やはりトヨタは強い。トヨタはあらゆる選択肢を用意することでリスクを分散させている。
トヨタの物量作戦には、いかなる自動車メーカァも白旗であろう。もはや、向かうところ敵なしである。
レクサス・LBXを見てきた。
レクサスのショウルームはシンとした静寂に包まれており、いかにも高級ブランドな緊張感が張り詰めておった。
総コーディネイトおよそ五千円のうらぶれたジジイはお呼びでない。
受付嬢の冷ややかな眼差しを全身で浴びつつ、消毒液を深くプッシュする。とすると、数滴床にこぼしてしまった。
焦る爺。あわてて均そうとするも、幅広靴のキュッキュッがこだまする。
これである。
高級ディーラーのショウルーム。だけれど私は好きなのだ。
まわりの華やかさが一層、己の不始末を際立たせるこのひとときが何とも言えずに心地良い。
私の体内には百姓出の田舎者の血が通っている。改めてそれを実感できたのは良かった。
なになに、マークレビンソンのスピーカーが二十五万円也。ウウム。
大根一本で三十円儲かるとしても、九千本くらい必要である。九千本ともなると、土地は一反ほどになるだろうか。
一反というと約千平方メートルだから、小学校のプールよりも広いくらいだ。
なかなか百姓も苦労であるな。以前は近所にも金時芋やら蓮根の畑がそこかしこにあったものだが、今ではすっかり住宅地に変化しておる。小さな農家では厳しい時代になってきたのだろう。
そんなことを考えながら、レクサス・LBXである。こやつは私とは違う世界に棲むクルマである。
とても三河の田舎出とは思えない、洗練された都会感でタップリなのである。ベースとなるヤリスクロスは見る影もなく、見る限りでは550万円はそう高くない。
これには田園調布のマダムもニンマリであろ。ご自慢のホワイトニングしたティースがまばゆい。
日曜日には試乗車が来るというので予約を取りつけ、その足で向かったのはフィアットである。
「アバルト・500e」 とっても気になっていたのだ。
BEVでサソリの毒がほんとうに可能なのか。スピーカーなんかで満足なのか。
踏んでみると淀みないが、アイドリングはどぶ川の戻り水みたいであった。
たしかにスピーカーの電子音でエキゾウスト・ノートを再現するのは面白いチャレンジである。
ある方がいいとは思った。巡行中、パドルでシフト・チェンジしそうになった。
しかしながら、スイッチひとつでエンジン・サウンドのON、OFFが自由自在という事実を知ってしまうと、もはや何にでもなってしまえと、あゝ投げやりだ。
男とは、実体を求める生き物である。
アダルトビデオで満足するのならば、風俗はいらない。そこらへんのとこ、アバルトだけあって一番よく分かっていると思っていたのだが。
現状これでは心配である。残念ながら、電動化はアバルトにとって存亡にかかわる大懸案だと思いを強くした。
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以下、アバルトのセールス氏との話である。
「トヨタは凄い。BEV時代が来ても盤石ですな」
「でもトヨタの言う通り、エンジンは残ると思います。(トヨタに対抗して)電気自動車に打って出たのは欧州メーカーですから。なかなか振り上げたこぶしは下せないでしょう。」
「(500eの)レコードモンツァも、悪くは無いんですがな」
苦笑しつつ、「近所迷惑にはなりませんね。」
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とにもかくにも、ディジタル時代。
何でもアリだが何にも出来なくなりそうな世界を憂いて、この原稿の締めとしよう。