ呟いているこの

白衣の男は、見るものを不安にさせる危険な笑みを浮かべ

私との距離をじりじりと詰めてきた。


私はまったくパニックだった。なぜなら、さっきから

どう体に動く様にシグナルを送っても、まるで体が

一つの鉄の塊になってしまったかのように、

ぴくりとも動かないのだ。声を出そうとする。

だめだ。空気が喉を通る音しかでない。

絶対絶命というヤツだった。


どうしよう…私がおろおろしていると横の方で

能澄の忍び笑いが聞こえた。私に対する蔑みと

嘲笑の意が込められた悪意のこもった笑いだった。


いつも思っていたことだがこの男は最高超絶に嫌な男だ。

ケイイチを私から奪ったのもおそらくこいつだし、

今だって変態に襲われそうになっているのに

この状況を打破するしかるべき行動をとらない。

くすくす面白いものを見るかのように笑うだけだ。

コイツも変態だな。私は確信した。


「ひゃひゃひゃ。良い様ですねえ。相沢先生。

身動きできないでしょう。好都合です。

あなたはただ真実を一方的に受け入れなければ

いけないのですから」


白衣の男と同様に理解不能な言葉を発する能澄を、

本来ならとっくにブン殴っているところだろう。

動けさえすれば。何か特別な力がかかっているかの様に

再度動く気配を見せなかった。


「まずは―――そうですねえ、圭一さんの遺言に訂正があります」


能澄は本当に楽しそうな様子で語り始めた。


「あの遺言はすこし違っていましてねえ。

《私が死んだら私のアンドロイドを購入してくれ》ではなく、

《妻が死んだら妻のアンドロイドを購入してくれ》が真実です」


一瞬、何を言われたのか分からなかった。


「もう、お気づきでしょう。そう―――あなたは―――」


「本当に素晴らしい、素晴らしいよ……」


白衣の男が口を挟んだ。


「人間が本物の生命を作りだした証だよ……

K-1800、あれはあれでよかったが、やはり

出来損ないだった……」


男は興奮を抑えきれないといった様子である。


「人の心、魂のデジタル化……愛情や憎悪なんてのも、

ある種の化学反応のようなものだ……」


男が私に向かって、リモコンを向ける。


「さようなら、相沢愛美……いいや、K-1900……」


男の指がリモコンのスイッチに触れ、私の機能が停止した。


――THE END――

ショートノベルvol.14「真実」後編4

「ちょっと、そろそろ離してよ…」


「……」


とりあえず何とかなるようになれ。当たって砕けろ。


そんな気持ちで突っ込んでった良いが、ソコはやはり

そう甘くはなかった。業務用のようなカビ臭いエレベーターに

乗り込もうとしているケイイチを連衡していたあの

カタギじゃない体格と風貌の男たちに私はあっさりと捕まった。


今、私はどういう成り行きか4人組の内二人に両腕をしっかりと捕まれ、

研究所内の薄暗い通路を進んでいる。男たちの足取りはまるで

どこかへ向かっているようにはっきりと意思を持っていた。


通路に灯るのはなんともお粗末な工事に使うようなランプだけ、

壁は長い間に堆積したほこりや手垢でお世辞にも環境はよろしくなかった。


このような悲惨な職場環境の中で、職員たちは何を研究しているのだろう。

もっとも、こんなところで働いている野郎などは気がふれたのばかりだろうが。

まともな神経を持つ人間の居ていい場ではない。どうも背に悪寒が走る。


ここへ居てはいけない。絶対に取り返しのつかないことになって、後悔する。

体中の細胞全てが拒絶反応を示し、冷ややかな汗が頬をつたう。


その症状は男たちになすがままに連れて行かれようとしているある場所に

近づくに従って、段階的に激しくなっていった。


もういちど私は確信する。ここに居てはいけない。


「やあ、お待ちしていましたよ。相沢先生」


乱暴に手を振り払われ、危うく転びそうになった。

私ははっきりと彼を見据える。彼も私を見つめ返す。視線が絡む。


「能澄……」


「ひゃひゃひゃ。おもしろい場所で会いますねえ。でも今回は

少しお話をしたいことがありまして。いささか乱暴な方法では

ありましたがこの場所でお会い出来て嬉しいですよ。

いや、別に乱暴ではありませんよね。あなたはあの人形を

追って勝手にのこのこやってきたんだから。まあそこら辺、

僕の予想の範囲内ですけどね。頭脳の勝利ってヤツ」


「あなた程度の人間の話なんて1ミリも興味無い」


私の視線は能澄ではなく、後ろの手術台のようなものに

寝かされているケイイチと、その傍らでひたすらに

なにかぶつぶつつぶやいている、研究者風の白衣の男を

捕らえていた。彼は唐突に振り返り、私に向かって語りかけた。


「まったく素晴らしい……完璧だよ……」


そんな意味不明な第一声とともに、

薄ら笑いを浮かべながら夢遊病者のようによたよたと

歩みよってくる彼の頭からつま先までじっくりと観察し、

私の予感はやはり的中していたことを悟る。

この男が全身から発する危険なオーラは

死刑の判決を聞く罪人のような気持ちにさせ、

先刻から感じていた悪寒の根源はこの男であることを確信させた。


小説が…

あれ?書いたのに消えちゃった。おっかしいなあ。


ちゃんと「保存して公開」おしたのになあ。おっかしいなあ。


もう意気消沈したので寝ます……


自分の書いた小説が手違いで消える事ほどショックなことはないですよ…


それが親に怒られながら苦労して書いたものならなおさらね……

ショートノベルvol.13「真実」後編3

家族という集団はただ単に生物学上の親と子の集まり、

というわけではもちろんありえない。

そこにはやっぱり不可思議な不透明ではあるがはっきりと

その存在を感じる「絆」のようなものがしっかりとあるのだろう。


人は一人ぼっちでは生きていけない。誰しも孤独であるが故に、

人は他人と時間を共有しようと、お互いを分かり合おうと努力する。


そこに理由を求めようとするのはナンセンスだ。

無責任な言い方をすればこれは一種の条件反射的なもので、

誰が誰を好きになろうとその理由はその本人にしか分かりえない。

ぞっこんだった異性に一瞬にして冷めることもそこら辺で繰り返される日常だ。

逆に好きでもなかった異性に急に惹かれるのも良くあることだが。


だから例えば私の場合―――――――――――――――――――――

好きになった相手が「アンドロイド」であろうと―――――――――――――


そこに、「理由」など求めるのは、この感情に説明をつけるのは、


誰にもできないことだろう。


だから私は走る。ケイイチを、家族の欠けた歯車を取り戻すために。

突然失われ、もう二度と取り返すことは不可能と思われた幸福な時。


ケイイチが来てから私の動物の死臭のようにむせ返るまでに

無色で退屈なただ繰り返す日常が、ほんの少しだけ頑張ってみよう。

そんな気持ちにさせたんだ。


ケイイチ、ケイイチ、ケイイチ。私の中でケイイチの存在が

大きくなっていった。もう少しだ。あそこの角を曲がれば―――


ケイイチがいる、「双坂人工進化研究所」だ。


私は隠れて様子を見るなどという消極的なことはせずに、

今まさにどこかの部屋に押し込められようとしているケイイチの

もとへ夢中で走っていった。