前回最後にメロディックなラップと書きました。これは実は矛盾した言葉なんですね。
だってラップはもともとメロディじゃなくて、話し言葉のアクセントを強調するところから始まっているからです。
例えば幼児の本「チカチカブンブン」を、盲目のジャズピアニストのレイ・チャールズが朗読していますが、お急ぎの方はこの動画の1:02から聞いてみてください。読んでいるだけなのに自然なラップ感があります。
ラップは言葉を重ねることによって自然発生的に起こった音楽のひとつと言えます。
ラップと同様に、朗読や話の音楽性に近いものに、チャントがあります。
祈り、呪文、鎮魂など、言葉を重ねることによるリズムや音の高低の発生、それが次第に形を作ってチャントになっていく。
日本のチャントには祭りの掛け声のような短いものから、神社の祝詞や寺院のお経などの長いものもありますが、確実にビートとメロディが発生しています。
こういったチャントとラップは発生学的には同じルーツだと思えます。
ラップが音楽として定着したのは、70年代以降のことです。
初期のラップを聞いてみると、朗読に似たような韻を踏んだメッセージを語る、そのために単純なドラムやギターなどの背景音楽がある、メッセージとビートと繰り返しの陶酔を楽しむ、という、かなりチャント的なものです。
初期のラップ曲の例
このラップ曲、ラッパーが次々と交代していくだけで最初から最後までずっとラップです。
ひとつの曲にラップやヒップポップやダンスシーンが入ってくるようになったのは、1990代後半ごろだったかと思います。私的に音楽として斬新だなあと感じたのはJustin Timberlake。彼は今でも活躍していますけど、My LoveやHoly Grailのころがラップとヒップポップなどの要素の組み合わがひときわ輝いていました。
My LoveではT.Iのラップ
Holy GrailはJayZのラップが先で、途中にJTの美声投入、というかこれはJay Zの作品。
しかしこれらはまだラップとメロディックな歌部分ははっきりわかれており、(重ねているところもあるけれど)それぞれたっぷりの長さがとられています。ラップだけで数分続けていた時代からすると短いですが、今のSKZ音楽では考えられない悠長さであり、その上、ラップーメロディーラップといったメロディとラップの対比で構成されています。
2011年のHoly Grailから10年後の2021年、Thunderousが発表されました。
初期のラップ時代から半世紀、英語ではなく韓国語のアクセントで、チャント性を残しつつも明確なメロディを持ち、そして長くても8小節、それがメインメロディと交互に登場します。
そして、ラップだのラウンジミュージックだのコーラスだのという枠を超え、すべてにキレキレのコレオがついて、4-8小節ごとに変化を遂げつつ大きなストーリーを語っていく。これがSKZ流です。
いつもチャンビンのメロディックなラップを聴くたびに、ラップはここまで変化発展したのかと軽く驚かされます。
Thunderousのラップ部分はさらに東洋的な要素がふんだんに使われていて、ラップが国籍を問わない音楽に変化したこと、それにSKZが一役も二役も買っていることをしみじみと感じますね~
さて、イントロからメロディックなラップに移るまでの瞬間に半世紀ほど時間を戻っていただきました。お付き合いいただいてありがとうございました!