疫病神
10月になったばかりの某日、ケイさんが職場に遊びに来た。大騒動を起こして辞めたくせにちゃっかり遊びに来れる神経がオカルトだと俺は思う。ケイさんは和気藹々と職員の皆と喋り、1時間ほど滞在して帰った。
そしてケイさんが遊びに来た日の夜、心筋梗塞を起こして84歳の患者さんが亡くなった。偶然だろうが、やっぱりケイさんは死神か疫病神か何かの類なんじゃないかと、俺は本気で思った。
そして、またひとつ嫌な思い出を思い出した。前置きが長くなったが、本題に入る。
確か、去年の正月だったと思う。寮生組の俺とケイさんと俺の同期の松田は、新年早々夜勤が入っていた。
冬、特に1月~2月ってのは、寒いからか患者が亡くなる率がすごく上がるんだが、今年も例外なく「今夜が峠」みたいな患者が新年早々数名いた。
死後処置の面倒臭さはハンパじゃないので、翌日のことを考えて、その日は皆、萎えまくっていたように思う。
夜、俺と松田がテキトーに各階の巡回をして、カルテを書いていた中、ケイさんは休憩室で御神酒と称して酒を飲んでいた。アル中めが。
そしてカルテも書き終わったころ、突然ナースコールが鳴った。405号室----空部屋からだった。
しかし実際、ナースコールの誤作動ってのは結構あって、誰もいない部屋からコールがあるってのは珍しくもなんともなく、恐くもなかった。
ナースコールを止め、俺と松田はカルテを書き続けた。…が、またナースコールが鳴った。同じ405号室から。
「ちょっと俺、切ってくるわ」
松田が立ち上がって、405号のナースコールの主電源を切りに行った。俺はそれを見送って、カルテを書いていた。そのとき、ふと気付いた。
松田の後ろに、誰かがいる。
「…?」
目を懲らすと、病衣を着た男だとわかる。暗くて顔が見えないが、チラリとこちらに横顔が見えたとき、俺は心臓が跳ね上がった。
それは、『今夜が峠』の患者のひとりで、三日くらい前から昏睡状態だった岡田さんだった。アングリと口をあけて、焦点の定まらない目をしている。
両手は不自然に前に垂らされ、やたら猫背になって、松田の後をついていく。松田は岡田さんを引き連れて405号室に入っていった。
俺は思わず松田を呼び止めそうになった。すると、
「お前といい松田といい、揃いも揃って役立たずな上に疫病神たぁどうゆうことだ」
背後から声。言わずもがな、ケイさんである。いつのまに立ってたのか、酒が入っても相変わらずの無表情で俺の背後にいる。
「ケイさん、あれ…」
「よーく見てみろ。ホラ。」
ケイさんが促す。廊下に目をやり、俺は再び心臓が跳ね上がった。
増えてる。405号室から出て来て、こちらに歩いてくる松田の後ろに、人が。増えていた。なかには、違う病棟の患者もいる。
皆一様に、アングリと口をあけて、焦点の定まらない目をして、両手は不自然に前に垂れ、やたら猫背になって、松田の後をついていく。
「あ、あ、あれ、前田さんに、C病棟の宇佐美さんですよね…」
恐る恐る話しかけるが、ケイさんは欠伸をして、 「C病棟は管轄外だ。俺の知ったこっちゃねーよ」
と冷たく言い放った。この人は本当に看護士なのだろうか?
「ケイさん、あれ、どうするんですか」
あの人たちは無害なのか、松田は大丈夫なのか、気になって聞いた。しかしケイさんは再び大欠伸をすると、
「人間てのは寂しがりだから、誰かを道連れにしたがりやがる。旅は道連れ、なんとやら、ってやつだ。自分以外に2人も連れてくんだ、これ以上は大丈夫だろうよ。ま、松田が死んでも、死後処置やんのは俺らじゃねーし。いんじゃね?どうでも。」
と言った。
ケイさんの言い方に若干恐怖は感じたものの、とりあえず松田は大丈夫だとわかり、俺は息をついた。何も知らない松田はニコニコしてこちらに向かってくる。もう後ろには何もいなかったので、俺は安心した。
そのとき、ケイさんがポツリと呟いた。
「俺が夜勤だと、人がよく死ぬなぁ。」
俺は思い出す。あの患者が亡くなったのも、この患者が亡くなったのも、ほとんどケイさんが夜勤だった夜のことだった、と。ケイさんは俺を疫病神と呼んだが、本当に死神か疫病神か何かの類なのは、ケイさんじゃないだろうか。
酒片手に休憩室に入ってくケイさんの背中を見送りながら、俺は思った。
翌日、死後処置に追われて大変だったのは、言うまでもない。
かいけつゾロリまもるぜ!きょうりゅうのたまご
子どもは「話し方」で9割変わる
そしてケイさんが遊びに来た日の夜、心筋梗塞を起こして84歳の患者さんが亡くなった。偶然だろうが、やっぱりケイさんは死神か疫病神か何かの類なんじゃないかと、俺は本気で思った。
そして、またひとつ嫌な思い出を思い出した。前置きが長くなったが、本題に入る。
確か、去年の正月だったと思う。寮生組の俺とケイさんと俺の同期の松田は、新年早々夜勤が入っていた。
冬、特に1月~2月ってのは、寒いからか患者が亡くなる率がすごく上がるんだが、今年も例外なく「今夜が峠」みたいな患者が新年早々数名いた。
死後処置の面倒臭さはハンパじゃないので、翌日のことを考えて、その日は皆、萎えまくっていたように思う。
夜、俺と松田がテキトーに各階の巡回をして、カルテを書いていた中、ケイさんは休憩室で御神酒と称して酒を飲んでいた。アル中めが。
そしてカルテも書き終わったころ、突然ナースコールが鳴った。405号室----空部屋からだった。
しかし実際、ナースコールの誤作動ってのは結構あって、誰もいない部屋からコールがあるってのは珍しくもなんともなく、恐くもなかった。
ナースコールを止め、俺と松田はカルテを書き続けた。…が、またナースコールが鳴った。同じ405号室から。
「ちょっと俺、切ってくるわ」
松田が立ち上がって、405号のナースコールの主電源を切りに行った。俺はそれを見送って、カルテを書いていた。そのとき、ふと気付いた。
松田の後ろに、誰かがいる。
「…?」
目を懲らすと、病衣を着た男だとわかる。暗くて顔が見えないが、チラリとこちらに横顔が見えたとき、俺は心臓が跳ね上がった。
それは、『今夜が峠』の患者のひとりで、三日くらい前から昏睡状態だった岡田さんだった。アングリと口をあけて、焦点の定まらない目をしている。
両手は不自然に前に垂らされ、やたら猫背になって、松田の後をついていく。松田は岡田さんを引き連れて405号室に入っていった。
俺は思わず松田を呼び止めそうになった。すると、
「お前といい松田といい、揃いも揃って役立たずな上に疫病神たぁどうゆうことだ」
背後から声。言わずもがな、ケイさんである。いつのまに立ってたのか、酒が入っても相変わらずの無表情で俺の背後にいる。
「ケイさん、あれ…」
「よーく見てみろ。ホラ。」
ケイさんが促す。廊下に目をやり、俺は再び心臓が跳ね上がった。
増えてる。405号室から出て来て、こちらに歩いてくる松田の後ろに、人が。増えていた。なかには、違う病棟の患者もいる。
皆一様に、アングリと口をあけて、焦点の定まらない目をして、両手は不自然に前に垂れ、やたら猫背になって、松田の後をついていく。
「あ、あ、あれ、前田さんに、C病棟の宇佐美さんですよね…」
恐る恐る話しかけるが、ケイさんは欠伸をして、 「C病棟は管轄外だ。俺の知ったこっちゃねーよ」
と冷たく言い放った。この人は本当に看護士なのだろうか?
「ケイさん、あれ、どうするんですか」
あの人たちは無害なのか、松田は大丈夫なのか、気になって聞いた。しかしケイさんは再び大欠伸をすると、
「人間てのは寂しがりだから、誰かを道連れにしたがりやがる。旅は道連れ、なんとやら、ってやつだ。自分以外に2人も連れてくんだ、これ以上は大丈夫だろうよ。ま、松田が死んでも、死後処置やんのは俺らじゃねーし。いんじゃね?どうでも。」
と言った。
ケイさんの言い方に若干恐怖は感じたものの、とりあえず松田は大丈夫だとわかり、俺は息をついた。何も知らない松田はニコニコしてこちらに向かってくる。もう後ろには何もいなかったので、俺は安心した。
そのとき、ケイさんがポツリと呟いた。
「俺が夜勤だと、人がよく死ぬなぁ。」
俺は思い出す。あの患者が亡くなったのも、この患者が亡くなったのも、ほとんどケイさんが夜勤だった夜のことだった、と。ケイさんは俺を疫病神と呼んだが、本当に死神か疫病神か何かの類なのは、ケイさんじゃないだろうか。
酒片手に休憩室に入ってくケイさんの背中を見送りながら、俺は思った。
翌日、死後処置に追われて大変だったのは、言うまでもない。
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子どもは「話し方」で9割変わる
退職
10月に職場復帰するはずだったケイさんが、今日付けで退職した。朝のミーティングでそれを言われたとき何故か俺は号泣してしまって、今日一日最高に恥さらしだった。
帰ってくるって言ったくせに、あのメガネめ。そんな憎しみに近い悲しみを抱きつつ、今日はケイさんが休職…というか退職する羽目になったキッカケの出来事について投下しようと思う。
それは8月の終わり頃、俺はエンゼル(死後処置)の為、朝っぱらから駆り出されていた。同期のスタッフや看護学生もみんな出払っていて、確かフロアに残っていたのは夜勤明けのケイさんと、早番だった二人のスタッフだけだったと思う。
その日は確か立て続けに二人亡くなって、特に大変だった。俺は浄式用のバケツやら何やらを抱えて、処置室と病室を行ったりきたりしていた。
そして、たまたま霊安室の前を通りがかったとき。何故か俺は全身に悪寒が走った。鳥肌が異常に立って、熱でも出たのかと思ったくらい、嫌な感覚がした。
気にしない。気にしない。そう自分に言いきかせて、十数メール先のエレベーターまできたとき、ふっ、と霊安室を振り向くと、ちょうど誰かが出てきた。
薄紫のニットを着た女の人だった。多分、今日亡くなった二人の患者さんのどちらかの家族なんだろう。泣いているのか、ひどくうなだれていて、肩くらいの長さの髪が震えていたことを覚えている。
こちらに向かってゆっくり歩いてくるそのひとに、職員として声くらい掛けるべきかと思い、俺は近づいた。
「この度は、ご愁傷様でした」
そう言って頭を下げた。
そして、顔をあげて俺は仰天した。
「っ!!」
女の人の顔が、俺の鼻先5センチくらいのところにあったからだ。しかもその表情は、なんていうか、能面みたいな顔で、口元だけがものすごくニンマリしていた。歪んだ笑顔って、ああゆうのを言うんだと思う。とにかく不気味で、俺は危うくバケツを落としそうになった。女のひとはニンマリ笑ったまま、歩いて行った。言葉も交わさぬまま。ただただニンマリ笑っていた。
そして、その姿が見えなくなって、エレベーターがやっと降りてきたとき。
ガシャンッ!!!
と、すごい音がした。霊安室からだった。何事かと思い、走る。するとそこには、
「ケ、イさん…?」
ケイさんがいた。目茶苦茶になった霊安室のド真ん中に、凄まじい形相で。左腕が真っ赤で、ありえない方向に曲がってプラプラしていた。明らかに折れている。
「何してんスか!!!」
俺は慌ててケイさんに縋り付くが、ケイさんは折れた左手を気にする様子もなく、意味不明なうめき声をあげながら手当たり次第あるものを壁にぶつけていく。
「あ゙ぁああぁっ!!」
「ケイさん!!ケイさん!!」
こわかった。今まで見たことがないケイさんがいた。どちらかといえばクールで、愛想もなくて無表情なケイさんが、真っ青になりながら玉のような汗をかいてうめきながら物をぶつけている。今までのどんな怪奇現象より怖かった。
俺はとうとうケイさんが狂ったと思い、無我夢中で縋り付いた。多分、俺は泣いていた。しばらくして騒ぎを聞き付けた他のスタッフやドクターがケイさんを押さえつけ、俺をケイさんから引きはがした。
霊安室は目茶苦茶に荒れていて、ベッドに寝ていた仏さんの安らかな死顔が逆に不自然だった。ドクターとスタッフに抱えられてフラフラ歩くケイさんが、何かを呟いた。俺はそれを聞きながら処置室に運ばれ、その日は早退させられた。
次の日から、俺は普通に出勤したが、ケイさんは謹慎処分になった。クビにならないのが不思議なくらいだが、看護・介護業界の人手不足を思えば仕方ないのかもしれない。
ケイさんが暴れた原因は「過労によるノイローゼ」だとか「酒の飲み過ぎによる幻覚」だとかでうやむやにされたけど、俺は違うと思ってた。いや、知っていた。だって、聞いていたから。去り際、ケイさんが呟いた、
「またきた。あのおんなが、みんなつれていく。」
って言葉を。
そんなこんなでケイさんは、10月まで休職になった。…いや、なっていた。だけど結局、ケイさんは今日でみずから仕事をやめてしまった。
俺はケイさんなら、たとえクビになっても出勤してくるだろう、酒片手に職場に乱入するくらいはするだろう、そのくらい朝飯前だろう、そう思っていたし、実際あのあと何回か電話したときも、
「ちゃんと帰るよ」
って言っていたのに。すごくショックだった。実際今もテンパってるし、文章もいつも以上に目茶苦茶だと思う。
あの女の人についても、残念ながらオチはない。ケイさんは話そうとしなかったし、俺のそばからいなくなってしまったから。
まあ、ケイさんとはいろいろとあったし、まだ社員旅行のときの話も踏切の話もあるから、また投下するかもしれない。一生会えないわけじゃないし、また何かあったら是非、投下させてほしいと思う。
でも、とりあえず。俺の怪奇は、今日で終わった。
くらべる図鑑
資本主義はなぜ自壊したのか
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2chの怖い話 シリーズ物まとめ
帰ってくるって言ったくせに、あのメガネめ。そんな憎しみに近い悲しみを抱きつつ、今日はケイさんが休職…というか退職する羽目になったキッカケの出来事について投下しようと思う。
それは8月の終わり頃、俺はエンゼル(死後処置)の為、朝っぱらから駆り出されていた。同期のスタッフや看護学生もみんな出払っていて、確かフロアに残っていたのは夜勤明けのケイさんと、早番だった二人のスタッフだけだったと思う。
その日は確か立て続けに二人亡くなって、特に大変だった。俺は浄式用のバケツやら何やらを抱えて、処置室と病室を行ったりきたりしていた。
そして、たまたま霊安室の前を通りがかったとき。何故か俺は全身に悪寒が走った。鳥肌が異常に立って、熱でも出たのかと思ったくらい、嫌な感覚がした。
気にしない。気にしない。そう自分に言いきかせて、十数メール先のエレベーターまできたとき、ふっ、と霊安室を振り向くと、ちょうど誰かが出てきた。
薄紫のニットを着た女の人だった。多分、今日亡くなった二人の患者さんのどちらかの家族なんだろう。泣いているのか、ひどくうなだれていて、肩くらいの長さの髪が震えていたことを覚えている。
こちらに向かってゆっくり歩いてくるそのひとに、職員として声くらい掛けるべきかと思い、俺は近づいた。
「この度は、ご愁傷様でした」
そう言って頭を下げた。
そして、顔をあげて俺は仰天した。
「っ!!」
女の人の顔が、俺の鼻先5センチくらいのところにあったからだ。しかもその表情は、なんていうか、能面みたいな顔で、口元だけがものすごくニンマリしていた。歪んだ笑顔って、ああゆうのを言うんだと思う。とにかく不気味で、俺は危うくバケツを落としそうになった。女のひとはニンマリ笑ったまま、歩いて行った。言葉も交わさぬまま。ただただニンマリ笑っていた。
そして、その姿が見えなくなって、エレベーターがやっと降りてきたとき。
ガシャンッ!!!
と、すごい音がした。霊安室からだった。何事かと思い、走る。するとそこには、
「ケ、イさん…?」
ケイさんがいた。目茶苦茶になった霊安室のド真ん中に、凄まじい形相で。左腕が真っ赤で、ありえない方向に曲がってプラプラしていた。明らかに折れている。
「何してんスか!!!」
俺は慌ててケイさんに縋り付くが、ケイさんは折れた左手を気にする様子もなく、意味不明なうめき声をあげながら手当たり次第あるものを壁にぶつけていく。
「あ゙ぁああぁっ!!」
「ケイさん!!ケイさん!!」
こわかった。今まで見たことがないケイさんがいた。どちらかといえばクールで、愛想もなくて無表情なケイさんが、真っ青になりながら玉のような汗をかいてうめきながら物をぶつけている。今までのどんな怪奇現象より怖かった。
俺はとうとうケイさんが狂ったと思い、無我夢中で縋り付いた。多分、俺は泣いていた。しばらくして騒ぎを聞き付けた他のスタッフやドクターがケイさんを押さえつけ、俺をケイさんから引きはがした。
霊安室は目茶苦茶に荒れていて、ベッドに寝ていた仏さんの安らかな死顔が逆に不自然だった。ドクターとスタッフに抱えられてフラフラ歩くケイさんが、何かを呟いた。俺はそれを聞きながら処置室に運ばれ、その日は早退させられた。
次の日から、俺は普通に出勤したが、ケイさんは謹慎処分になった。クビにならないのが不思議なくらいだが、看護・介護業界の人手不足を思えば仕方ないのかもしれない。
ケイさんが暴れた原因は「過労によるノイローゼ」だとか「酒の飲み過ぎによる幻覚」だとかでうやむやにされたけど、俺は違うと思ってた。いや、知っていた。だって、聞いていたから。去り際、ケイさんが呟いた、
「またきた。あのおんなが、みんなつれていく。」
って言葉を。
そんなこんなでケイさんは、10月まで休職になった。…いや、なっていた。だけど結局、ケイさんは今日でみずから仕事をやめてしまった。
俺はケイさんなら、たとえクビになっても出勤してくるだろう、酒片手に職場に乱入するくらいはするだろう、そのくらい朝飯前だろう、そう思っていたし、実際あのあと何回か電話したときも、
「ちゃんと帰るよ」
って言っていたのに。すごくショックだった。実際今もテンパってるし、文章もいつも以上に目茶苦茶だと思う。
あの女の人についても、残念ながらオチはない。ケイさんは話そうとしなかったし、俺のそばからいなくなってしまったから。
まあ、ケイさんとはいろいろとあったし、まだ社員旅行のときの話も踏切の話もあるから、また投下するかもしれない。一生会えないわけじゃないし、また何かあったら是非、投下させてほしいと思う。
でも、とりあえず。俺の怪奇は、今日で終わった。
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転職はお早めに
以前、ケイさんという職場の先輩の話を書いた者だが、ちょっとやらかして休職してたそのケイさんが10月から職場復帰するらしいので、今のうちにケイさんとの話をいろいろ投下しようと思う。
ケイさんが休職する一月くらい前。夏のクソ暑い日のこと、俺は夜勤のケイさんに付き合わされて夜の巡回をしていた。
ケイさんに3階の見回りを命令された俺はひとつひとつ部屋を見て周り、異常がないのを確認すると、上にあがる為エレベーターを待っていた。
ウチの職場は、脱走癖のある患者や痴呆の患者が集められている3階のエレベーターには暗証番号式のロックが掛かっているんだが、これがなかなか面倒臭い。他の階に行く度に暗証番号を打ってエレベーターに乗らなきゃいけないし、打ってるあいだに止まっていたエレベーターが動き出して中々来ない…なんてことがよくある。階段もドアに鍵が掛かってるし、面倒なこと極まりない。
ただ、ケイさんいわく、このロックにはただ患者の脱走防止のためだけにあるわけではないらしい。なんでも痴呆がある人ってのは「そうゆうもの」を呼び寄せやすいらしく、つまりウチの病院の3階は幽霊だの何だのがめちゃめちゃいらっしゃってる場所なのだと。そして、「そうゆうもの」を引き連れた3階の患者が他の階に「そうゆうもの」を置いていかないように隔離しているんだと。
かなり嘘くさい話だし、俺自身その話聞いたときは鼻で笑った。でも、深夜にその3階でエレベーターを待っている身としては思い出すと結構怖かったりする。
だいたい、そんな話をしておきながら3階の巡回を命じるケイさんはやはり鬼畜だと思う。まあそんなわけで、俺はガクブルしながらエレベーターが降りてくんのを待っていた。7、6、5…だんだん下がってくる。
そんとき、4階でエレベーターが止まった。ケイさんが乗ってきたのかと思い意味もなく身構える。すると廊下の奥からキィー、キィーと車イスの音が聞こえてきた。暗くて見えないが、ああ誰かトイレでも行くのかな。と思った。
ちょうどそのとき、エレベーターのドアが開いた。ケイさんが出てくる、と思ったが出てこない。あれ、おかしい。なんで出てこないんだ。そう思いながら乗り込み、ケイさんがいる4階へ向かった。車イスの音はまだかすかに聞こえていたが、次第に聞こえなくなっていた。
4階につき、エレベーターを降りると、とたんに鋭い声が飛んで来た。
「バカ野郎!!」
声の主はもちろんケイさんだった。怒鳴られたのはもちろん俺。
「な、なんですか」
「テメェ、毎回毎回ざけんじゃねぇよカス。役立たずの疫病神が。」
眉間に5本ほどシワをたたえたケイさんに、暴言をはかれた揚句アゴを鷲づかまれた。痛みと驚きに悲鳴をあげると、
「飲め。」
と言われてペットボトルを口に突っ込まれた。中身は日本酒らしく、嫌なツンとしたにおいがした。
「ケイさん、俺、未成年なんですけど…」
つか、職場に、しかも夜勤中に酒ってどうよ。しかしケイさんはお構いなしに言った。
「お前、ヤられやすいっつったろ。面倒臭ぇの連れてきやがって。」
サーッと血の気が引いた。
「ま、まさか」「気味悪くニタニタ笑いやがってよ。白目剥いてるわヨダレたらしてるわ口裂けてるわで。首ひっくり返ってやがるし。夢見のワリィ。」
つまり、気味悪くニタニタ笑う、白目剥いてヨダレたらして口裂けてる首ひっくり返った「何か」が俺についてきてたらしい。そして、「それ」をまたもケイさんが払ってくれた?らしい。
「お前、本当いい加減にしろ」
ケイさんは非常に不機嫌そうに頭をボリボリかきながらステーションに戻っていった。おそらく除霊の為に飲ませてくれたのであろう日本酒の残りは、ご丁寧に自分のポケットに再び忍ばせて。アル中め。
しかし、なにはともあれ俺はさりげないケイさんの優しさに感謝しながら、ケイさんに続いてステーションに入り、巡回の記事を書く為3階のカルテを手にとったそして、ずらりと並んだカルテのネームを見て気付いた。
3階には、車イスを使っている患者さんはいないことに。
痴呆はあっても、歩ける人しかいない
なら、
あ の 車 イ ス の 音 は ?
震える手でカルテを書きながら、俺は本気で転職を考えた。
日本を貶めた10人の売国政治家
16歳の教科書
ケイさんが休職する一月くらい前。夏のクソ暑い日のこと、俺は夜勤のケイさんに付き合わされて夜の巡回をしていた。
ケイさんに3階の見回りを命令された俺はひとつひとつ部屋を見て周り、異常がないのを確認すると、上にあがる為エレベーターを待っていた。
ウチの職場は、脱走癖のある患者や痴呆の患者が集められている3階のエレベーターには暗証番号式のロックが掛かっているんだが、これがなかなか面倒臭い。他の階に行く度に暗証番号を打ってエレベーターに乗らなきゃいけないし、打ってるあいだに止まっていたエレベーターが動き出して中々来ない…なんてことがよくある。階段もドアに鍵が掛かってるし、面倒なこと極まりない。
ただ、ケイさんいわく、このロックにはただ患者の脱走防止のためだけにあるわけではないらしい。なんでも痴呆がある人ってのは「そうゆうもの」を呼び寄せやすいらしく、つまりウチの病院の3階は幽霊だの何だのがめちゃめちゃいらっしゃってる場所なのだと。そして、「そうゆうもの」を引き連れた3階の患者が他の階に「そうゆうもの」を置いていかないように隔離しているんだと。
かなり嘘くさい話だし、俺自身その話聞いたときは鼻で笑った。でも、深夜にその3階でエレベーターを待っている身としては思い出すと結構怖かったりする。
だいたい、そんな話をしておきながら3階の巡回を命じるケイさんはやはり鬼畜だと思う。まあそんなわけで、俺はガクブルしながらエレベーターが降りてくんのを待っていた。7、6、5…だんだん下がってくる。
そんとき、4階でエレベーターが止まった。ケイさんが乗ってきたのかと思い意味もなく身構える。すると廊下の奥からキィー、キィーと車イスの音が聞こえてきた。暗くて見えないが、ああ誰かトイレでも行くのかな。と思った。
ちょうどそのとき、エレベーターのドアが開いた。ケイさんが出てくる、と思ったが出てこない。あれ、おかしい。なんで出てこないんだ。そう思いながら乗り込み、ケイさんがいる4階へ向かった。車イスの音はまだかすかに聞こえていたが、次第に聞こえなくなっていた。
4階につき、エレベーターを降りると、とたんに鋭い声が飛んで来た。
「バカ野郎!!」
声の主はもちろんケイさんだった。怒鳴られたのはもちろん俺。
「な、なんですか」
「テメェ、毎回毎回ざけんじゃねぇよカス。役立たずの疫病神が。」
眉間に5本ほどシワをたたえたケイさんに、暴言をはかれた揚句アゴを鷲づかまれた。痛みと驚きに悲鳴をあげると、
「飲め。」
と言われてペットボトルを口に突っ込まれた。中身は日本酒らしく、嫌なツンとしたにおいがした。
「ケイさん、俺、未成年なんですけど…」
つか、職場に、しかも夜勤中に酒ってどうよ。しかしケイさんはお構いなしに言った。
「お前、ヤられやすいっつったろ。面倒臭ぇの連れてきやがって。」
サーッと血の気が引いた。
「ま、まさか」「気味悪くニタニタ笑いやがってよ。白目剥いてるわヨダレたらしてるわ口裂けてるわで。首ひっくり返ってやがるし。夢見のワリィ。」
つまり、気味悪くニタニタ笑う、白目剥いてヨダレたらして口裂けてる首ひっくり返った「何か」が俺についてきてたらしい。そして、「それ」をまたもケイさんが払ってくれた?らしい。
「お前、本当いい加減にしろ」
ケイさんは非常に不機嫌そうに頭をボリボリかきながらステーションに戻っていった。おそらく除霊の為に飲ませてくれたのであろう日本酒の残りは、ご丁寧に自分のポケットに再び忍ばせて。アル中め。
しかし、なにはともあれ俺はさりげないケイさんの優しさに感謝しながら、ケイさんに続いてステーションに入り、巡回の記事を書く為3階のカルテを手にとったそして、ずらりと並んだカルテのネームを見て気付いた。
3階には、車イスを使っている患者さんはいないことに。
痴呆はあっても、歩ける人しかいない
なら、
あ の 車 イ ス の 音 は ?
震える手でカルテを書きながら、俺は本気で転職を考えた。
日本を貶めた10人の売国政治家
16歳の教科書
ケイさん
俺の職場には、いわゆる『見える人』がいる。仮にケイさんとしておくが、この人は本当にヤバい人だ。見た目はちょっと派手なだけで、ほかは割合普通の男の人なんだけど。
やっぱり違う。
まあ、俺もいわゆる『感じる人』で、はっきり見えたりはしないが、しばしば嫌な気配を感じたりすることはあった。でもケイさんはケタが違う気がする。
ちなみに職場ってのは病院、しかも老人や重病者が集まる、つまりは末期医療専門の病院だ。ケイさんは看護師さん、俺は介護職員をしている。そんな職場だから、人の死を目の当たりにすることは多々ある、いやむしろ毎日だ。
でも、幽霊ってのは、そうそう簡単には現れない。いくらバタバタ人が死んでも、みんな幽霊になるってわけじゃないだろうし。幽霊だのお化けだの、見えないのが普通だ。
だけど、ケイさんは違う。
「石田さん。」
ケイさんは、突然なにもない廊下の隅に話掛けたりする。
「ここにいてもダメです。ほら、お部屋に戻ってください。」
まるで誰かがそこにいるように、話掛ける。誰もいないのに。
俺も最初は、アル中か何かで幻覚見てんだろ、アブねーやつ。とか思ってたけど、その考えは間違っていたことに気付いたのが、ちょうど半年前のこと。
その日、ケイさんと俺は夜勤で、早寝のケイさんはあと10分で仮眠、俺は巡回に行くはずだった。なのに、
「…おい。」
カルテを書いてると、すっげぇ不機嫌な声で、ケイさんが声掛けて来た。ただでさえ目付き悪いのに、睨まれると目茶苦茶ビビる。
「な、なんですか」
俺は、怯えながら返事をした。ケイさんは苛々した様子で、俺の肩に何かを投げ付けてきた。
「余計なモン連れてきてンじゃねーよ。」
明らかに怒ってるケイさんが投げてきたのは、鏡だった。
そういえば、ケイさんの怒気にあてられてあまり気にしてなかったが、さっきから異様な寒気がしている。それに気付いて、恐る恐る鏡を覗く。
すると。
「あ、あ、あああああ」
腕、っつーか、指?が俺の肩に乗ってた。ちょっと考えられない折れ曲がり方した指。中指と一差し指が三つ折りになってる。明らかに、生きてる人の指ではない。しかも俺は、その指に見覚えがあった。
「さ、坂上さんだ…」
その指の先にある小さなホクロ、一薬指につけられた安物のリング。それは間違いなく、坂上さん…数時間前に肺炎で亡くなったじいさんの指だった。違うのは、その指の曲がり方だけ。
ベキベキ音をたてながら、今度はリングがされた薬指が三つ折りになる。
「ケイさん!!助けてください!!」
俺はケイさんに助けを求めた。なのにケイさんは、
「俺、坂上のじーさん嫌いなんだよな。」
ションベンくせーし、ワガママだし。と、看護師としてあるまじき暴言をはいて、煙草に火ぃつけやがった。
「ケイさん…」
半泣きになってすがる。でも、このドSな先輩は謗らぬ顔で。恥ずかしながらこの歳になって俺は泣きべそをかきまくっていた。
そんな俺がいい加減ウザくなったのか、ケイさんは「んー」と唸ると、
「坂上さん。連れてく人が違いますよ」
と、俺の背中の向こう側に声を掛けた。その途端、空気は軽くなり寒気は消え、
「ああ、いなくなった」
と俺は無意識に思った。そして、ケイさんに死ぬほど感謝した。
でも当のケイさんは
「お前、ヤられやすいから気ぃつけろ。つか俺に迷惑かけんなウザイ。死ね。」
と言い残すと、仮眠室に消えていった。しかしそれから数分後、ケイさんは
「エンゼルの用意しとけよ」
と仮眠室から顔を出した。エンゼル、ってのはつまり、死後処置だ。
「何でデスか」
聞き返すと、
「坂上のジジィ、死んでからも迷惑掛けやがって。死人はさっさと死んどけよ」
と意味不明なことを呟き、また仮眠室に引っ込んだ。
それから数時間後、ケイさんが仮眠を終えた頃。立て続けに患者が2人亡くなった。俺は嫌な予感を覚えながら、準備していたエンゼルを行った。
仕事が終わり一息つくと、ケイさんがこれ以上ないくらい不機嫌そうな顔で戻ってきた。
「ケイさん、まさか、」「テメェのせいで散々な夜勤だった。あのまま放っとけばよかったかな」
俺が聞き終える前に、ケイさんが言った。
「じゃあやっぱり」「逝き遅れた年寄りほど見苦しいモンはないぜ。手当たり次第連れていきやがる。」
やっぱりあのとき、坂上さんは僕を連れていくつもりだったらしい。それをケイさんが助けてくれたんだ。だから坂上さんはかわりに患者さん二人を連れてったんだと思うと多少胸が痛んだが、俺はとにかくあらためてケイさんに感謝した。。 「ありがとうした、俺、なんて御礼言ったらいいか…」
「あん?当然だろ?」
ケイさんが煙草に火をつけながら言った。
「あんときお前が連れていかれてたら、俺の仮眠時間が無くなってたじゃねぇか。」
このセリフを聞いたときほど、ケイさんを怖いと思ったことはなかった。
今現在、ケイさんはある厄介なことをやらかして休職中だが、あの人とは他にもいくつかヤバイ体験をしたので、とりあえずあの人が職場復帰するまでに、いくつか書いていきたいと思う。
最後のパレ-ド
竹中式マトリクス勉強法
やっぱり違う。
まあ、俺もいわゆる『感じる人』で、はっきり見えたりはしないが、しばしば嫌な気配を感じたりすることはあった。でもケイさんはケタが違う気がする。
ちなみに職場ってのは病院、しかも老人や重病者が集まる、つまりは末期医療専門の病院だ。ケイさんは看護師さん、俺は介護職員をしている。そんな職場だから、人の死を目の当たりにすることは多々ある、いやむしろ毎日だ。
でも、幽霊ってのは、そうそう簡単には現れない。いくらバタバタ人が死んでも、みんな幽霊になるってわけじゃないだろうし。幽霊だのお化けだの、見えないのが普通だ。
だけど、ケイさんは違う。
「石田さん。」
ケイさんは、突然なにもない廊下の隅に話掛けたりする。
「ここにいてもダメです。ほら、お部屋に戻ってください。」
まるで誰かがそこにいるように、話掛ける。誰もいないのに。
俺も最初は、アル中か何かで幻覚見てんだろ、アブねーやつ。とか思ってたけど、その考えは間違っていたことに気付いたのが、ちょうど半年前のこと。
その日、ケイさんと俺は夜勤で、早寝のケイさんはあと10分で仮眠、俺は巡回に行くはずだった。なのに、
「…おい。」
カルテを書いてると、すっげぇ不機嫌な声で、ケイさんが声掛けて来た。ただでさえ目付き悪いのに、睨まれると目茶苦茶ビビる。
「な、なんですか」
俺は、怯えながら返事をした。ケイさんは苛々した様子で、俺の肩に何かを投げ付けてきた。
「余計なモン連れてきてンじゃねーよ。」
明らかに怒ってるケイさんが投げてきたのは、鏡だった。
そういえば、ケイさんの怒気にあてられてあまり気にしてなかったが、さっきから異様な寒気がしている。それに気付いて、恐る恐る鏡を覗く。
すると。
「あ、あ、あああああ」
腕、っつーか、指?が俺の肩に乗ってた。ちょっと考えられない折れ曲がり方した指。中指と一差し指が三つ折りになってる。明らかに、生きてる人の指ではない。しかも俺は、その指に見覚えがあった。
「さ、坂上さんだ…」
その指の先にある小さなホクロ、一薬指につけられた安物のリング。それは間違いなく、坂上さん…数時間前に肺炎で亡くなったじいさんの指だった。違うのは、その指の曲がり方だけ。
ベキベキ音をたてながら、今度はリングがされた薬指が三つ折りになる。
「ケイさん!!助けてください!!」
俺はケイさんに助けを求めた。なのにケイさんは、
「俺、坂上のじーさん嫌いなんだよな。」
ションベンくせーし、ワガママだし。と、看護師としてあるまじき暴言をはいて、煙草に火ぃつけやがった。
「ケイさん…」
半泣きになってすがる。でも、このドSな先輩は謗らぬ顔で。恥ずかしながらこの歳になって俺は泣きべそをかきまくっていた。
そんな俺がいい加減ウザくなったのか、ケイさんは「んー」と唸ると、
「坂上さん。連れてく人が違いますよ」
と、俺の背中の向こう側に声を掛けた。その途端、空気は軽くなり寒気は消え、
「ああ、いなくなった」
と俺は無意識に思った。そして、ケイさんに死ぬほど感謝した。
でも当のケイさんは
「お前、ヤられやすいから気ぃつけろ。つか俺に迷惑かけんなウザイ。死ね。」
と言い残すと、仮眠室に消えていった。しかしそれから数分後、ケイさんは
「エンゼルの用意しとけよ」
と仮眠室から顔を出した。エンゼル、ってのはつまり、死後処置だ。
「何でデスか」
聞き返すと、
「坂上のジジィ、死んでからも迷惑掛けやがって。死人はさっさと死んどけよ」
と意味不明なことを呟き、また仮眠室に引っ込んだ。
それから数時間後、ケイさんが仮眠を終えた頃。立て続けに患者が2人亡くなった。俺は嫌な予感を覚えながら、準備していたエンゼルを行った。
仕事が終わり一息つくと、ケイさんがこれ以上ないくらい不機嫌そうな顔で戻ってきた。
「ケイさん、まさか、」「テメェのせいで散々な夜勤だった。あのまま放っとけばよかったかな」
俺が聞き終える前に、ケイさんが言った。
「じゃあやっぱり」「逝き遅れた年寄りほど見苦しいモンはないぜ。手当たり次第連れていきやがる。」
やっぱりあのとき、坂上さんは僕を連れていくつもりだったらしい。それをケイさんが助けてくれたんだ。だから坂上さんはかわりに患者さん二人を連れてったんだと思うと多少胸が痛んだが、俺はとにかくあらためてケイさんに感謝した。。 「ありがとうした、俺、なんて御礼言ったらいいか…」
「あん?当然だろ?」
ケイさんが煙草に火をつけながら言った。
「あんときお前が連れていかれてたら、俺の仮眠時間が無くなってたじゃねぇか。」
このセリフを聞いたときほど、ケイさんを怖いと思ったことはなかった。
今現在、ケイさんはある厄介なことをやらかして休職中だが、あの人とは他にもいくつかヤバイ体験をしたので、とりあえずあの人が職場復帰するまでに、いくつか書いていきたいと思う。
最後のパレ-ド
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ドルイド信仰
211 その1 sage 2009/12/27(日) 23:05:16 ID:7jwJJ7JM0
【ドルイド信仰】
ドルイドとは、ケルト人社会における祭司のこと。Daru-vid「オーク(ブナ科の植物)の賢者」の意味。
ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。ドルイドはヤドリギの巻きついたオークの木の下で儀式を執り行っていた。
柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、
その命を神に奉げるという、人身御供の祭儀も行っていた。
刑罰の一種として、森林を違法に伐採した場合、樹木に負わせた傷と同じ傷を犯人に負わせて木に縛り付け、樹木が許してくれるまで磔にするという刑罰もあった。
自分の叔父は、仕事柄、船で海外に行く事が多かった。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。
1年の6~7割は海外(特に北欧)で仕事をしている様な人で、日本に帰って来ている時は良く遊んでもらったものだ。
今は既婚で、引退して悠々自適な生活を送っており、知識も豊富でバイタリティ溢れる快男児だ。
以前も、2話程、叔父関連の話を書いているはずだ。その叔父に、こんな恐ろしい話を聞いた。
当時叔父は30代で、彼女とマンションに同棲しており、幸せに暮らしていた。
ひょんな事から、お隣さんと親しくなったらしい。お隣さんは年配の夫婦で、病気の子供が1人。
旦那さんも仕事柄、海外に飛ぶ事が多いとの事だった。話題も合うと言う事で、叔父とは意気投合し、
その奥さんも温厚で、夕食を呼んだり呼ばれたりする仲にまでなったそうだ。ある年の真冬。
そのご夫婦と賑やかな食卓を共にしていると、そのご夫婦の別荘の話題になった。
何でも、関東近郊の閑静な山奥に、別荘を1つ所有しているらしい。
近くには小川もあり、魚等も釣れ、年に1度は家族で、病気の息子の療養がてら遊びに行くらしい。
どうやら今年は仕事の関係で行けなくなったらしく、叔父達に、良かったら使ってくれても良い、との事だった。
アウトドア好きな叔父は、喜んで使わせてもらう事になった。そんな叔父と趣味も合った彼女も賛同したらしい。
そして、翌年の年明け、叔父は彼女と共に、その別荘へと向かった。
212 その2 sage 2009/12/27(日) 23:06:55 ID:7jwJJ7JM0
あまり舗装されていない山道を、40分ほど登った場所にその別荘はあった。
別荘を目にした途端、彼女の溜息が聞こえたそうだ。感動ではない方の。
「ホント、掘っ立て小屋みたいな感じだよ。こっちは小洒落たロッジ的なモノを想像してたんだけどな。
あの夫婦の説明を聞く限り、誰でもそう思うと思うよ」
叔父は苦笑しながら言った。とにかく、その「別荘」はお粗末なモノだったらしい。
木造平屋で、狭い玄関。猫の額ほどのキッチン。古びた押入れに入った布団。暖炉がある広間がやや広い事だけは救いだったらしい。
来てしまったモノは仕方がないので、なるべく自分達が楽しむ事にしたと言う。
昼は川魚を釣ったり、近辺の林を散策し、野草を採ったり。それらは夕飯には天ぷらとして食卓に並び、それはそれで楽しい夕飯だったそうだ。
「野草を採ってる時に、かろうじて遠くに別荘が見えるくらいの距離の、少しだけ森の深くに行ったんだが…
その時にちょっと気になるモノがあってな。ナラ(楢)の木があったんだよ。クヌギなんだけどな。
この森にクヌギの木ってちょっと浮いててな。周りは違う種類ばかりだし、明らかにそこだけ近年植林したんじゃないかなぁ。上にヤドリギも撒きついてたよ。
クヌギは10年も経てば、大きくなるからな。で、気味が悪いのが、そのクヌギに何か文字が彫ってあってな。
オガム文字って言ってな。古代のドルイド(上記参照)等が祭祀に使ってた文字なんだよ。
横線を基準と見て、その上下に刻んだ縦や斜めの直線1-5本ほどで構成されててな、パッと見文字には見えないんだが…
ま、何て書いてあるかまでは分からんが、不気味ではあるよな。日本だぜここは」
叔父の様にオカルト方面に知識がある人から見たら、確かに不気味なのだろう。
そんなこんなで、その日の就寝の時に事件は起こった。
叔父が窓や玄関の戸締りを確認しようとしていた時の事だった。
「何で最初に気がつかなかったんだろうな。鍵がな、外側にもついてるんだよ。」
つまり、窓の内鍵とは別に、窓の外側にも鍵がついているのだ。玄関の入り口の戸にも。
「これはヤバイ、と思ったな。部屋の中に家具が異様に少ないのも実は気になってたんだよ。
生活に必要最小限のモノだけ…それも、全て木造で燃えやすく…パッと思い浮かんだのが、ウィッカーマンだな」
213 その4 sage 2009/12/27(日) 23:07:45 ID:7jwJJ7JM0
映画にもなり、近年リメイクもされたのでご存知の人も多いと思うが、上記でも書いた様に、
「柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、神に捧げる」
と言うおぞましい秘儀が、古代ドルイドの祭儀であるのだ。
それを英語では「ウィッカーマン(wicker man)」、編み細工(wick)で出来た人型の構造物、と言うらしい。
「彼女を不安がらせない様にその事や鍵の事も秘密にし、俺だけ起きてる事にしたよ。全部の内鍵開けてな。そしたら、夜中だよ」
砂利を踏む音と、人の気配が別荘の外でした。すかさず窓を開ける。例のお隣の夫婦の旦那だった。
「何をなさってるんですか?」
叔父に急に見つかり、厳しい声を投げかけられた旦那は、驚愕の表情でしどろもどろだったと言う。
「いや、その…大丈夫かなと…」
「大丈夫じゃなないですよ。その缶は何です?灯油の缶じゃないんですか?」
「い…いや…ストーブの灯油を切らしちゃいかんと思ってね…」
「暖炉がありますよね?」
「いや…まぁ」
叔父は、外鍵の事を厳しく追及した。旦那が弁解するには、この別荘も人から譲り受けたモノで、外鍵はその当時からついていたらしい。
「信じるわけないわな。そんな気味の悪い家で誰が泊まりたがる?」
叔父はまったく旦那の言う事は信用しなかった。外の騒ぎで、寝ていた彼女も置きだし、不安そうな顔を覗かせていた。
「○○さん(旦那)…あんた、ドルイドの何かやってるんじゃないでしょうね」
「は…? 何ですかそれは」
「とぼけたって良いんですよ?裏の森のクヌギ。良い薪になりそうだなぁ」
「な…何を言うんですか!!」
「あんた、俺らをウィッカーマンにして、捧げようとしたんじゃないのかっ!!」
「…」
本当の事を言わないのなら、クヌギを切り倒す、と脅した叔父に対し、旦那は全てを話し始めた。
214 その4、前記はその3 sage 2009/12/27(日) 23:08:32 ID:7jwJJ7JM0
前にも述べた通り、この夫婦には重い病気の息子がいる。治療法は、病の進行を遅らせる、強い副作用のある方法しかない。
あらゆる方法を試したが、病は一向に癒える気配は無かった。そんな藁にも縋る思いも極まった時の事。
15年前、仕事先で訪れたウェールズのある村で、ドルイドの呪術師に出会ったと言う。
そのドルイドの呪力が篭ったオークの木の苗を、大枚叩いて旦那は買い、日本へ持ち帰った。
そのドルイドから授けられた秘術は、毎月6日に、白い衣装を見に付けオークの木に登り、
ドルイドから譲り受けた(これも大枚叩いて買ったらしい)鎌でオークに寄生しているヤドリギの枝を切り取り、
「生贄」をオークの木に捧げる、と言うものらしい。その祭儀の見返りの願いは言うまでも無く、息子の病を治す事、だ。
「確かに、その日は1月6日だったなぁ…」
「生贄って…」
俺は恐る恐る叔父に聞いた。
「最初は、小動物とかだったらしいよ。ハムスターとか、野良猫とか、犬とかな。クヌギの木の根元に埋めて。
心なしか、大きな動物になればなる程、息子の病が(良くなっている様な気がした)らしい。
まぁ、そのドルイドに1杯食わされたんだろうけどな。でも病気の子供を持つ、悲しい親の愛とは言えども、
あんまりじゃないか?俺らを焼き殺そうとするなんて」
叔父は笑いながら言った。それから、懇々とその旦那を説き伏せたらしい。
人を呪わば穴二つ。そんな事をしても、何も良い事はない。オカルト方面に詳しい叔父だけに、
様々な知識も動員して、旦那を説き伏せた。
「50にもなろうかと言うオッサンが、声上げて泣いてたなぁ。まぁ、俺らも殺されそうにはなったとは言え、
その旦那の気持ちも分からんでもないからなぁ。同情心もあって。彼女も少しもらい泣きしてたかな。
旦那も、クヌギも別荘も処分する事を約束してくれてな。明日にでも、特にクヌギの処分は俺ら同伴で」
「じゃあ、この件は、警察沙汰にもならずに一件落着、と」
「ところがなぁ。あのオークは(本物)だったんだなぁ」
215 その5 sage 2009/12/27(日) 23:09:32 ID:7jwJJ7JM0
何とか旦那を説き伏せて、暖かいコーヒーを飲みながら、3人が落ち着いてきたその時。
旦那の携帯が鳴った。奥さんの声が否が応でも聞こえてきたと言う。ヒステリックな金切り声だ。
明らかに「殺したの?捧げたの?やったの?」と傍の叔父にも聞こえて来たと言う。
あんなに温厚に見えた奥さんの方が、実はこの件では主導権を握っていたのだ、と思いゾッとしたと言う。
奥さんは東京のマンションから電話をしているらしい。
旦那は、ある程度は言い返してはいたが、奥さんの凄い剣幕に終始押され気味だったと言う。
たまりかねて叔父が電話を変わり、物凄い口論となった。それは、一時は殺されそうになり、
まだ片方が殺意を剥き出しにしているのだから、激しい感情のぶつかり合いになるのは至極当然だろう。
叔父の彼女も、先ほどの涙とはうって代わり、叔父に負けじと口論に加わったと言う。
「こりゃ将来尻に敷かれるなぁ、と思ったね、その時は」
叔父は苦笑しながら言った。確かに今は尻に敷かれている様だ。
やがて、叔父がたまりかねて、警察、裁判沙汰、をちらつかせる様になると、やっと奥さんも大人しくなり、しぶしぶ旦那の話も聞くようになってきたと言う。
一応、いざこざの一段落はついた。流石にその日は深夜になっていたので、その別荘で休む事になった。
「一応さ、話はついたけど、まさか眠るわけには行かないよな。あんな事されそうになって」
暖炉の広間で、叔父と彼女が身を寄せ合って座り、離れた場所に、旦那が申し訳なさそうに座っていた。
「明日、旦那の知り合いの業者に手伝ってもらい、クヌギの木は切り倒す事を約束してもらったからさ、それを見届けるまではな」
3人ともその日は寝ずに、朝を迎える予定だった。夜もさらに深まった午前3時頃だったと言う。
216 その6 sage 2009/12/27(日) 23:11:05 ID:7jwJJ7JM0
「ザッ ザッ ザッ」
と、森の奥から何かが近づいてくる音が聞こえた。野生の動物か、野犬か。
コックリコックリと船を漕いでいた叔父も、その音に目が覚めた。
「明らかに人間に近い足音と気づいた途端、ゾッとしたね」
最初は奥さんが来た、と思ったらしいが、あの電話を終えてからこんな短時間でここまで来れるわけがない。
いや、あの電話は実は近くからかけていたとしたら…もしくは、他に仲間がいたとしたら…?
叔父は寒さなどお構い無しに、全ての窓や戸を開け、アウトドア用のナイフを手に、臨戦態勢で息を殺していた。
「ザッ ザッ ザッ」と言う音は一向に止む事はなく、明らかにこの小屋に向かっている。
「それから10分後くらいかな。もうな、普通にこの小屋を訪ねて来るように、玄関の戸に立ったんだよ。足音の主が」
「○○?(妻の名前)」
と旦那が叫んだ。が、すぐ、驚愕から恐怖の悲鳴に変わった。
「奥さんの様で、奥さんじゃないんだよ。顔は、ほとんど同じなんだな。だが生気が無いと言うか。
で、この真冬に素ッ裸だぜ? でな、最初は旦那は(妻の様なモノ)の裸に驚いて声を上げたと思ったんだよ。
違うんだよな。肌の質感も色も、木、そのものなんだよ。で、もっと怖かったのは、
左右の手足が逆についてるんだよ。分かるか? それが玄関に上がって来ようとしてな、
右足と左足が逆なもんだから、動きがおかしいんだよ。上がり口に何度もつっかえたりして。それが何よりおそろしくてなぁ」
確かに想像するだけでもイヤな造形だ。
218 その7 sage 2009/12/27(日) 23:12:45 ID:7jwJJ7JM0
「彼女は絶叫してたな。旦那も。明らかに、妻じゃないって確信したと思う。
でもな、一応人間の形はしてるんだからさ。刺せないぜぇ?なかなかそんなモノを。
やっぱ、人間の心ってリミッターあるからさ。もし人間だったらどうしよう、とか思うよ」
それは確かに分かるような気がする。
「でな、その(妻の様なモノ)がとうとう小屋の中に入ってきて、何か言うんだよ。
それも、何言ってるか分からなくてな。カブトムシの羽音みたいな音を喉から出して。
で、左右逆の足でヨタヨタしながら、俺の方に向かって来るわけだ。しかし、俺も真面目なもんだよなぁ。
それでも最後に一応、○○さんですかっ!?って聞いたよ。さっきのリミッターの話な。
それでも、ソイツは虫の羽音の様な耳障りな音を喉から発して、これまた左右逆の両腕を伸ばし、
俺の首を絞めてきたもんだから、思いっきりソイツの腹を前蹴りで蹴ったよ。
すると、腹がボロボロ崩れて、樹液みたいな液を撒き散らし、腹に空洞が出来てやんの。
それで決心出来たんだよな。あぁ、これは人間じゃないから、ヤッちゃって良いんだ、ってな」
と、豪快に笑いながら叔父は言った。こういう時の度胸を決めた叔父は、本当に頼もしく見える。
不気味な声を発しながら、ソイツは起き上がって来たらしい。叔父は、ナイフをソイツの脳天に1発、
もう1度蹴り倒したら、空洞の腹を貫通し、胴体が千切れたらしい。彼女と旦那の絶叫が一段と激しくなったと言う。
「で、腹の中から異臭のする泥やら、ムカデやら色んな虫がワラワラ出てきてさ。
もう部屋中パニックだったな。床に倒れたソイツの人型も段々ボロボロと崩壊していって、床には泥と虫だけが残ったね。
気持ち悪くて、ほとんど暖炉に放り込んだな。突立てたナイフがいつの間にか消えてたのが気になったけどな」
219 その8 sage 2009/12/27(日) 23:13:36 ID:7jwJJ7JM0
その凄惨なな格闘が終わり、全ての残骸を暖炉に投げ込んだ後、すぐさま旦那に妻へと電話をさせたらしい。妻はすぐに出た。
「妻は死んでいた!とかやはりそういうのは心配するだろ、形が形だけに。元気だったけどな。まぁキョトンとしてたな。
流石に今起きた事は言わなかったけどな。後で旦那が話したかどうかは知らないが…
でも、流石に全て終わった後に恐怖が襲って来たね。手足とか震えて来てな。彼女はずっと泣いてたな。
で、1番怖かったのは、彼女が暫くして変な事言い始めたんだよな。何でアレに○○さんですか?と問いかけたのか、と。
変な事聞くなぁ、と思ったね。顔ははどう見てもあの奥さんなんだから」
「で、どういう事だったのかな?」
俺が聞くと、叔父は気味が悪そうにこう言った。
「よく、自分の形をしたモノの頭にナイフなんて突き立てられたね、って彼女はこう言ったんだよ。
つまり、彼女にはあの化け物が、俺の姿に見えてたんだよな」
叔父が想像する所は、次の様な事らしい。古代ドルイドの秘儀で、オークの木に邪悪な生命が宿った。
それに、あの妻の怨念も乗り移り、生贄が止まった事に見兼ねて、自ら実体化して現れた、と。
そして、見る対象者によっては、あの化け物が様々な姿形に見えるのではないか、と。
223 完 sage 2009/12/27(日) 23:27:17 ID:7jwJJ7JM0
「翌日、日が真上に昇るまでまって、あの木を見に行ったよ。
木の表面が、2cm程陥没してて、1m60cmくらいの人型になってたな。そして、頭部らしき箇所に俺のナイフが突き立ってたな」
やがて、夕方になり旦那の知り合いの業者がやってきて、クヌギを木を切り始めたと言う。
「最初にチェーンソーが入るときと、木が倒れる時。完全に聴こえたんだよ。女の絶叫がね。俺と彼女と旦那だけ聴こえた様子だったな。
で、切り株と根っこまで根こそぎトラックに積んでたんだが、小動物の骨が出るわ出るわ。
業者も帰りたがってたな。さっきの人型と良い、そりゃ気味悪いよな。まぁ、人骨が出なかっただけマシかぁ?」
後日、隣の夫婦がそれなりの品物を持って謝罪に訪れたと言う。
「受け取ってすぐ捨てたけどなぁ。やっぱり、色々勘ぐってしまうよな」
そして、すぐ夫婦は引っ越し、叔父たちもその後すぐにマンションを引き払ったらしい。暫くして、叔父は彼女とは一時別れてしまったそうだ。
「そんな事もあったねぇ」
紅茶を飲みながら、叔母が懐かしそうに言った。
「そうだな…あぁ、そう言えば…」
叔父が庭の木を見つめて呟いた。
「ウチにもオーク、ナラのカシワの木があったな。縁起物だから、新築の時植えたんだがな。
まぁ、アレだな。モノは使い様と言うか…人間の心次第と言う事かな。
それがプラスかマイナスかで。有り様が変わってくるからな」
そして、叔父の話は終わった。今度来るときは、カシワの葉で包んだ柏餅をご馳走してもらい事を約束し、
その日は叔父夫婦の家を後にした。
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ドルイドとは、ケルト人社会における祭司のこと。Daru-vid「オーク(ブナ科の植物)の賢者」の意味。
ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。ドルイドはヤドリギの巻きついたオークの木の下で儀式を執り行っていた。
柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、
その命を神に奉げるという、人身御供の祭儀も行っていた。
刑罰の一種として、森林を違法に伐採した場合、樹木に負わせた傷と同じ傷を犯人に負わせて木に縛り付け、樹木が許してくれるまで磔にするという刑罰もあった。
自分の叔父は、仕事柄、船で海外に行く事が多かった。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。
1年の6~7割は海外(特に北欧)で仕事をしている様な人で、日本に帰って来ている時は良く遊んでもらったものだ。
今は既婚で、引退して悠々自適な生活を送っており、知識も豊富でバイタリティ溢れる快男児だ。
以前も、2話程、叔父関連の話を書いているはずだ。その叔父に、こんな恐ろしい話を聞いた。
当時叔父は30代で、彼女とマンションに同棲しており、幸せに暮らしていた。
ひょんな事から、お隣さんと親しくなったらしい。お隣さんは年配の夫婦で、病気の子供が1人。
旦那さんも仕事柄、海外に飛ぶ事が多いとの事だった。話題も合うと言う事で、叔父とは意気投合し、
その奥さんも温厚で、夕食を呼んだり呼ばれたりする仲にまでなったそうだ。ある年の真冬。
そのご夫婦と賑やかな食卓を共にしていると、そのご夫婦の別荘の話題になった。
何でも、関東近郊の閑静な山奥に、別荘を1つ所有しているらしい。
近くには小川もあり、魚等も釣れ、年に1度は家族で、病気の息子の療養がてら遊びに行くらしい。
どうやら今年は仕事の関係で行けなくなったらしく、叔父達に、良かったら使ってくれても良い、との事だった。
アウトドア好きな叔父は、喜んで使わせてもらう事になった。そんな叔父と趣味も合った彼女も賛同したらしい。
そして、翌年の年明け、叔父は彼女と共に、その別荘へと向かった。
212 その2 sage 2009/12/27(日) 23:06:55 ID:7jwJJ7JM0
あまり舗装されていない山道を、40分ほど登った場所にその別荘はあった。
別荘を目にした途端、彼女の溜息が聞こえたそうだ。感動ではない方の。
「ホント、掘っ立て小屋みたいな感じだよ。こっちは小洒落たロッジ的なモノを想像してたんだけどな。
あの夫婦の説明を聞く限り、誰でもそう思うと思うよ」
叔父は苦笑しながら言った。とにかく、その「別荘」はお粗末なモノだったらしい。
木造平屋で、狭い玄関。猫の額ほどのキッチン。古びた押入れに入った布団。暖炉がある広間がやや広い事だけは救いだったらしい。
来てしまったモノは仕方がないので、なるべく自分達が楽しむ事にしたと言う。
昼は川魚を釣ったり、近辺の林を散策し、野草を採ったり。それらは夕飯には天ぷらとして食卓に並び、それはそれで楽しい夕飯だったそうだ。
「野草を採ってる時に、かろうじて遠くに別荘が見えるくらいの距離の、少しだけ森の深くに行ったんだが…
その時にちょっと気になるモノがあってな。ナラ(楢)の木があったんだよ。クヌギなんだけどな。
この森にクヌギの木ってちょっと浮いててな。周りは違う種類ばかりだし、明らかにそこだけ近年植林したんじゃないかなぁ。上にヤドリギも撒きついてたよ。
クヌギは10年も経てば、大きくなるからな。で、気味が悪いのが、そのクヌギに何か文字が彫ってあってな。
オガム文字って言ってな。古代のドルイド(上記参照)等が祭祀に使ってた文字なんだよ。
横線を基準と見て、その上下に刻んだ縦や斜めの直線1-5本ほどで構成されててな、パッと見文字には見えないんだが…
ま、何て書いてあるかまでは分からんが、不気味ではあるよな。日本だぜここは」
叔父の様にオカルト方面に知識がある人から見たら、確かに不気味なのだろう。
そんなこんなで、その日の就寝の時に事件は起こった。
叔父が窓や玄関の戸締りを確認しようとしていた時の事だった。
「何で最初に気がつかなかったんだろうな。鍵がな、外側にもついてるんだよ。」
つまり、窓の内鍵とは別に、窓の外側にも鍵がついているのだ。玄関の入り口の戸にも。
「これはヤバイ、と思ったな。部屋の中に家具が異様に少ないのも実は気になってたんだよ。
生活に必要最小限のモノだけ…それも、全て木造で燃えやすく…パッと思い浮かんだのが、ウィッカーマンだな」
213 その4 sage 2009/12/27(日) 23:07:45 ID:7jwJJ7JM0
映画にもなり、近年リメイクもされたのでご存知の人も多いと思うが、上記でも書いた様に、
「柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、神に捧げる」
と言うおぞましい秘儀が、古代ドルイドの祭儀であるのだ。
それを英語では「ウィッカーマン(wicker man)」、編み細工(wick)で出来た人型の構造物、と言うらしい。
「彼女を不安がらせない様にその事や鍵の事も秘密にし、俺だけ起きてる事にしたよ。全部の内鍵開けてな。そしたら、夜中だよ」
砂利を踏む音と、人の気配が別荘の外でした。すかさず窓を開ける。例のお隣の夫婦の旦那だった。
「何をなさってるんですか?」
叔父に急に見つかり、厳しい声を投げかけられた旦那は、驚愕の表情でしどろもどろだったと言う。
「いや、その…大丈夫かなと…」
「大丈夫じゃなないですよ。その缶は何です?灯油の缶じゃないんですか?」
「い…いや…ストーブの灯油を切らしちゃいかんと思ってね…」
「暖炉がありますよね?」
「いや…まぁ」
叔父は、外鍵の事を厳しく追及した。旦那が弁解するには、この別荘も人から譲り受けたモノで、外鍵はその当時からついていたらしい。
「信じるわけないわな。そんな気味の悪い家で誰が泊まりたがる?」
叔父はまったく旦那の言う事は信用しなかった。外の騒ぎで、寝ていた彼女も置きだし、不安そうな顔を覗かせていた。
「○○さん(旦那)…あんた、ドルイドの何かやってるんじゃないでしょうね」
「は…? 何ですかそれは」
「とぼけたって良いんですよ?裏の森のクヌギ。良い薪になりそうだなぁ」
「な…何を言うんですか!!」
「あんた、俺らをウィッカーマンにして、捧げようとしたんじゃないのかっ!!」
「…」
本当の事を言わないのなら、クヌギを切り倒す、と脅した叔父に対し、旦那は全てを話し始めた。
214 その4、前記はその3 sage 2009/12/27(日) 23:08:32 ID:7jwJJ7JM0
前にも述べた通り、この夫婦には重い病気の息子がいる。治療法は、病の進行を遅らせる、強い副作用のある方法しかない。
あらゆる方法を試したが、病は一向に癒える気配は無かった。そんな藁にも縋る思いも極まった時の事。
15年前、仕事先で訪れたウェールズのある村で、ドルイドの呪術師に出会ったと言う。
そのドルイドの呪力が篭ったオークの木の苗を、大枚叩いて旦那は買い、日本へ持ち帰った。
そのドルイドから授けられた秘術は、毎月6日に、白い衣装を見に付けオークの木に登り、
ドルイドから譲り受けた(これも大枚叩いて買ったらしい)鎌でオークに寄生しているヤドリギの枝を切り取り、
「生贄」をオークの木に捧げる、と言うものらしい。その祭儀の見返りの願いは言うまでも無く、息子の病を治す事、だ。
「確かに、その日は1月6日だったなぁ…」
「生贄って…」
俺は恐る恐る叔父に聞いた。
「最初は、小動物とかだったらしいよ。ハムスターとか、野良猫とか、犬とかな。クヌギの木の根元に埋めて。
心なしか、大きな動物になればなる程、息子の病が(良くなっている様な気がした)らしい。
まぁ、そのドルイドに1杯食わされたんだろうけどな。でも病気の子供を持つ、悲しい親の愛とは言えども、
あんまりじゃないか?俺らを焼き殺そうとするなんて」
叔父は笑いながら言った。それから、懇々とその旦那を説き伏せたらしい。
人を呪わば穴二つ。そんな事をしても、何も良い事はない。オカルト方面に詳しい叔父だけに、
様々な知識も動員して、旦那を説き伏せた。
「50にもなろうかと言うオッサンが、声上げて泣いてたなぁ。まぁ、俺らも殺されそうにはなったとは言え、
その旦那の気持ちも分からんでもないからなぁ。同情心もあって。彼女も少しもらい泣きしてたかな。
旦那も、クヌギも別荘も処分する事を約束してくれてな。明日にでも、特にクヌギの処分は俺ら同伴で」
「じゃあ、この件は、警察沙汰にもならずに一件落着、と」
「ところがなぁ。あのオークは(本物)だったんだなぁ」
215 その5 sage 2009/12/27(日) 23:09:32 ID:7jwJJ7JM0
何とか旦那を説き伏せて、暖かいコーヒーを飲みながら、3人が落ち着いてきたその時。
旦那の携帯が鳴った。奥さんの声が否が応でも聞こえてきたと言う。ヒステリックな金切り声だ。
明らかに「殺したの?捧げたの?やったの?」と傍の叔父にも聞こえて来たと言う。
あんなに温厚に見えた奥さんの方が、実はこの件では主導権を握っていたのだ、と思いゾッとしたと言う。
奥さんは東京のマンションから電話をしているらしい。
旦那は、ある程度は言い返してはいたが、奥さんの凄い剣幕に終始押され気味だったと言う。
たまりかねて叔父が電話を変わり、物凄い口論となった。それは、一時は殺されそうになり、
まだ片方が殺意を剥き出しにしているのだから、激しい感情のぶつかり合いになるのは至極当然だろう。
叔父の彼女も、先ほどの涙とはうって代わり、叔父に負けじと口論に加わったと言う。
「こりゃ将来尻に敷かれるなぁ、と思ったね、その時は」
叔父は苦笑しながら言った。確かに今は尻に敷かれている様だ。
やがて、叔父がたまりかねて、警察、裁判沙汰、をちらつかせる様になると、やっと奥さんも大人しくなり、しぶしぶ旦那の話も聞くようになってきたと言う。
一応、いざこざの一段落はついた。流石にその日は深夜になっていたので、その別荘で休む事になった。
「一応さ、話はついたけど、まさか眠るわけには行かないよな。あんな事されそうになって」
暖炉の広間で、叔父と彼女が身を寄せ合って座り、離れた場所に、旦那が申し訳なさそうに座っていた。
「明日、旦那の知り合いの業者に手伝ってもらい、クヌギの木は切り倒す事を約束してもらったからさ、それを見届けるまではな」
3人ともその日は寝ずに、朝を迎える予定だった。夜もさらに深まった午前3時頃だったと言う。
216 その6 sage 2009/12/27(日) 23:11:05 ID:7jwJJ7JM0
「ザッ ザッ ザッ」
と、森の奥から何かが近づいてくる音が聞こえた。野生の動物か、野犬か。
コックリコックリと船を漕いでいた叔父も、その音に目が覚めた。
「明らかに人間に近い足音と気づいた途端、ゾッとしたね」
最初は奥さんが来た、と思ったらしいが、あの電話を終えてからこんな短時間でここまで来れるわけがない。
いや、あの電話は実は近くからかけていたとしたら…もしくは、他に仲間がいたとしたら…?
叔父は寒さなどお構い無しに、全ての窓や戸を開け、アウトドア用のナイフを手に、臨戦態勢で息を殺していた。
「ザッ ザッ ザッ」と言う音は一向に止む事はなく、明らかにこの小屋に向かっている。
「それから10分後くらいかな。もうな、普通にこの小屋を訪ねて来るように、玄関の戸に立ったんだよ。足音の主が」
「○○?(妻の名前)」
と旦那が叫んだ。が、すぐ、驚愕から恐怖の悲鳴に変わった。
「奥さんの様で、奥さんじゃないんだよ。顔は、ほとんど同じなんだな。だが生気が無いと言うか。
で、この真冬に素ッ裸だぜ? でな、最初は旦那は(妻の様なモノ)の裸に驚いて声を上げたと思ったんだよ。
違うんだよな。肌の質感も色も、木、そのものなんだよ。で、もっと怖かったのは、
左右の手足が逆についてるんだよ。分かるか? それが玄関に上がって来ようとしてな、
右足と左足が逆なもんだから、動きがおかしいんだよ。上がり口に何度もつっかえたりして。それが何よりおそろしくてなぁ」
確かに想像するだけでもイヤな造形だ。
218 その7 sage 2009/12/27(日) 23:12:45 ID:7jwJJ7JM0
「彼女は絶叫してたな。旦那も。明らかに、妻じゃないって確信したと思う。
でもな、一応人間の形はしてるんだからさ。刺せないぜぇ?なかなかそんなモノを。
やっぱ、人間の心ってリミッターあるからさ。もし人間だったらどうしよう、とか思うよ」
それは確かに分かるような気がする。
「でな、その(妻の様なモノ)がとうとう小屋の中に入ってきて、何か言うんだよ。
それも、何言ってるか分からなくてな。カブトムシの羽音みたいな音を喉から出して。
で、左右逆の足でヨタヨタしながら、俺の方に向かって来るわけだ。しかし、俺も真面目なもんだよなぁ。
それでも最後に一応、○○さんですかっ!?って聞いたよ。さっきのリミッターの話な。
それでも、ソイツは虫の羽音の様な耳障りな音を喉から発して、これまた左右逆の両腕を伸ばし、
俺の首を絞めてきたもんだから、思いっきりソイツの腹を前蹴りで蹴ったよ。
すると、腹がボロボロ崩れて、樹液みたいな液を撒き散らし、腹に空洞が出来てやんの。
それで決心出来たんだよな。あぁ、これは人間じゃないから、ヤッちゃって良いんだ、ってな」
と、豪快に笑いながら叔父は言った。こういう時の度胸を決めた叔父は、本当に頼もしく見える。
不気味な声を発しながら、ソイツは起き上がって来たらしい。叔父は、ナイフをソイツの脳天に1発、
もう1度蹴り倒したら、空洞の腹を貫通し、胴体が千切れたらしい。彼女と旦那の絶叫が一段と激しくなったと言う。
「で、腹の中から異臭のする泥やら、ムカデやら色んな虫がワラワラ出てきてさ。
もう部屋中パニックだったな。床に倒れたソイツの人型も段々ボロボロと崩壊していって、床には泥と虫だけが残ったね。
気持ち悪くて、ほとんど暖炉に放り込んだな。突立てたナイフがいつの間にか消えてたのが気になったけどな」
219 その8 sage 2009/12/27(日) 23:13:36 ID:7jwJJ7JM0
その凄惨なな格闘が終わり、全ての残骸を暖炉に投げ込んだ後、すぐさま旦那に妻へと電話をさせたらしい。妻はすぐに出た。
「妻は死んでいた!とかやはりそういうのは心配するだろ、形が形だけに。元気だったけどな。まぁキョトンとしてたな。
流石に今起きた事は言わなかったけどな。後で旦那が話したかどうかは知らないが…
でも、流石に全て終わった後に恐怖が襲って来たね。手足とか震えて来てな。彼女はずっと泣いてたな。
で、1番怖かったのは、彼女が暫くして変な事言い始めたんだよな。何でアレに○○さんですか?と問いかけたのか、と。
変な事聞くなぁ、と思ったね。顔ははどう見てもあの奥さんなんだから」
「で、どういう事だったのかな?」
俺が聞くと、叔父は気味が悪そうにこう言った。
「よく、自分の形をしたモノの頭にナイフなんて突き立てられたね、って彼女はこう言ったんだよ。
つまり、彼女にはあの化け物が、俺の姿に見えてたんだよな」
叔父が想像する所は、次の様な事らしい。古代ドルイドの秘儀で、オークの木に邪悪な生命が宿った。
それに、あの妻の怨念も乗り移り、生贄が止まった事に見兼ねて、自ら実体化して現れた、と。
そして、見る対象者によっては、あの化け物が様々な姿形に見えるのではないか、と。
223 完 sage 2009/12/27(日) 23:27:17 ID:7jwJJ7JM0
「翌日、日が真上に昇るまでまって、あの木を見に行ったよ。
木の表面が、2cm程陥没してて、1m60cmくらいの人型になってたな。そして、頭部らしき箇所に俺のナイフが突き立ってたな」
やがて、夕方になり旦那の知り合いの業者がやってきて、クヌギを木を切り始めたと言う。
「最初にチェーンソーが入るときと、木が倒れる時。完全に聴こえたんだよ。女の絶叫がね。俺と彼女と旦那だけ聴こえた様子だったな。
で、切り株と根っこまで根こそぎトラックに積んでたんだが、小動物の骨が出るわ出るわ。
業者も帰りたがってたな。さっきの人型と良い、そりゃ気味悪いよな。まぁ、人骨が出なかっただけマシかぁ?」
後日、隣の夫婦がそれなりの品物を持って謝罪に訪れたと言う。
「受け取ってすぐ捨てたけどなぁ。やっぱり、色々勘ぐってしまうよな」
そして、すぐ夫婦は引っ越し、叔父たちもその後すぐにマンションを引き払ったらしい。暫くして、叔父は彼女とは一時別れてしまったそうだ。
「そんな事もあったねぇ」
紅茶を飲みながら、叔母が懐かしそうに言った。
「そうだな…あぁ、そう言えば…」
叔父が庭の木を見つめて呟いた。
「ウチにもオーク、ナラのカシワの木があったな。縁起物だから、新築の時植えたんだがな。
まぁ、アレだな。モノは使い様と言うか…人間の心次第と言う事かな。
それがプラスかマイナスかで。有り様が変わってくるからな」
そして、叔父の話は終わった。今度来るときは、カシワの葉で包んだ柏餅をご馳走してもらい事を約束し、
その日は叔父夫婦の家を後にした。
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