ユーノス・ロードスター試乗記 | 損小神無恒の間違いだらけのMAZDA選び

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巨匠、損小神無恒が走る白物家電を断罪する!

かしのユーノス・ロードスターに試乗した。平成元年式のベースグレィド。まさしくスッピンである。

 

ユーノス・ロードスター。これはすごいクルマだ。なにしろ日本製ライトウエイト・スポゥツを地で行き続けて35年。世界で一番売れるオープン・カーにまで登り詰めた。

 

35年間同じコンセプトのクルマなぞ、他にあるまい。ここんとこに私なんかは、映画「男はつらいよ」との共通性を感じてしまう。いやはや、継続は力なりである。

 

 

 

 

 

面、茶室、畳、筆文字。ユーノスは歴代でもっとも和風なロードスターであろう。

 

エクステリアは古典芸能の能で使われる"能面"を意識している。絶妙なアールで描かれる面構成は、可愛げがあるが力強さを秘めている。よく見るとリアランプは天狗の目玉だ。そしてエンブレムは毛筆体である。

 

さて、室内である。低い座席に敷居をまたいで潜り込むと、意外にも開けた空間である。これはまさしく茶室であろう。ユーノスのドアはさしずめ"にじり口"だ。インテリアは価格相応といえばそうだが、ことさら贅を嫌うのはこれまた日本的である。スカットルは意外にも高めであるが、ゆえにショルダーラインの低さが際立つ。これは野ざらしの風情である。内と外の境界が曖昧なのが日本の伝統的建築であるから、ユーノスはそれに則っているのだろう。

 

スティアリングの調節機構は無い。それではシィトの背もたれを…、だがこいつも無しである。試乗車は運転席側のみRECAROシィトに変更されていた。普段背もたれが立ち気味な私からすれば、こいつはチョイと旦那仕様であるがま仕方なかろう。ちなみに純正の助手席にも腰掛けてみたが、こちらはフカフカの代物でサポゥトなんてものは無いも同然であった。

 

ロードスターの伝統を感じるのはスティアリングのリムの細さと自然と手を伸ばした位置にあるシフトノブである。4代にわたって同じような細さで、同じような位置であるからこそのロードスターらしさだ。これだと新型に乗り換えたユーザーでもすぐに馴染めることだろう。

 

 

 

 

 

た脚こそがユーノスの極致である。

 

いよいよハシリ始める。ここからは我が妙子(RX-8)との比較になる。

 

先に結論だが、よりスポゥツカー的なのはRX-8の方だ。具体的に言うと、車体の剛性感に富み、ロール、ピッチ類の挙動変化が小さく、4輪の接地感が密で、なおかつ機敏に曲がる。正直に言って妙子を見直したというのが本音である。

 

エンジンを運転手の足元にまで押し込んだという、極限のフロント・ミッドシップレイアウトは伊達ではなく、操舵とともに鼻先がフッと向きを変える感じはユーノスの比ではない。ユーノスも前後重量配分自体は50:50と優れているが、写真のように、エンジンの位置は車軸とほぼ同じか一寸前くらいなので、慣性は少し大きそうだ。

 

RX-8のロータリー・エンジンと比較すると、ユーノスのB型1.6リッターは騒々しい。とにかくうるさいのである。ふだんロータリーだとさらさら水が流れるようだが、ユーノスの5000rpmはまるで工事現場のようで、シフトアップを余儀なくされる。

ただしトルクは期待以上で、軽さもあってか大雑把なクラッチワークも許容する。やはりロータリーは低回転が弱い。アクセル踏んでも回ってくれぬのだ。おむすびはころりんするまで時間がかかる。

 

明らかにユーノスが優れていたのはシフト・フィイルである。こいつの5MTは最高のMTと言っていい。よくできたRX-8の5MTよりも、さらにストロークが短く、節度感がある。元はルーチェ用のトランスミッションなはずだが、どう手を入れたのか快感のシフト・フィイルへと変貌している。

 

それにしても、ユーノスは軽い。それに尽きる。

 

エアバック無のスティアリングだから慣性マスが小さくスルスル回るのはそうだとしても、クルマ自体もスルスル回る。こいつは950kgという車重だから為せる技であり、1.3トン超のRX-8ではとうてい不可能だ。仮に児童クラブの運動会に室伏広治が出たら持て余すだろうが、じつにそういう感じで、RX-8のエンジンとシャシーは日本の道路では持て余してしまう。そこへいくとユーノスは必要にして十分、ジャストフィットで、さらにこの軽快さ。常識的な速度でも十分楽しめる。

 

ひたひたひた。例えるならば、温泉女将の急ぎ足。こいつがユーノスのひた脚である。接地感はそれ程であるが、滑らかに路面を捉えつつ、多少の挙動変化を許容しながら、こまやかにコーナァをクリアする。これぞ、枯れ葉走りの源流だ。わずか170万円(税抜)といっても、足回りへのこだわりは並々ならぬものである。

 

さらに、コーナァ区間前後にあるシフトアップ&ダウンで快感の連続。思わず顔がほころぶ。追憶されるロードスターたちとの思ひで。ロードスターの世界観は35年間受け継がれているものの、世代によってそれぞれ個性があった。特に2代目~3代目の時代は実質的な親会社がフォードだったわけで、その大陸的といおうか、アメリカンな変化は避けられなかったのだろうと偲ばれる。そして、スポゥツカーとしての需要に押されて、数値的な走行性能が重く見られてきた。

 

 

 

 

 

ーノスが一番だ。

 

ユーノス・ロードスターは、最もスポゥツカーから離れたロードスターであることは確かである。ところがユーノスには2代目や3代目を上回る魅力がある。すばらしく滋味に富んでいて、奥が深い。鉄鉢の中へも霰。山頭火の俳句のように。

 

ユーノスがすばらしく風流なのは、そのデザイン、パッケージング諸々が非常に日本的だからである。いつか『オーストラリアで売るために室内の幅を拡げてもらいたい』という要望に、開発主査の平井敏彦氏が『あなたは対象ユーザーから外れている』と突っぱねたという話がある。何事にも取捨選択はあろうが、平井さんは『日本人のライトウエイト・スポゥツ・カー』をひたむきに追い求めた。その熱意は結実したと言えよう。ユーノスは世界中で愛される存在だ。日本人の心が世界の共感を呼んでいるのである。