今のAIは便利で要約や推定した回答をしてくれる。しかし、その答えを鵜呑みにするのは危険だ。そのネタとなるインターネット上にある正しい情報のみならず、嘘や欺瞞に満ちたものがネタになっていることを忘れてはならない。
AIは間違った回答もするし、嘘の答えをさも正しい情報のように答える。いずれ、人間がその見分けができないレベルになる事だろう。AIファクトチェックの仕組みが急務になるのは間違いない。
「“ググる”は崩壊する」時価総額4兆円・マーケ企業HubSpot CEOが警告 「SEOは通用しない」AI時代のマーケティング激変に備えよ
「グーグル検索は破壊されています。もうSEO(検索エンジン最適化)は通用しません」
マーケティングや営業、そしてカスタマーサポートなど、あらゆる場面の顧客管理を担うソフトウェアを開発するアメリカ企業「HubSpot(ハブスポット)」。時価総額約4兆円のこの大企業を率いるCEO、ヤミニ・ランガン氏は、AI時代のマーケティングの激変ぶりをこう表現します。2022年11月の「ChatGPT」登場以来、検索という行為がキーワードの入力からAIとの会話へと急速に転換しました。検索結果にズラリと並ぶ“青いリンク”をクリックし、1つ1つのウェブサイトに飛ぶ。これはもう古いのです。もはやAIが“答え”を教えてくれます。情報源のリンクは傍らに書いてありますが、もう誰もクリックしません。「グーグル検索の結果に出てくる60%のリンクは、クリックされずに終わります」衝撃的な数字を語るランガン氏は、AIが巻き起こすテクノロジーの地殻変動をどう見ているのでしょうか。■“ググる”が崩壊し、“SEO”も終わるAIは、マーケティングの常識さえも覆そうとしています。ランガン氏は、Google検索に代表される従来の集客モデルが「根本から破壊される」と指摘します。「これまでマーケティングの起点は、キーワード検索でした。しかし今、Google検索の60%以上で青いリンクはクリックされません。なぜなら『AIによる概要』が表示されるだけで完結しているからです。顧客はわざわざ企業のウェブサイトに来てくれなくなるのです」この地殻変動に対応するため、企業はまったく新しい戦略を求められます。キーワードを最適化する「SEO(検索エンジン最適化)」から、AIに自社の情報を見つけてもらう「AIO(AI最適化)」へのシフトです。AIはキーワードではなく、人々が抱く「問い」に対する「答え」を探しています。AIに“拾ってもらう”ために、質の高い回答となるコンテンツを、様々な場所で発信し続けることが重要になるのです。
さらに、ウェブの検索という入り口そのものが盤石ではなくなった今、「顧客がいる場所に出向く」必要性が増しています。YouTube、Instagram、TikTok、各種コミュニティサイトなど、顧客が時間を過ごす多様なチャネルで、彼らと関係を築かなければなりません。HubSpot自身のブログのトラフィックも減少傾向にあるといいます。しかし、ランガン氏は「想定内」と意に介しません。同社は数年前からポッドキャストやニュースレターの買収、YouTubeチャンネルの強化など、チャネルの多様化を着々と進めてきました。その戦略が今、まさに実を結び始めているといいます。■AI開発の“震源地”アメリカで起こっていること「今は本当に刺激的な時代です」ランガン氏はそう切り出しました。サンフランシスコを中心に、ChatGPTを開発したOpenAIや、Claudeを手がけるAnthropicなど、数々の企業がAI開発の最前線でしのぎを削っています。彼女は、この状況をかつてのテクノロジー史になぞらえて説明します。「1990年代に『ブラウザ戦争』があり、その後はAndroidとAppleによるモバイルOSの覇権争いがありました。今、まさに同じような競争が、AIの基盤モデルや大規模言語モデル(LLM)のレイヤーで起きているのです。誰が『AIのOS』となり、ユーザーの注目を集めることができるのか。熾烈なリーダー争いが繰り広げられています」変化の波は、LLMのレイヤーだけにとどまりません。アプリケーション、すなわち私たちが日常的に使うソフトウェアの在り方も根本から変わろうとしています。SaaS(クラウド型ソフトウェア)が過去数十年の主役だったとすれば、これからはLLMを土台とした「エージェント型ソフトウェア」の時代が到来するというのです。「これまでのソフトウェアは、私たちがデスクに向かって仕事をする際の『作業』を支援するものでした。
しかし、AIエージェントは違います。仕事そのものを『成果物』として提供してくれるのです。このエージェントへのシフトは、ソフトウェアの概念を覆す、非常に大きな進展です」■AIは人間の仕事を奪うのか、助けるのかAIの進化に伴うリスクとして常に付きまとうのが、雇用問題です。AmazonやMicrosoftがAI活用で人員配置を見直しつつあるというニュースは記憶に新しいでしょう。ランガン氏は、AIと人間の関係を「補完」と「拡張」という二つの側面から捉えています。「AIは人間を補完し、仕事の質も成果も大幅に向上させてくれる存在だと信じています。ただ、カスタマーサポートの初期対応のように、特定の職種では変化が起きています。問い合わせにAIが答えられるようになれば、そこに配置される人員は減っていくでしょう」しかし、それは雇用の全面的な喪失を意味するものではありません。むしろ、多くの職種ではAIが生産性を劇的に向上させる「拡張」の役割を担うと彼女は言います。「例えば営業職です。AIの活用で営業担当者の生産性が向上すれば、同じ時間でより多くの成果を上げ、企業の成長を後押しできます。新人レベルの仕事、例えば営業職におけるBDR(ビジネス開発担当)の主な役割は、顧客候補のリサーチやアポイント調整ですが、こうした業務の多くはAIで代替可能です。しかし、それによって担当者が職を失うのではなく、より迅速に次のレベルの、より価値ある仕事に進めるようになるのです」ランガン氏は、「雇用が何パーセント減る」という画一的な見方に警鐘を鳴らします。重要なのは、役割や業務がどう変わっていくかを見極め、人間がより創造的で付加価値の高い領域へシフトしていくことなのです。■AIは自分で使わなければ“売れない”HubSpotは、2022年11月のChatGPT公開を重要な転機と捉え、製品戦略を大きく転換しました。自社製品のあらゆる部分にAIを組み込むと同時に、社内業務にもAIを積極的に取り入れてきたといいます。
その目的は、人員削減ではなく「AIを使って学びを得て、確信を持って顧客にその価値を説明できるようになるため」です。ランガン氏は、具体的な成果を挙げた3つの社内事例を紹介してくれました。カスタマーサポート:顧客企業数が年20〜25%ペースで増えるなか、サポート人員を増やすことなく、AIで対応する戦略を採りました。結果、この1年半で初期対応案件の約50%をAIで解決。既存の社員は、より高度なサポート業務へとシフトしました。潜在顧客の発掘:BDR業務にAIを活用し、アカウント調査やメール作成、ミーティング設定を自動化しました。過去数四半期で、AIによって1万〜2万件ものミーティングが設定されたといいます。マーケティング:Webサイト訪問者やYouTube視聴者などのデータをAIで分析・照合し、顧客一人ひとりに最適化されたアプローチを実践。これにより、マーケティングのコンバージョン率は80〜100%も向上しました。これらの数字は、AIが単なる未来の技術ではなく、すでに具体的なビジネス価値を生み出す強力なツールであることを証明しています。■CEO自ら「AI伝道師」に変身しバイブコーディングランガン氏自身も「AIの大ファン」を公言し、日常的に複数のAIツールを使いこなしています。ミーティングの準備には自社の「HubSpot Copilot」を、深いリサーチにはChatGPTを、そして原稿作成にはClaudeを、といった具合です。さらに驚くべきは、仕事の枠を超えて「バイブコーディング」を楽しんでいることです。「作りたいものの雰囲気を自然な言葉で伝えるだけで、AIがコードを書いてくれるんです。趣味のアプリを作ったりして楽しんでいますよ」と屈託なく笑います。彼女はこの情熱を社内にも広げています。毎週金曜日に行われる全社ミーティングで、自らのAI活用術をデモンストレーションし、社員に学びと刺激を与えているのです。
「他の人がAIを活用しているのを見ると、自分たちがどう使えばいいか具体的にイメージしやすくなります。みんなで学び、刺激し合うことが、AIと共に成長していく企業文化を育む唯一の方法なのです」■営業はAI同士が話せば済んでしまう?営業やカスタマーサポートの領域でも、AIは革命的な変化をもたらします。営業担当者が顧客と向き合う時間は、これまで業務全体のわずか20〜30%と言われてきました。残りの時間は、リサーチやメール作成といった付帯業務に費やされていたからです。AIはこれらの作業を代行し、営業担当者が最も価値ある「顧客との対話」に集中できる環境を創出します。HubSpotのようなCRM(顧客関係管理)ツールも、手動でのデータ入力が中心の旧来の姿から、AIが会話やメールの文脈を自動で読み取り、次のアクションを提案するインテリジェントなパートナーへと進化していきます。アメリカなどではすでに顧客に飛び込み電話をするAIエージェントと、それに応答するAIエージェントがあり、営業の初期段階はAIだけで行われている現実もあるようです。ただランガン氏は、そうした動きは現実的ではないと否定します。「営業は、人と人とのつながりです。顧客の具体的な悩みや課題を深く理解し、その解決をいかに手助けできるか。それが営業の醍醐味です。AIは、その本質的な価値を高めるための補完的な存在。AIが人間を助け、より良い『人とのつながり』を築けるようにする。それこそが、私たちが目指すべき現実的な未来です」この思想は、カスタマーサポートにおいても同様です。航空会社に電話して長時間待たされるといった、誰もが経験したことのある不快な体験は、AIによって過去のものになるかもしれません。簡単な問い合わせはAIが即座に解決し、人間はより複雑で共感を必要とする問題に集中します。HubSpotの顧客の中には、すでにサポート案件の80%をAIで処理している企業もあるといいます。
過剰な期待やいたずらな恐怖心から距離を置き、顧客の課題解決という原点に立ち返る。AI時代のビジネスリーダーに求められるのは、まさにそのような地に足のついた視点なのかもしれません。