真魚は夢を見ていた。
「情けない奴め…」
その声は美しい。
「俺も、まだまだだ…」
真魚がつぶやいた。
女の神が側にいる。
丹生津姫であった。

「お主の力が強くなるほど、引き寄せるものも強くなる」
「やはり、そういうことなのか…」
真魚は既に感じてはいた。
「元に戻ろうとする力はこの宇宙の理だ」
「光はいずれ闇に還る」
「そして闇はその自らの力で消滅する」
丹生津姫は真魚の頭をを座った膝の上に乗せていた。
「いずれこの宇宙も無に還ると言うことか…」
真魚はそう捉えた。
「無に還るのか、生まれ変わるのかはわからん」
「破壊は再生の始まりだ」
姫は真魚の頬を撫でた。
「お主に言っておかねばならないことがある」
「何だ」
「分かっていると思うが、人の生死にかかわってはならぬ」
「分かっている」
「理を乱せばそのしわ寄せが必ず来る」
「お主を助けた私が言うことではないがな」
姫は一度真魚の命を救った。
「お互い様だ」
真魚は笑っていた。
「気をつけるのだ」
姫は真魚を見て微笑んでいた。
「ねえ、嵐!」
紫音が嵐に話しかける。
嵐の横で真魚はぐっすり眠っている。
「那魏留が宴の用意をしてくれているの」
「う、宴!く、食い物か!」
嵐の心が躍る。
「真魚を起こすとまずいかな?」
紫音がそう言いながら真魚の様子をうかがっていた。
夕刻が近づいている。
今からだと村には帰れない。
馬も逃げていない。
「食い物があるなら俺は文句はない!」
嵐はそう言うと真魚の側から立ち上がった。
「真魚は?」
紫音は真魚が心配であった。
「真魚は大丈夫だ、それに今は…」
嵐はそこまで言いかけて止めた。
「今は…何?」
紫音は訳が分からない。
「そっとしておいた方がいいと言うことだ!」
我ながらうまくごまかしたと嵐は思っていた。
「真魚をそのままにしておくの?」
紫音は嵐に確認する。
「俺がどうしたって…」
真魚は既に目覚めていた。

「良かった!これから那魏留の家へ行かないと…」
「飯だぞ真魚!」
紫音の話が終わる前に嵐が言った。
「お前の顔を見ればわかる」
真魚はそう言い切った。
「今夜はここでお世話になりましょう」
「そうか、もう日が暮れるのだな」
紫音の言葉で真魚は夕刻であることに気がついた。
「行くか!」
「飯だ!飯だ~!」
嵐はご機嫌であった。
続く…