那魏留の家には既に明かりがついていた。
燈台の明かりがぼんやりと三人を照らしていた。
那魏留と阿弖流為と火魏留が話し込んでいる。
火魏留の母である那岐と御遠が宴の準備をしている。
「まさかお主があの阿弖流為だとは思わなかったぞ」
火魏留は興奮していた。
「我らにとっては倭を退けた英雄だからな」

那魏留が酒を飲んでいる。
自家製の酒だ。
果物を発酵させて作っている。
今でいう葡萄酒のようなものだ。
「英雄などと言うものではない」
阿弖流為はきっぱり否定した。
「あの時は天が俺たちに味方をした」
阿弖流為もその酒を飲んでいた。
「天が味方をしてくれたか…」
火魏留は戦いを想像している。
「だが、こうして山賊のお前達と酒を酌み交わすことになろうとはな…」
そう言いながら阿弖流為が器の酒を口に含む。
「これも、あいつのおかげか…」
阿弖流為は、いつの間にか真魚のことをあいつと言っている自分がおかしかった。
「そいえば、真魚殿はまだか?」
那魏留がしびれを切らしている。
ろくに礼も言えぬまま、真魚は眠ってしまった。
「先ほど紫音が様子を見に行ったはずだ」
阿弖流為は少し心配していたのだ。
「真魚殿がいなかったら俺は死んでいたのか?」
火魏留は考えていた。
闇に飲まれ、嵐に助けられ、絶望の中で光に救われた。
「一度死んで生まれ変わったのかも知れないな…」
火魏留は本当にそう思っていた。
「連れてきたわよ!」
紫音は少し気分が良かった。
「すまんがこいつには少し多めに食い物を頼む」
真魚は嵐の頭を撫でた。
「ちゃんと準備してあるわよ!」
御遠が嵐を呼んだ。
「うひょ~~~っ!」
嵐にとっては久しぶりの肉がある。
「いいのか?食ってもいいのか?」
嵐はもう待ちきれない。
「いいわよ!」
御遠が嵐の頭を撫でた。
「この子犬が、ああなるんだからすごいわよね!」
御遠はあの時、嵐の美しさに心を奪われた。
嵐は既に食べていた。
子犬のくせに食べる速さが尋常ではない。
用意してあった鹿肉の片足をあっという間に平らげた。
これには御遠、紫音、それに那岐も呆れた。
「嵐、まさかと思うけど、あんたまだ食べられる?」
一応、紫音が聞いて見た。
答えは誰もが予想したとおりであった。
「俺は神だぞ!」
当たり前のような答えに、皆は笑うしかなかった。

続く…