建築を学んできた人間にとって、

「一級建築士」というのは、

やはり目指す資格のひとつだ。


かつて「一級建築士試験」は、

四年制大学で建築を学んできた人も、建築に関する所定の実務経験2年を積んでからでなければ、受験できなかった。


でも、令和2年度の試験から、その受験資格要件が変わり、

所定の実務経験は、一級建築士免許の「登録要件」となった。


つまり、試験を受けることは、実務経験がなくてもできるようになったのだ。

(しかし、実際に一級建築士として免許登録するためには、以前のように実務経験が必要になるが。)


この受験資格要件緩和は、大学卒業後に、すぐには建築の仕事に就けなかった人も受験の機会が得られるから、とてもよい緩和だと当時感じた。


私が大学を卒業したころは、四年制大学で建築を学んだ人は、卒業すれば「二級建築士」の受験資格を得られるが、「二級建築士」を受験する人はあまりおらず、卒業してから2年後に「一級建築士」を受験するという人のほうが多かった。


しかし、大学卒業後にすぐに就職できなかった人は、実務経験が積めないため、「2年後」の受験が難しくなる。


私が大学を卒業したころは、「就職氷河期」といわれる時代で、私も大学卒業後すぐには就職が叶わなかった。


そんな私にとって「実務経験」という受験資格要件は、とても大きな壁だった。


そんな壁があったから、当時の私は、四年制大学卒の人はあまり受験しない「二級建築士」免許を取得し、就職の武器にしようとしたのだった。


今の人たちは、それを「一級建築士試験の合格」という手段でできるわけだ。


法改正があったときは、「うらやましいなあ」と感じたものだ。


とはいえ、「一級建築士」試験は、難易度がそれなりに高いし、受験資格として実務経験が必要ないと緩和されたからといって、緩和後のひとたちのほうが自分たちより有利かといったら、必ずしもそうではないのかもしれないが。


結局、大学卒業後すぐに就職できなかった私は、長年、派遣や契約社員という、いわゆる「非正規雇用」と言われる雇用形態で働いてきた。


雇用形態はどうであれ、その仕事が建築士試験の実務要件を満たす内容であれば、実務経験としてカウントすることはできるため、非正規だから受験できないということはない。


なので、実務経験を2年以上積んだあとで一級建築士試験の受験資格は得たが(しかも、受験資格を手に入れてから、かれこれ20年くらい経つが、笑)いまだ合格には至っていないわけだ。


受験できることと、実際に免許を取得できることは、当然ながらイコールではない。


だから、実務要件の緩和は、一級建築士免許取得の緩和とは言えないのだ。


私の場合、就職の武器にしようと取得した「二級建築士免許」が、だいぶあとになってから役に立つことになる。


「一級建築士免許」どころか、正規雇用で働くことさえ、私はあきらめていた。


結婚をし、子どもを育てながら働き、

もはや「正規」かそうでないかなんて、どうでもよかった。


どんな雇用形態であれ、働くことの楽しみを見いだすことはできる。


とはいえ、条件は良いに越したことはない、というぐらいの感覚で、スキルアップは目指していた中で、幸運にも今の職場での正規雇用の採用試験の募集があった。


その応募要件の中に、「一級建築士免許もしくは二級建築士免許をもつ者」という条件があったほだ。


「二級建築士免許を取っててよかった!!」

と、うまれてはじめて思ったのが、このときだった。


二級建築士免許を取得してから20年、

後にも先にも、真に免許の威力を感じたのは、この一度きりだ。


それまで、私にとって「二級建築士免許」は、紙切れ同然だった。


自分で建築士事務所を開き仕事をするとか、

自分が建築士事務所の管理建築士となるとかでないかぎり、

建築士免許がなくとも、建築の仕事はできる。


だから、建築の仕事をしていても、免許は「あってもなくてもよい」という感覚に陥る。


なので、まるで「紙切れ」のように感じていた「二級建築士免許」だったが、

それがあのとき「水戸黄門の紋所」に変わったのだった。


今、私が取得を目指している「一級建築士免許」が、どんな価値をもつのか、正直いってわからない。


免許を取得したところで、免許証は、ただの「紙切れ(今はカードか、笑)」にすぎないのかもしれない。


私は、「足の裏の米粒」が気持ちわるいからとりたいだけなのかもしれない。


でも、資格試験のために勉強した知識が、きのうも実際に仕事で役に立った場面があった。


かつて就職のためにと必死ですがりついた「二級建築士免許」とは異なり、

今回は純粋に「プラスα」のスキルアップだけれど、

【成長したい】という人間の欲求を満たしているのだろうね。


「渇望」で学んでいたころより確実にワクワクしているので、ひきつづき楽しみながら勉強していきたい。