今日のブログは、MVの解説ではなく、DLCで使われるテクニックのひとつについて、深掘りしていきます。
DLCの音楽の構成の大きな特徴は、懐かし風味のペンタトニック(5音音階)とシェークスピア風味の物語構成を使いつつ、ところどころ現代風に戻るコーラスの強さと、その繰り返し・あるいはコーラスの要素の繰り返しです。繰り返し、つまり「聞き覚えがあるメロディ」をうまく使っています。
突然ですが、「聞き覚えのあるメロディ(=繰り返されるメロディ)は、私達に喜びをもたらす」という法則があります。そんな法則どこにあったっけ?と思われる方、そうなんですよ、この法則はどこにも書いてないのです・・・ではSong Tellerの思い込みでは?と思われる方、そうではありません。
音楽分析の方法はいろいろありますが、そのひとつに「繰り返し」とそうでないところを見分ける作業があります。短いものならすぐに見つかりますが、例えば楽器を変える、調を変える、メロディを変つつ同じコードの繰り返し、いろいろ変えつつ同じリズムの繰り返し、などを始め、なかなか見つけにくい「繰り返し」もあります。
そういった複雑なものも含め、繰り返しを聞くと私達は、無意識に次も繰り返しだろうと期待します。そこに、全く違うものが出てくると、その瞬間に(無意識的にも)「おっ」となる。そこに面白さや感動が生まれます。
一番シンプルな、「短いメロディの繰り返し」を例にして、上を説明してみます。
誰もが知っているベートーヴェンの交響曲「運命」
これを初めて聴いたというテイでお話しますと:
ソソソ♭ミーという堂々した基本モチーフ。そのあとのファファファレーは、一音上とはいえ、同じパターンの繰り返しでこれは期待通り。ソソソ♭ミーの念押しのように聞こえるし、納得のいくというか自然な進行に聞こえます。
さてその次にソソソ♭ミと聞いた瞬間で時間を止めると、私達は無意識に、次も繰り返しだろうと思うため、ファファファレーが来ると期待します。
しかし、ベートーヴェンは、このモチーフを
ソソソ♭ミ・♭ラララソ・♭ミミミド
と、細かく刻みながら上昇させます。新しいパターンです。あれあれ?と心が揺れます。
「ソソソ♭ミ」はモチーフの繰り返し。新しいのは「♭ミ・♭ラ」の部分で、心理的に「おっ」が発生するところです。何かぐっとくるものがあるように感じると思います。
また「ソ・♭ミ(高)」の部分は、初めての大きな6度の跳躍。これも新しいし、高い音に向けての跳躍には様々なエネルギーがいるので(このトピックでエッセイがひとつかけるほど)この一瞬は、曲が始まってから最初の刺さる瞬間になります。
飛躍感、エネルギー感、ガシッと次の手がかかりを掴んだ感、いろいろな感じ方はあると思いますが、新しい要素が入った瞬間に「おっ」となる。そこに面白さや感動が生まれる。
これはごくほんの小さい例ですが、どんな楽曲も、繰り返しとそれを打ち破る力のせめぎあいで構成されていて、これもまた音楽の不文律と言えます。
一方、ヒップポップ音楽のところで少しお話しましたが、同じフレーズやリズムが繰り返される(つまり無意識に期待した通りに繰り返されていく音楽を聴く)と、ある種の「陶酔」が生まれます。
呪文や呪術では、同じ言葉を繰り返すうちに催眠術にかかったような心理状況になっていくのと同様、「喜」や「悦」など「ハイ」な心理になっていきます。それと似ています。
最初に書いた「聞き覚えのあるメロディは、私達に喜びをもたらす」という法則通り、人間は繰り返される音に魅力を感じる。同じリズムの繰り返しでヘッドバングしちゃうとか、ラッパーがゆっくり目の曲であってもリズムを細かく刻んで体をダブルテンポで動かすのは、繰り返しの陶酔を素早く得るためかもしれません。
私はこのような呪術的な繰り返しに身を任せるよりも、繰り返しを打ち破る力を渇望するタイプなのですが、打ち破る力を「見せどころ」「聞かせどころ」とするクラシック音楽にも、繰り返しのマジックを使ったものがあります。
それが、ベースを繰り返す、バッソ・オスティナート。(=オスティナート・バス、しつこい低音部)バロック時代からこの形は古今東西で使われてきました。
なんとバッソ・オスティナートは現代のポップスでも頻繁に使われています。何世紀も離れている音楽に共通性があるって、とっても面白いですね。
SKZがリミックスしたAll My Lifeは、その一例です。バスのメロディ、♭ミーファーソー ♭ラーソファーが、最初から最後まで繰り返されます。
さて、繰り返される音は、「乗りやすい」「陶酔を生みやすい」という側面は会っても、それ以上の、例えば「驚愕」や「爆発」や「感動」などの動的な感情を生みにくい。そこで、「それを打ち破る力のせめぎあい」を作るために、ちょっと違うものを挟んでいきます。
その違うものの挟み方というのがいろいろあって、ベートーヴェンのところでお話したように、すでに出てきた要素をちょっと変える手法から、すでに出てきた要素をすぐにはわからないように混ぜ込んでいく、音楽としてだんだん盛り上がるようにしていく、新しい要素をいきなり出して驚かせる、新しい要素をすぐにはわからないように混ぜ込んでいく、流れを急に止める、元にもどってなつかしさを感じさせつつ安心させる、など、さまざまな方法があります。
この「繰り返しとそれを打ち破る力のせめぎあい」の観点から考えると、DLCの構成は、コーラスの繰り返しと、その要素を発展させること、一旦引いてから安心させるなど、私達が自然にもっと聴きたいと思わせる構成になっています。
DLCに限らず、SKZの音楽は必ず、要素とその発展、および繰り返しを打ち破る斬新な方法を使って、聴きごたえもあり心に残る作品を次々と制作していて、SKZってやっぱりすごいなあと思います。
彼らの創り出す音楽と世界観。これからも楽しみでなりません。