第92回「サルバトール・ムンディ」ボッティチェリの悲しみの人 | レオナルド・ダ・ヴィンチの小部屋~最後の晩餐にご招待

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レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画の謎解き・解釈ブログです。
2021年5月末から再度見直して連載更新中です。

2022年1月末に、ボッティチェリのキリスト画が、競売で約52億円で落札されたというニュースがありました。1500年頃に描かれたものと推定されています。

自分はそのニュースによって、この作品をはじめて知って・・・ぐっと刺さりました。

 

1500年頃 悲しみの人(Man of Sorrows)

 

 

以下、血の流れている作品が多数ありますので、苦手な方は注意ください。

 

  悲しみの人(Man of Sorrows)

「悲しみの人(Man of Sorrows)」とは、イエス・キリストの苦悩、悲しみを肖像画のように描いたもので、茨の冠、手や胸の刺し傷をみせ、血や涙を流しています。

 

左側は、ハンス・メムリンクによる「Man of Sorrows」で、中央はヴェロッキオ工房時代の仲間であったギルランダイオが、ハンス・メムリンクのを模写したものです。

右はボッティチェリですが、これは普通のものですね。

 

腕を縛られているのもあります。

 

他の「Man of Sorrows」と比べてみても、落札されたボッティチェリの作品は、光輪が特徴的です。

小さな天使たちが、イエスの受難道具を持って輪になって、光輪のようにみせているのです。

 

茨の冠、槍、柱、はしご、鞭、釘...といった十字架の受難に関わる道具の総称を、アルマ・クリスティと呼ぶそうです。

 

 

 

  アルマ・クリスティのある作品

アルマ・クリスティの入ったものは、ボッティチェリ以前から、多数描かれてきていました。

 

 

天使たちが持っているのもあれば、イエス一人のものもあり、

 

また、アルマ・クリスティ(受難道具)とともに、受難の過程が判るように、人物や手の表現が加わったものもありました。

 

 

Man of Sorrowsからアルマ・クリスティの作品を見ていくなかで、下の作品が一番面白いと思いましたので紹介します。

ロレンツォ・モナコ(1370生-1425年没)はフィレンツェの画家で、これはレオナルドやボッティチェリの生まれる40数年前の作品です。

 

 

月の出ている右側はイエスが捕まり引き立てられていく過程が示されています。

松明、ユダの接吻、ペテロがナイフで耳を切り落とし、ユダは金を受け取り、

イエスの衣をくじ引きし、柱にしばりむち打ちなどの受難道具あり。

 

 

太陽の出ている左側は、鶏が三度鳴く迄にイエスを知らないと否認するペテロ、

殴ったのは誰か当ててみろと目隠しをする布、ピラトの手洗い、茨の冠、十字架に打ち付ける釘、胸を突く槍。

 

左端のはしごでイエスを十字架から降ろし、聖母マリアと弟子が遺体を埋葬。

石棺の前には、埋葬のための香油やもつ薬。

 

十字架の上の鳥は今回はじめて見たので、調べてみたところ、

ペリカンが胸に穴を開けて、その血を与えて子を育てるという伝説からきているそうで、

十字架で血を流し身を捧げたキリストを象徴しているそうです。

 

月と太陽、二羽の子ペンギンと、ユダとペテロの裏切りが左右対称になっていて、この1枚で、ユダの接吻から埋葬までの、何枚分もの異なる時間の流れが、アルマ・クリスティと人物や手の一部分だけで、判りやすく表現されています。

レオナルドが見ていたら、喜びそうな作品だと思いました。

 


ちょっと横道にそれまして、すみません。

ボッティチェリの「悲しみの人」に戻します。

 

ボッティチェリのアルマ・クリスティを持った天使たちは、ほぼ目を隠しています。それは「イエス・キリストの受難の過程は天使さえも目をふせるものだった」と解釈できるかと思います。

 

 

ただ、天使達が輪になっているのであれば、天使の人数は12人とみえます。

 

 

12人の天使の輪というと、「神秘の降誕」を想起します。

「神秘の降誕」の12人の天使は、ヨハネ黙示録12章の『十二の星の冠』に対応していたものでした。

 

下矢印参考記事

 

つまり、12人の天使の輪をもつ、この人物は

 

イエス・キリストに見せつつ、

別の顔はヨハネ黙示録12章に登場する女から生まれた

「鉄のつえをもってすべての国民を治めるべき者」

というのが自分の考えです。

 

 

 

 

第93回に続く