Bob Dylan映画「名もなき者」のタイトル
先日、今日本で絶賛公開中の ボブ・ディラン/Bob Dylan の伝記映画、「名もなき者/A Complete Unknown」を見てきました。今人気の俳優 ティモシー・シャラメ/Timothee Chalamet が素晴らしい演技を見せてくれます。
ボブ・ディランと言えばアコースティック・ギターを奏でハーモニカを口にし、社会的なテーマの歌を歌うフォーク歌手といった印象を持っている人が多いと思います。
このブログでも以前、彼の代表的プロテストソング、「風に吹かれて/Blowing in the Wind」をご紹介しました。
映画とタイトル
ソ連によって引き起こされたキューバ危機、ケネディ大統領の暗殺というショッキングな事件が起き、黒人たちの権利獲得のための公民権運動の気運が高まっていた当時のアメリカ、ニューヨーク。そこでボブ・ディラン/Bob Dylanは弾き語り社会派フォーク・ミュージックの世界で人々を引っ張っていくような存在になりますが、彼自身はザ・ビートルズを始めとするイギリス・ロックの人気を追うかのようにフォークギターをエレキギターに持ち替え、ロックの世界に飛び込みます。
この映画はボブ・ディラン/Bob Dylan のデビュー時からこのロックへの転換期までを描いたもので、その象徴ともなった曲が Like a Rolling Stone/ライク・ア・ローリング・ストーン (転がる石のように)です。 この曲の繰り返しの部分に登場する語句からこの映画のタイトルは取られました。
a complete unknown: 完全に知られていない人~名もなき者
このように邦題も付きました。
歌詞解説
このタイトルが登場するこの曲の繰り返しの部分はこのような歌詞になっています。1番だけ他と歌詞が少し違って、一行少なくなっています。
1番のみ 2,3,4番のみ
How does it feel どんな風に感じるだろう
How does it feel どんな風に感じるだろう
To be without a home 家無しになると
To be on your own 独りぼっちになると
With no direction home 家に帰る方角もわからず
Like a complete unknown 完全な無名になる
Like a rolling stone? 転がっている石のように
スタジオ録音の音源が6分にも及ぶこの歌で4回同じ歌詞が歌われます。ところどころ少し省かれる部分もあります。その部分だけをつなげた動画で聞いてください。
1分に収めたショート・バージョン(TIK TOK)
@haechijp #名もなき者 ~Like a Rolling Stone Bob Dylan (繰り返し部のみ) 2 parts) Lyrics ライク・ア・ローリング・ストーン ボブ・ディラン #bobdylan ♬ Like a Rolling Stone - Bob Dylan
1965年のライブ映像
全歌詞,和訳はこちらへ
歌詞の意味
この曲の歌詞はかつて人気があったり仕事がうまく行って上流階級的な生活をしていた人が、ある時何かのきっかけで住む家もなく独りぼっちで誰も助けてくれない境遇に陥ったらどんな気持ちなのか問いかける内容になっています。
この部分を一つにすると少し興味深い構造であることが分かります。
How does it feel to be on your own with no direction home like a complete unknown, like a rolling stone?
この英文の主語は人ではなく it なんですね。その it は何を指しているかというと、 to be on your own[独りぼっちになること] です。 本当の主語 to be on your own をその位置に置くと、
How does to be on your own feel?
主語が長く、さらに to 不定詞句なのでわかりづらい文になりますので、it を仮主語として持ってきて本主語を後ろに置くということが行われます。
How does it feel to be on your own.
端折ると How does it feel to be on your own.「一人でいる気分はどんなもの?」
残りの部分は on your own に更なる状況を付け加えています。そこ位置にあるのが a complete unknown.
unknown は know の過去分詞 known に 否定を表す un- が付いた語で、「知られていない、未知の」という意味です。
形容詞に分類されますが、 the + 形容詞, the unknown となって 知られていない(未知の)人々や物を表すことがあります。the + 形容詞 で人を表す場合は集合名詞的な使われ方をするので、ここでは一人の人という意味で the ではなく a/an を使って a complete unknown としているのでしょう。
アナと雪の女王(アナ雪)/FROZEN II のテーマソングにも INTO THE UNKNOWN という曲がありましたね。
この英文は一般的な事象として「独りぼっちになること」について問いかけていますが、目の前の相手に問う時、主語を you にするなら、次のように言い替えられます。
How do you feel to be on your own?
ENDING
この曲はビルボードのチャートでも彼自身初の2位、キャッシュボックスでは1位に入る大ヒットとなったのでした。
映画、名もなき者/A Complete Unknownの最後のシーンは、ギターとハーモニカで弾き語るフォークミュージックからバンドを携えエレキギターをアンプを通して大音量で奏でるロックへの華麗なる転身を遂げる、このLike a Rolling Stone/ライク・ア・ローリング・ストーン を含むライブのシーンなのです。
管理人は このデビューから3年くらいのボブ・ディラン/Bob Dylan に関してよく知っていたので、当時のアメリカでのフォークブームを追体験できて感動し、とても満足しました。
ボブ・ディラン/Bob Dylanについて知らない人でも十分に楽しめる作品だと思います。ポピュラー・ミュージックの歴史の重要なポイントとなるエピソードですので、音楽ファンなら必見です!
音源(歌詞和訳つき)
ティモシー・シャラメ/Timothee Chalamet のOST