◆指輪を作ろう | On the White Line.

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リハビリ中WWA作成者の日記。映像は引退。

「最近いつも指輪してるけど、」

左手の中指に。

「どうしたのそれ。かわいいじゃん」

そういうと、亜紀はその指輪を取ってみせた。

「安物だよ」

乳白色にほのかに緑の流れた指輪は、喫茶店の蛍光灯を受けて光っていた。

指輪のトップに何もついていない、20才の私たちがつけるには、

ただただシンプルな「わっか」だったが、

それを亜紀はそれをいとおしそうに見つめていた。

「あんただけにおしえてあげよっか」

と、亜紀は指輪を左手の別の指にはめなおして言った。

「安くはなかった。」

といって白い歯を見せて笑った。

ときどき彼女は物の値段を謙遜して言う癖がある。

「980円」

ただ、時々、モノの値段としては安いな、と思うときもある。

「けど、モノにしては安い部類なんだ。もしかしたらニセモノかも」

「材質?」

「ひすいだよ。こいつをつけるといいことが起こるんだ」

「ひすいって宝石のひすい?」

「上野にいくとそういう安いのがあるもんなんだねー」

その発言で、私の頭にはアメ横の雑然という言葉も適わないラインナップと、

お菓子の叩き売りの威勢のいい声がよぎった。

「いいたいことはわかるよ」

とじわじわと亜紀はまた白い歯を見せて笑った。彼女自身も可笑しがっているようだ。

「けども、私は、この指輪を楽しい予定の日の前日に一目惚れして買っちゃったんだよね。

 指輪などするガラじゃないし、そもそもこんなシンプルなの買うなんて自分としてもびっくり。」

「楽しい予定?」

なんか亜紀がこんなストレートな単語をつかうとちょっと可笑しく感じた。

「まあ、それはどうでもいい。とりあえず、その予定につけていったんだよ。

 そしたらやっぱり楽しかったから、それからこの指輪は楽しい指輪なんだって思った。」

「なにそれ。楽しい予定ならあたりまえじゃん」

いつもはレポートで学者や政治家のような文章を見事に書き上げる彼女としたことが、

今の発言は小学生の作文以下の文脈だ。

そのギャップが笑いに拍車をかけてこの言葉のあと、腹筋が引きつって言葉がでなかった。

「だからこそいいんだよ。楽しいとわかってるときにこの指輪をつける。するとやっぱり楽しい。

 それをくりかえしていくと、だんだんと、『この指輪をつけると楽しいことが起こる』と錯覚するかもしれない。

 そうやっていけばこの指輪は『楽しい指輪』になるんじゃないかなって。」

しかし一瞬聞けば面白い小学生以下の文章の押収は、少し胸焼けしてくる感じがする。

タレのレバーの串焼きを大量に食べたような心持だ。

意味不明で消化不良なその発言に対して「さっきから何を言ってんの。」といいたくなってくる。

まるでいつもの彼女じゃないみたいだ。

しかし、さすがに、久しぶりに楽しそうに指輪について話す彼女の言葉をさえぎるのは、

また胸焼け異常に心苦しかった。

「わかっているよ。けど、ものは考えようだとおもうんだ。

 もしかしたら、最終的には、嫌なことが予想される予定も、

 この指輪をつけることで、楽しいことが起こるかもしれない。

 そうなるにはどんだけ時間がかかるかわからないけどさ、

 けど、そこには値段や真贋は、あまり関係がない気がするよ。」

彼女は指輪をつけたりはずしたりして、つける指を変えながら話していた。

その指輪は、移動するたびに、蛍光灯や太陽光へ、映す光をかえ、様々な表情を見せていた。

「亜紀ってそういうことするようには見えなかった。もっと現実的だとおもったけど」

「それを利用するのが上野とかの露天ニセモノ石売りだよ。

 もっとそういうところを掘り下げていけば、私も一儲けできるような気がする。」

といってまた笑っていた。やっぱりそういうところが、亜紀っぽくって、少し安心した。

「こういう話って、やっぱオカルトっぽくって話しづらくってね。

 あー、やっぱ、一人でこういうの言わずにセーブするのってきっついね。言うとわかるわ」

と、亜紀は大きく背伸びをした。バキバキと大きく関節の音がした。

そして、彼女は空になったコーヒーカップを覗いて、もう一杯飲もうかしらと財布と相談し始めた。

そのとき彼女の指輪が左手にきらりと光った。は、その指輪を見て、「あ。」と、声を出してしまった。

「ん?」と、亜紀はその格好で動きを止め、「何かおかしい?」と彼女は自分の手元を見た。

すると、彼女も気づいたようで、急いで指輪のつける指を薬指から中指に変えた。

「まさか」

亜紀は顔を赤くした。

「いや、まさか」

「ないから!」

あまりに必死すぎる反応。この指輪を買った前日ってもしかして。


もうすこし、この子の話につきあってあげようかな。って思った。


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※注 翡翠は上野じゃなくっても偽者多いので注意。

※注 指輪でその値段だったら十中八九偽者。

※注 上野は大好きです。


※脚本は実は不完全燃焼なんです。まだまだ彼らの書きたいことがたくさんある。

鶴見の今後とか、宇田川くんと松谷さんの関係とか、みさおの過去とか。

だから、こういうことを、すこしずつ、書きたいときに書いていけたらな。と思います。

長いものは、しばらく難しいと思うけどね。

ちなみに、これは自分が最近やってるおまじないです。

やってるのは、琥珀の指輪なんだけどね。