明日の水 | 林瀬那 文庫 〜あなたへの物語の世界〜

林瀬那 文庫 〜あなたへの物語の世界〜

作家の林瀬那です。

私が
描いた物語を載せてます。

本棚から本を手にするように
自由に読んで下さい。

よかったら
コメント欄に感想書いてくれると
すごく嬉しいです。






「これは

明日の水ですか?」





水瓶に入った水を

差ししめしながら

私は聞いた



喉が

ひどく乾いていた







振り返って

その人は

答えた



「いえ

明日など知れぬ

こんな毎日です


それは

今日の水です」





思いもよらない返事に

私は

戸惑った







この町に残された水は

あと僅かなことを


私なりに

薄々

気づいていたからだ








貴重なこの水は

私のものではなく


誰かの為のものかもしれないと




誰かの為に

用意されたものなのかもしれないと









「今日

命を繋げる為にも

飲んで下さい」




その人は

さも

当たり前かのように

優しく答えた







「でも、、、」



「水なら

ここには

いくらでもあります


安心して

飲みましょう」





ためらっている私に

その人は

水瓶から柄杓で

水をコップに注ぎ

差し出してくれた







数滴の水が

柄杓から地面に落ち


一瞬にして

砂の上で蒸発して

消えてなくなった










あの時

水は

本当に

沢山あったのだろうか



それとも

あの人の

優しい嘘だったのだろうか