既に崩壊は以前からしており、いつ抜本策が打ち出されるかが鍵だった。メンツを重んじるお国事情が空前の規模にしてしまった。
ついに「不動産バブル崩壊」の中国、この先巻き返すのは「無理ゲーすぎる」苦しい事情
不動産バブル崩壊がついに現実となった中国。34億人と言う人口に比してマンション在庫を多く抱える同国だが、問題はマンションだけではない。同国では、使われない高速鉄道駅や空港などあらゆるインフラが不良債権化しており、今後、その天文学的な負債を解消するのは「無理ゲー」とも言われる。同国の経済が今後どこに向かうのか。不動産を糸口に考える。
中国が抱える「圧倒的」マンション在庫
中国の不動産バブルが崩壊したのは、もはや衆知の事実になった。しかし、そのバブルの規模がどれくらいなのか、正確にはよく分からない。 先日、中国の国家統計局が発表した2025年4-6月期のGDPは前年同期比5.2%増ということだった。ところが、この数字の信頼性については、Bloombergなどの報道で疑問視されており、同国経済の実態を正確に反映しているかは不明瞭だ。 一説によると、中国が抱えているマンションの在庫は34億人が住める規模だという。中国当局が発表する同国の人口は約14億人のため、余剰は20億人ということになる。 みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、2024年の中国の住宅在庫は約44億平米に上ると、日本経済新聞は報道している。1住戸が100平米だとすると、4400万戸ということになる。 日本に分譲マンションが建ち始めたのは1960年ごろ。それ以来約60余年で誕生した日本の区分所有マンションの総数は700万戸ちょっと。中国にはその6倍以上の「在庫」があることになる。
中国経済で思い出される「バブルの記憶」
日本は1990年代の初頭に弾けた「平成大バブル」の処理に苦しみ、その後「失われた30年」とも呼ばれる経済の低迷に苦しんだ。人口の減少も重なり、今もその後遺症から完全に脱したとは言い切れない。 日本がバブルの処理でもっとも苦しんだのは「不良債権」の問題だ。不良債権とは、バブルで「イケイケ」状態の不動産会社に銀行が貸したお金が、焦げ付いて返済されないで帳簿上に残っていることである。その総額は半端ではなく、当時で100兆円とも200兆円とも言われた。 銀行にとって、お金を貸した不動産会社が倒産して返済されなくなると、それはほぼ全部が損失となる。損失が膨らむと銀行の決算は大赤字となって、最悪は債務超過である。 銀行の経営が危ういとなると、預金している人が不安になって引き出しに殺到する。それで銀行は払い戻し不能になって破綻。これでは金融パニックだ。 近しい例では2023年3月、米カリフォルニア州のシリコンバレーバンクは、預金者の引き出しが殺到したことで経営破綻してしまった。 このバブル崩壊の苦い思い出が、今の中国経済を見ていると否応なしに思い返されるのだ。それは一体なぜだろうか。
中国経済の現状で思い出す「日本の平成バブル」
あの平成バブルが崩壊して日本が金融パニック寸前まで追い込まれた時、日本政府はさまざまに手を打ってそれを防いだ。 まず、危うくなった金融機関に日本銀行が「特融」という緊急な現金融資を行って預金者の不安を和らげた。 1995年夏、信用不安で預金者の引き出し殺到が予想された木津信用組合に、日銀が大量の現金を運び込んでパニックを回避した時の情景が思い出される。 今の中国でも、多くの銀行が不良債権に苦しんでいる。それは平成大バブル崩壊時の日本と同じ構造だ。中には預金者が預けたお金を自由に「引き出せない」という事態も起きているようだ。 平成バブル崩壊時、日本は大手銀行に対しても「公的資金注入」という非常手段を用いた。それは金融機関に政府の資金を注入して決算上の債務超過になることを防ぐ手法だ。これによって多くの銀行は不良債権を損金処理しても経営が傾くことを回避できた。投入された公金は、その後ほとんどが返済された。 では、今の中国も預金者の引き出しがままならなくなった金融機関に政府のお金を注入して救済すればいいではないか、ということになる。ところがどうもそれは難しそうだ。 その理由は、不良債権の規模が半端ない規模で、生半可な公的資金注入では処理しきれないと推測されるためである。 先述のマンション在庫4400万戸がすべて不良債権化していると仮定した場合、1住戸1千万としても440兆円ということになる。ただこれは氷山の一角だ。 中国には、買い手がついてすでに購入者の住宅ローン返済が始まっているのにいつまでも建物が完成しない「爛尾楼」と呼ばれるマンションがある。これも不良債権の一部だ。
マンションだけじゃない「多すぎる」中国の不良債権
不良債権はマンションだけではない。 中国の高速鉄道は日本の新幹線の技術をベースにしているが、現在の総延長距離は約5万キロ。日本は1960年代から新幹線を整備しているが、総延長距離は約3千キロだ。国土が広いとはいえ日本の17倍もの高速鉄道が必要なのかどうかは疑問が残る。現に、建物が完成しているにも関わらず使われていない駅舎も多く、少なくとも26カ所にのぼるという報道もある。 高速鉄道以外にも、ほとんど車が走っていない高速道路や利用者の少ない空港など、「無駄」と思えるインフラが少なくない。 それらの建設にも、すべて金融機関の融資が利用されている。鉄道や道路の利用料を返済原資に当て込んだ計画であったのだろう。しかし、利用者が少ないと多くの計画は実質「失敗」状態となってしまう。 金融機関にとって融資先が公的な組織ではあっても、返済が不安定なら不良債権に分類される。中国では財政に行き詰まった多くの地方政府が職員への賃金支払いを滞らせたり、未払いになっている。 では、中国政府はこの事態に対して何もしていないのか。 2025年7月14日、日本経済新聞に興味深い記事が出た。タイトルは「恒大問題は終わらない ネット競売にモラルハザードの山」というものだ。 内容を簡単に説明すると、政府系資金で設立された「不良債権処理組織」が銀行から不良債権の担保物件を買い取り、それを競売市場で換金しようとしているという。その組織が金融機関から不良債権物件を購入する価格は、おそらく債権額に見合った額ではないかと記事は示唆している。つまり、政府が密かに債権処理の組織を作り、銀行から相応の金額で不良債権物件を買い取ることによって実質的に救済している、ということだ。 もしそうなら、それはそれで結構なこと‥と言いたいが、それは全体のほんの一部にしか過ぎないのではないかと筆者は推測する。なぜなら、すべての不良債権をその政府系組織が買い取って処理するなら、莫大な資金を必要とする。おそらく日本円で数千兆円。場合によっては1京円を超えるかもしれない。規模の大きい中国らしく、天文学的な規模である。 中国政府は莫大な不良債権を処理したくても、それができる資金はない。そのため、少数の金融機関だけを救済している。それでは、根本的な解決には程遠い。 中国経済は不動産バブルの崩壊を機に、破綻に向かっている。今は弥縫策で取り繕っているが、不良債権が消えることはない。それがいつかは大爆発を起こして、我々の目にもはっきりと見える日が来るはずだ。
