あの日、芦原さんの記事が新聞に載った日、同じ朝刊の、前ページに萩尾望都さんがフランスの漫画祭の特別賞を受賞したという記事もありました。
同じ漫画家という職業での、この明と暗…
おっきな気持ちの揺れを感じた人もいらっしゃるのではないでしょうか
萩尾望都大先生はもちろん偉大で特別感も半端なく、
おめでとうございます!!!
なのですが
どの漫画家さんもひとしなみ白い平面に一つの世界を立ち上がらせる素晴らしきクリエイター、表現者だと思います。
萩尾望都、内田善美、くらもちふさこ、大島弓子、岩館真理子、大和和紀、森川久美、吉田秋生エトセトラetc
これら先生方の創り出す世界に、小学から大学にかけて私はトキメキ、ハマり、影響を受けました。今でも勿論マンガは好きです。
漫画家を目指す人は星の数ほどいるでしょうが、才能や、やっぱり運にも恵まれた一握りの人がデビューでき、そこに精進が加わって人の心に届く作品を産みだせるということを、皆分かっています。
子どもの頃、ごっこやもどきに没頭した経験ある人だけでなく、憧れ夢破れた人なら尚更よく分かっているでしょう。
マンガを描く人はプロアマ問わず皆さん本当にそれが純粋に好きなんだと思います。でも好きだけじゃどうにもならないということも分かってもいるわけで
私は友人の描くマンガが好きでした。職業漫画家になることを諦めてからも彼女は亡くなるまで同人誌などで二次創作のマンガを描き続けていました。
亡くなる一年くらい前に「思うような線が引けなくなってきた」そうポツリとつぶやいた時、私は何も言えませんでした。
彼女にとってマンガを描くことがどれほどかけがえのないものか、存在の成分になっているかということを知っていたからです。
私も小説書くことにしがみついていたから、産みの苦しみや喜びは分かち合えていたつもりなのですが、マンガは小説では求められない技能がとても大きい訳で、
大好きな漫画家さんでさえ、年齢を重ねたタッチの変化が残念に思えたことが事実としてもあるので
私には計り知れない彼女の胸の内を思うと安易に慰めの言葉はかけられなかったです。
私が漫画家さんに持つ印象はというと、多少の例外は認めるとして
「表にあまり出たがらない、チャラチャラしてない」
萩尾望都さんは「笑っていいとも」にまで出演されましたが、一世を風靡したような大御所の先生方は別として、マンガ家さんが顔出しすることあまりないですよね。特に少女漫画の作者
それは作品のイメージを尊重する意味もあるかもしれませんが、シャイな人も多いのではないでしょうか。だから逆に多くのものを作品に込められるのかもしれません。
誰かと二人三脚で描いてたり、売れてアシスタントのついてる漫画家さんもいるでしょうが、大概は孤独な仕事ぶりだと思います。頭と手を繋げる仕事は頭と口を繋げる仕事より地味ですし
パソコン使ってるとしても、ネーム考えたり線入れしたり、締め切りもあって相当な産みの苦しみの果てに完成を見る作品がほとんどだと思うのです。けれど人気商売の宿命で、売れなければお話にならない。
アニメや実写などの映像世界は分業が確立しているのに、マンガはほとんどが一人で何から何までこなしているという印象が強いです。
漫画家をモデルにした映画やドラマ、リアルな漫画家の仕事場を映したNHKドキュメンタリーなどを見ると労力に対する報われる方はシビアだなあと思ったりもするのです。
完成して一旦自分の手を離れたら、それは読者のものになり、読者の数だけ様々な受け取られ方をして、それでいいのですが、作者にとっては自分が産んだ我が子に変わりはないでしょう。
その我が子が読者に大切にされ、更には広く大きく育っていったら、それは漫画家に限らず、創作者、表現者にとってはひとつの理想形だと思います。
私にはよく分かりませんが、消費されるだけのマンガもあるでしょう。でも芦原妃名子さんの作品は全然違って読者の心の深いところに刻まれる。マンガを読んでいなくてもそう思えます。
今回初めて分かりましたが、私がドラマ版にハマった「砂時計」の作者さんでもあるそうなので、どんな世界観を持たれた漫画家さんなのかは想像に難くないです。
ドラマ「セクシー田中さん」も良かったです。
とはいえ、それは原作と離れるところに修正を求めたりしてのオンエアだったからとも言えるのでしょう。
原作の二次使用になる実写化やアニメ化などでトラブルになったことはこれまでにもありましたよね。いくつか思い浮かぶ方もいらっしゃるでしょう。私もあれとかこれとかが浮かびます。
今回のことで、過去の件が次々あがってきたりもしてますが、さもありなんです。忌わしい履歴になってる漫画家さんもいるみたいで、お気の毒ですね
二次元からの三次元化というメディアミックスは似て非なるもの、異種間格闘技みたいなものだから、その際のルール作りがきちんとなされ、それに則って進めていくのが大原則。そこに逸脱が認められるなら我が子や自分、ファンを守るために立ち向かおうとするのはクリエイターとしての本能とも言えます。
芦原妃名子さんもそうしただけなんだと思います。普通の感覚を持ち合わせた方で、まだ連載中なら尚のこと変な影響は避けたいところでしょう。
もちろんそれでも構わないという原作者もいるでしょうが、とにかく人のふんどしで相撲とろうとするのですから、制作テレビ局は原作者ファーストであるべきなのに、どこかで作ってやってるんだという傲慢さがあった。華々しい業界という組織力を傘にきて我が身ひとつで勝負している、個人事業主である漫画家を蔑ろにしていたという構図が浮かび上がってくるばかりです。脚本家に対しても有名どころでなければ同じようなものが透けて見えたりするのですが
どこかのコメントの中にこんな文言を見つけました。
「原作ものはテレ東とNHK以外手を出してはいけない」
なるほど、的を射ているかも
あと、ローカル局の深夜枠も??
世界的に高い評価を得ている日本のマンガという表現分野なのに、揺るがない大樹のような名声がなければ、どこか下に見てる業界人も多いのでしょうか。視聴率を無視できないにしても、残念すぎます。
そうでない作品ももちろんありますし、実際そんな作品に私は心救われたりしてます。原作者さんもドラマを楽しんでいらっしゃったと思います。
ニュースなどで取り上げているところはほとんどないですが、直接的な引き金となったのが脚本家さんのインスタと言われています。
私もどなたかのスクショで見ました。芸能人と並んで写った姿はテレビ業界の人という印象です。
その説明に紛らせたあの一連の文言はどう贔屓目に見てもプロ意識の薄い売り言葉にしか読み取れません。たとえ、まさかこんな結果になるとは思わなかったとしてもです。これがSNSで発信することの怖さだと思います。
それを自らキャッチしたのか周りから知らされたのかは分かりませんが、芦原さんがXを開設してまで経緯を説明する(ブログで)というリアクションを取ったわけで、今は削除されたというその説明も読みましたが…
ずっとドラマの1話から最後までこの状態が続いていたなら、どれだけのストレスだっただろうと思います。意思疎通が図られていないのにもほどがある、です。
出版社と相談した上でとのことですが、個人のアカウントで売り言葉を買い取って説明する内容ではないと思いました。重すぎる荷です。
相手が個人で晒したから、それを受けてとするなら不器用なまでの生真面目さがアダになったように感じて仕方ありません。
そこから制作サイドへの誹謗中傷が湧き上がり
芦原さんは…
ということなら
実際のところをご本人に聞きたくてももう叶いませんが、もしかして表に出ていない、傷ついている人を更に絶望の淵へと追いやる何かがあったのかも、と
そんな憶測をしたくなくてもしてしまうくらい、今回の一件でひとりの人が命を落としたことが余りにも理不尽に思えてならないです。
ご遺族をはじめ、大切な存在を突然失った方々のご心痛はいかばかりでしょうか
同業者の悲痛な反応もやりきれないです。
犯人探しのようなことはしないでほしい
とかの声もありますが、まっとうな批判の声までもが輩の誹謗中傷と一緒くたにされないためにも、更なる悲劇を産まないためにも、テレビ局はあんな他人事のような直後のコメントだけで済まそうとせず、時間を要してもここに至った経緯の説明と顧みるべき点からの今後の姿勢を提示する意思があると、そのことだけでも早く示すのが誠意だと思うのですが
悲しい結果論にしかなりませんが、命と引き換えに旧態依然の業界や社会の改善、アップデートが促されたとなるのが、芦原妃名子さんへのせめてもの手向の花になるのではないでしょうか
芦原妃名子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。