小説新潮2月号に連載中の垣根涼介の「オン・ザ・ビーチ」(君達に明日はない、パート5に出てくる言葉に次のようなものがある。
「現時点で出来る判断は、懸命に考えて下す。けど、或る程度まで考えても結論が出ない問題は、その時になってから、また考えればいい」
「「それは、またその時のこと」だという、現状への折り合いです。今の時点で判断できないことは、また状況が変われば、その時に判断すればいい。というか、その時には嫌でも判断せざるを得ない。そういう意味で、未来は常に不確定です。そしてその分だけ、気楽です。つまりぼくたちの今は、死ぬまでずっと連続した、一つの通過点でしかない」
「そう感じ始めたら、なんだか人生、前より軽くなりました。」
「最終結論の場はなく、それは死ぬまで持ち越していくって事ですね。」
「たぶん職業も暮らす環境も含めて、今というこの時間は、常に暫定仕様です。むしろその無常を意識して過ごすことに意味があるんじゃないでしょうか」
頑張りさえすれば、その手に入れた立場が死ぬまで続くと思えた能天気な時代は、すでに過ぎ去った。個々の環境がすぐに変化し、流動していく今の世の中では、その人間の社会的な立場も、それに伴う周囲の人間関係も、あっけないほど簡単に変わっていく。
それは一見、プライベートのように見える人間関係でも変わらない。
結婚の為に結婚した男女、同じ職場、同じ大学というだけで仲が良かった友人関係。そんなものは、外的な要因さえ崩れれば、あっという間に崩壊していく。
社会的な利害、あるいは立場だけで繋がった人間関係は、簡単に膝を突き、崩れ落ちていく。
でも、その状況の中で唯一変わらないものがあるとすれば、それは、おそらくは誰もが大事に思っているという。その一点だけだろう。その気持ちを互いに持ち続けられる人間関係だけが、かろうじて生き残っていく。
「この時代、仮に今の仕事がうまく行っていたとしても、それで死ぬまで安泰とは限らない。ようはさ、そのリアルな事実を、どう受け入れて生きるかって話だと思う。」
「折り合いというより、むしろ、その不確定な未来を含めて今を楽しめるか、その気持ち。というか、覚悟の問題だと思う。」