映画 「異人たち」は「異人たちとの夏」とは似て非なるもの。そして「荒野にて」も観て | sorariri89のブログ

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脚本家山田太一の小説を1988年大林宣彦が映画化したものが既に存在してますが、公開当時に見逃してそのまま現在に至りました。けっこう賞とかもとってましたよね。


映画レビューなどを目にすると泣けるとか、家族の幸せを感傷的に述べたものとかがある中で、

最後のあの展開は何?といったものもあり、

今回リメイクというかオマージュ作品「異人たち」を観ようと思って、ようやくその前日にU-NEXTで鑑賞しました。




風間盛夫片岡鶴太郎秋吉久美子、そして名取祐子。若かりし頃の彼らが見られるだけでも値打ちありかもしれませんね。


12才のときに死に別れた両親と中年になった脚本家の主人公原田英雄が過ごすところは昭和の貧しくとも豊かな暮らしとか、掛け値なしの親の愛情とか、確かに郷愁をそそられます。


英雄のそれと重なるような家族団らんの思い出を持たない私でも、サザエさんと同じで、あの時代の一つの理想的な家族の交わりの典型に懐かしさを覚えるのは必定かと思います。


そこはなんと言っても大林宣彦が撮ったからというのも大きいかと


お別れする前に親子三人で浅草に繰り出して「今半」ですき焼きを囲むところは切なさに胸がきゅうっとなりました。鶴ちゃんも秋吉久美子もいい芝居するし。形見として二人のお箸を英雄がハンカチに包むところも良かったです。


だから

その後のあれは何?なんですが、眼差しがどこからどこまでも優しい大林さんにかかると名取優子の牡丹灯籠ばりのチープなホラーもその元になったあの夜の孤独を帳消しにすることは決してなかったです。


孤独故に引き寄せた異人たちと過ごした夏にさよならして、英雄は再びひとりになりますが、でもこれまでとは違う人生訓を得て生きていこうとするところで映画は終わります。


仏教的死生観を幻想的に味付けした死者の甦りを、両親とつれなくされて命を絶ったご近所の女性の二組で対照的な描き方して、生と死をきっちり際立たせたように思います。


その点でもなかなかの秀作だと感じました。


それがキリスト教ベースの個人主義が成熟した西洋の人間(監督はイギリス人)にどこがどう響いてのリメイクなのか、それがとても気になりました。




見終わってみると、

モチーフとしては大林版つまりは原作リスペクトなのでしょうが(原作未読です)、主人公をゲイの不惑過ぎ(多分)の男性にしたことで、その孤独感が漠然としたものでなくなり、たまらなくひりついたものに感じられました。


親子のやりとりもゲイだとカミングアウトした後の母親との平行線など、大林版のひたすら甘美なものとは異なってるし、過去からずっと引きずっている孤独感は親といえども本当には理解できるものではないと突き放されています。


ラストの描き方もかなり違っていて、もしかして主人公も異人なのかもしれない、そんな解釈の余地を残すほど美しく切なくそしてけっこうきつい映画でした、私には。


オープニングの映像で心霊写真のようにもしかして人影?と思わされたのですが、それはやっぱり人の形をとっていって、それが全てを物語っていたようでもありました。


この監督の予備知識全くなかったのですが、ゲイだということは映画を観ててそうなんだろうなとすんなり思えるくらい、監督自身の原風景だとか内面世界だとかが反映されていたのではないでしょうか。


「夏」がつくかつかないかで全く違う映画に仕上がっていて、黒澤明の「生きる」がリメイクされたのとはわけが違うというのが正直なところ。引き合いに出さなくてもいいと個人的には思うくらいです。

(ここまで書いておきながらどの口が言うねん!ですが…)




この作品をきっかけに、監督アンドリュー・ヘイが気になって、いくつかU-NEXTにあがってるなか、「荒野にて」を観ました。




ざっくり言うと15歳の少年チャーリーと馬が荒野をゆくロードムービーなのですが、美しく広がる風景をバックにしたロングショットの挿入が虚無感ややり切れなさを押し上げるし、心の揺れや痛みを宿すチャーリーの不安げな眼差しが最後まで晴れることがなく、この年ごろ特有の刹那の輝きや脆さ、危うさを表現したチャーリー・プラマー(役と名前が一緒という)は素晴らしかったけど、ひたすらに重苦しい作品でした。

馬のピートが唯一心許せる相手だったのに…

それも辛い…


最後の頼みの綱であるおばさんを諦めなかったからこそ、胸に顔を埋めて泣くことができたというのは、救いでしたね。

だってタッパはあってもまだ15歳なんだから…


旅を続ける途中、ペンキ塗りで稼いだお金を奪われて取り返そうと鈍器で相手の頭を殴りつけます。その興奮冷めやらぬ状態で、暴力に用いた手のアップが映るのですが、握りしめた拳と黒く汚れた爪は、15の子どもの手ではないよな、とたまらなくなりました。ここの見せ方は上手いです。


チャーリーが歩まずにすんだもう一つの道を歩まざるを得ない子どもが現実には相当数いるんだろうな、とも思わされて…

これもまたなかなかきつい映画でした。


この監督の作品は「孤独感」が通奏低音なのでしょうか…

そして、ポスターなどからもわかるように色づかいが美しい…


また他の作品も観たいと思います。


ありがとうございました😊