谷崎潤一郎訳「源氏物語」の、私の好きな場面から!

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1.「絵合」巻(谷崎潤一郎訳「源氏物語」中央公論社刊 P454)
「冷泉帝」より9歳年上の「秋好中宮」が入内するシーン。
年上の妻ですが、かわいらしい感じのため、11歳の幼い「冷泉帝」にもかなり好印象のようです。
「お上(「冷泉帝」)は、
新しい人(「秋好中宮」)が入内なさるとお聞きになりましたので、
たいそういじらしい心配をしていらっしゃいます。
お年のほどよりはずっとませて、大人びておいでなのでした。
中宮(「藤壺」)も、『気の張るお方がお上りになるのですから、
お心づかいを遊ばして逢うてお上げなさいませ』と
おっしゃってお上げになります。
お上は人知れず、大人に逢うのはきまりが悪いなと、思っておいでになるのでしたが、
宮(「秋好中宮」)はたいそう夜更けてからお上りになりました。
つつましやかに、おっとりしていて、
お体も小さく、華奢な様子をしていらっしゃいますので、
美しいとお思いになります。
弘徽殿(「頭中将」の娘の女御、1歳年上)とはお馴染でいらっしゃいますので、
仲好しで、気がねがいらぬように思し召していらっしゃいますが、
これ(「秋好中宮」)は人柄も落ち着いていて、気づまりなところがあり、
大臣(「光源氏」)のお扱いも御鄭重に、重々しいので、
お近づきなさりにくくお思いなされて、
おん宿直などは同じように仰せつけられますけれども、
打ち解けた御遊戯などに昼間お渡り遊ばす場合は、
弘徽殿の方へお越しになることが多いのです。
権中納言(「頭中将」)は、心に願うところがあって
御奉公にお上げなされましたのに、
今度この宮が入内なされて、御自分のおん娘と競争の形になられましたのを、
かたがた安からずお思いになるでもありましょう。」
年齢的には少し不釣合いなほど年上の妻でありながら、
「つつましやかに、おっとりしていて、
お体も小さく、華奢な様子をしていらっしゃいます」
このあたり、
後々(「光源氏」の後押しや「絵合せ」での勝利もあり)
同じ程度「高雅」な女性として描かれる「弘徽殿女御」との争いに勝ち、
「中宮」にまで登りつめることのできるほど、
「秋好中宮」が「冷泉帝」の好意を獲得することのできた「秘訣」かも!?

※「光源氏」の養女「梅壺女御(秋好中宮)」と頭中将の娘「弘徽殿女御」が物語絵の優劣を競う(「絵合」巻)
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2.「若菜下」巻(谷崎潤一郎訳「源氏物語」中央公論社刊 P924)
源氏物語・「女楽」のシーンから。

※六条院・女楽(「若菜・下」巻)
六条院の寝殿(「女三宮」の御殿)で、
「光源氏」の妻や娘たちが楽器を合奏します。
女君たちの容姿の描写から。
「姫宮(「女三宮」)のおわします方を覗いて御覧になりますと、
人並みよりは目立って小さく、可愛らしく、
ただお召物ばかりがあるような気がします。
幽婉というところは乏しくて、
ひたすら気品高く、お綺麗で、
二月の二十日ごろの青柳の、
わずかにしだれ初めたような感じがして、
鶯の羽風にも乱れそうに、華奢にお見えになります。
桜の細長に、お髪が右左からこぼれかかって、
柳の糸の風情なのです。
これこそ限りなくやんごとない人のおん有様かと見えますのに、
女御の君(「光源氏」の娘「明石の姫君」)は同じように優美なお姿ながら、
今すこし餘情があって、
動作や素振りが奥ゆかしく、
故ありげな様子をしていらっしゃいますので、
よく咲きこぼれた藤の花が夏にかかって、
その傍らに並ぶ花もない朝ぼらけの感じでいらっしゃいます。
あいにくただならぬお体で、大分人目につくようになっていらっしゃいまして、
御気分もすぐれませんので、おん琴を遠ざけて、
脇息に靠れていらっしゃるのでした。
小柄な方がぐったりと寄りかかっていらっしゃいますのに、
おん脇息は普通の大きさですから、
背伸びをしたような形になって、
特別に小さいのを作って上げたく思えるほど、
痛々しくていらっしゃいます。
紅梅のおん衣に、お髪のはらはらと清らかに垂れかかった
灯影のおん姿が、またとなく美しく見えますのに、
紫の上は、葡萄染(えびぞめ)でしょうか、
色の濃い小袿に薄蘇芳(うすすおう)の細長を召して、
お髪が床にたまるほどゆらゆらとしておびただしく、
身の丈などもちょうど頃合いで、体つきも申し分なく、
あたりいっぱいに匂うばかりの心地がして、
花に喩えるなら桜ですけれども、実はその桜よりも立ちまさって、
人と違っていらっしゃいます。
こういう方々のおんあたりでは、明石(「明石の上」)は気おされてしまうはずなのですが、
なかなかそうでもありません。
態度などもこちらが恥かしくなるくらいな品があり、
気だての床しさもうかがわれて、
何ということもなく気高くて艶に見えます。
柳の織物の細長に、萌黄(もえぎ)ででもありましょうか、小袿を着て、
羅(うすもの)の裳の、あるかなきかにほのかなのを引きかけて、
ことさら卑下しておりますけれども、そのけはいも用意も心にくくて、
侮りがたいのです。
高麗の青地の錦の縁を取った褥に、正面にはすわらないで、
琵琶をちょっと置いて、ほんの少し弾きかけて、
しなやかに使いこなした撥の扱いかたなど、
音を聞くよりもなお結構で情緒があって、
五月待つ花橘を、花も実も一緒に折り取った薫りがするように思えます。」
このあたりの、女君たちの容姿の比べっこ…
垣間見する貴公子の気持ちになってきてなぜか「萌え」ちゃうツボかも!?
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3.「若菜下」巻(谷崎潤一郎訳「源氏物語」中央公論社刊 P950)
「紫の上」に取り憑いた「六条御息所」の死霊と、「光源氏」が対峙する場面。
「『ほんとうにあのお方なのか。
悪い狐などというもののいたずらで、
亡き人の徳を傷つけるようなことを言い出すこともあるというのに。
確かな名を名告れ。
またほかの人の知らないことで、
私だけが胸に覚えのあるようなことを言ってみろ。
そうしたら幾らかでも信じよう』と仰せになりますと、
ほろほろと涙をこぼして、激しく泣いて、
『我が身こそあらぬさまなれそれながら
そらおぼれする君は君なり
辛うございます辛うございます』
と泣き叫びつつも、
さすがに羞かしそうにしているところが、
その人とそっくりであるのがかえって疎ましく心憂いので、
ものを言わせまいとなさいます。
『中宮(「秋好中宮」)のおんことにしましても、
空をかけりながらも見ておりまして、
嬉しくも忝なくも存じているのでございますが、
違った世界に棲んでおりますと、
子のことまではさほど深くも感じないのでございましょうか。
やはり自分の身につきまして辛く思いましたことが、
妄執となってあとまで残るのでございます。
中でも、存生中に人より軽くお見下げなされて、
捨てておしまいになりましたことよりも、
思うお方(「紫の上」)とのお物語の折などに、
私のことを憎らしい厭な人間であったように、
仰せ出されました恨めしさ、
今はこの世にいない者だからと御勘弁なさって、
他人が悪口を言うような時でも、
それを打ち消し、庇うようになすってこそと、
思いましたばかりに、かような忌まわしい身になりまして、
こんな祟りを働くのでございます。
この人(「紫の上」)をそんなに深くお憎み申しているのではありませんが、
ただあなたにはあまり厳重な佛神のお加護がありますので、
おんあたりまではたいそう遠い心地がして、ようお近寄り申しませず、
お声を聞かしていただくのだけがようようなのでございます。
もうこの上は私の罪障が軽くなるような御祈祷をなすって下さい。
修法だの読経だのとお騒ぎになりましても、
身には苦しい呪いの炎ばかりが纏いつきますので、
貴い教えの声などは一向聞えて参りませんのが、
ほんとうに悲しゅうございます。
どうか中宮(「秋好中宮」)にもこのことをお伝え申して下さい。
ゆめゆめお宮仕えの折にも、
人と争い嫉む心をお起しなさいますな。
斎宮でいらっしゃいました時のお罪が軽くなるように、
功徳を積むことを必ずお忘れなさいますな。
残念なことでございました』
などと言い続けるのですが、
物怪を相手にお話しになりますのも笑止ですから、
封じ籠めて、上(「紫の上」)をそうっと別のお部屋へお移し申されます。」
死してなお祟りながらも、「六条御息所」の言ってるところは意外に正論かも!?
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4.「夕霧」巻(谷崎潤一郎訳「源氏物語」中央公論社刊 P1102)
亡き友人「柏木」の妻「落葉の宮(女三宮の姉である女二宮)」に想いを寄せる「夕霧」。
三年もの間、色心を隠して、「柏木」を弔い遺言を守る名目で「落葉の宮」とその母をねんごろに支え続けます。
しかし内心では、用心深く奥ゆかしく振る舞う「落葉の宮」に、
近寄る機会を探し続けていたのでした。
妻の父「頭中将」に引き離され、ようやく結婚を許された幼なじみの妻「雲居の雁」は、
その地位に何の不安も抱かなくなり、子育てに没頭する家庭的な主婦になっていました。
「落葉の宮」邸の落ち着いて優雅なさまは、「夕霧」にとって、「別天地」のように魅力的に映ったのです。
当時、帝の女宮の場合には、「結婚」せず一生独身をとおすことが、むしろ普通だったようです。
「源氏物語」の主要な女君のうち、
「光源氏」を自分から誘ったのは、「夕顔」ひとりだけです。
「夕顔」の場合は、「頭中将」のもとを出奔し、経済的に困窮していたこともあったでしょう。
自由奔放なことで知られる「朧月夜」でさえ、
「光源氏」との馴れ初めは受け身で、むしろ「被害者」的立場にありました。
経済的に裕福な姫君の場合、男君との関係は、親が結婚話をまとめるか、
あるいは女房の手引きを得た男君に無理強いされるかの、
どちらかだったと思われます。
「落葉の宮」の母は身分の低い更衣でしたが、
娘のことは「尊い存在」として気高く育てようとしていたため、
一生「独身」を望んでおり、「柏木」との結婚も、いやいや押し切られてのものでした。
「臣下」と結婚しながらその夫にも先立たれ、これ以上「物笑いの種」にならないようにと
慎重に優雅に暮らしている「落葉の宮」とその母。
三年もの間、「夕霧」に近づく隙はありませんでした。
しかし、「落葉の宮」の母が物怪に憑かれて病に倒れ、
加持祈祷のため、「落葉の宮」もろとも山奥に居を変えて、
「落葉の宮」の身の回りが手薄になったとき、
「夕霧」は意外に強引で強気な素顔を見せ、行動に移ります。
仮住まいということで、比較的そば近くにいる「落葉の宮」に「強引」に近づいて言い寄り、
まずは「落葉の宮」と関係ができたという「濡れ衣」を着せます。
そして、「落葉の宮」の母が心痛のうちに亡くなった後は、
「落葉の宮」の邸に、勝手に手を入れて立派に磨き立て、
「自分の部屋」まで作ってしまい、まるでそこが自分の家であるかのように振る舞うのでした。
様子が変わってしまった邸に戻った「落葉の宮」は、
「夕霧」を避けるため「塗籠(納戸)」に閉じこもってしまいます。
しかし、「夕霧」は「落葉の宮」の女房を手なずけ、
女房の手引きにより、「塗籠」の中に入り込むのでした。
そこからの引用箇所。
「塗籠の中にはそう細々した調度などは多くも置いてなく、
香のおん唐櫃、御厨子などのようなものだけがありますのを、
ここかしこに片寄せて据えて、
間に合せの御座所を拵えて、座っておいでになるのでした。
内は薄暗い感じなのですが、折から朝日が昇ったらしくて、
明りが隙間からさし込んで来ましたので、
(「夕霧」は、「落葉の宮」が)被いていらしったおん衣を引き除け、
ひどく乱れたお髪を掻いて上げなどして、
ほのかにおん顔をお拝みになります。
たいそう上品に、女らしく、あでやかなお姿をしていらっしゃいます。
男の御様子も、真面目くさっていらっしゃる時よりは、
打ち解けておいでになる時の方が、限りもなく美しく見えます。
女君はお心のうちに、
故衛門督(「柏木」)などは格別の男前でもなかったのに、
この上もなく思い上って、何かにつけて
私の器量が気に入らぬけはいだったではないか、
ましてはこのようにひどく色香の衰えた今の姿を、
しばらくでも辛抱して相手にするであろうかと、
思うさえたまらなく恥かしいのです。
そして、いろいろに考えて、
思案を廻らして、自分で自分のお心を納得させるようにお努めになります。
ただここでもかしこでも、
おん方々(「夕霧」の正妻「雲居の雁」や、
「雲居の雁」の父であると共に、亡き夫「柏木」の父でもある「頭中将」など)
が苦々しゅうお感じになったら、申し開きの道はないし、
その上今は喪中でもあるのが心憂くて、
やはり気持の慰めようがないのでした。」
「落葉の宮」は、夫「柏木」から愛されなかったこともあってか、
容姿の美しさには自信がありません。
でも、実はなかなかの美貌のようです。
それより少し前、同じ「夕霧」巻P1091には、「落葉の宮」の容姿について、
「かくても一途に剃り捨てたくお思いになるおん黒髪に櫛を入れてごらんになりますと、
少し毛がお減りになったとはいえ、
いまだに六尺ほどもあって、なかなかよそ目にはお見事に存じ上げるのです。
でも御自分のお心では、
まあ何という衰え方であろう、
こんな姿でどうして人に逢えるものか、
何やかやと心配事の多い体でとお思いつづけになりまして、
またしても横におなりになるのでした。」
と容姿に自信をもっていない様子が描写されています。
「落葉の宮」、なかなか教養と気品を備えた味のある女性ながら、
「女三宮」へ想いを捨てきれない夫の「柏木」には、陰で
心ないことを言われていた女性。
「もろかづら落葉を何にひろひけん
名はむつまじきかざしなれども」(「若菜下」巻 P950)
こんな失礼な「柏木」の歌から、「落葉の宮」の通称で呼ばれています。
その「落葉の宮」を、はじめて女性として正当に評価してくれたのは、
皮肉にも、嫌い抜いていた「夕霧」だったようです。
後日談として、「匂宮」巻(P1152)より、
「東北の町(六条院の「花散里」のいた夏の邸)に
あの一条の宮(「落葉の宮」)をお迎え申し上げられて、
そちらと三条のお邸(正妻「雲居の雁」)とへ、
一晩おきに十五日ずつ、几帳面に泊っておいでになりました。」
と、子供はできないものの、正妻とほぼ変わらないくらいの「夕霧」の愛を受けて、
それなりに幸せに暮らしている様子が伺えます。
「落葉の宮」、なぜか心惹かれる女君のひとりかも!?
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5.「紅梅」巻(谷崎潤一郎訳「源氏物語」中央公論社刊 P1166)
「真木柱の姫君」とその子供たちの巻。
憧れの「玉鬘」を強引にものにした「髭黒大将」は、
長年冷え切っていた、心を患った妻(「式部卿宮」の娘で「紫の上」とは異母姉妹にあたる)
と別れることに。
この妻の産んだ娘である「真木柱の姫君」は、母と共に家を出ますが
「今はとて宿離れぬとも馴れ来つる
真木の柱はわれをわするな」(「真木柱」巻 P763)
と、読者の涙を誘うすばらしい歌を去り際に残すのでした。

この「真木柱の姫君」、
その後、「玉鬘」に言い寄っていた貴公子「蛍兵部卿宮」と正式な結婚をしますが、
色男の「蛍兵部卿宮」は、スムーズすぎた結婚にかえって興をそがれ、
右大臣の娘(「朧月夜」とは姉妹にあたり、共に「美人」で知られていた)であった亡き妻に
まだ心を残していることもあってか、
「真木柱の姫君」との夫婦仲はかんばしくありません。
そして「蛍兵部卿宮」の死後、「真木柱の姫君」は、
「柏木」の弟で「頭中将」の二男である「按察大納言」と再婚します。
「蛍兵部卿宮」との間に一女「宮の御方」を設けており、
「連れ子」つきの再婚でした。
このときの「真木柱の姫君」のちょっと難しい立場と、賢明な振る舞いについて、
「(「按察大納言」の)おん子は(「按察大納言」の)故北の方のおん腹にも、
姫君が二人だけおありになりましたが、
それだけでは寂しいというので、
神佛にお祈りして、今のおん腹(「真木柱の姫君」の子)に男君を一人お儲けになりました。
故兵部卿宮(「蛍兵部卿宮」)のお忘れ形見に、
姫君(「宮の御方」)が一所おいでになります。
そのおん方をも分け隔てせず、
いずれも同じようにして上げていらっしゃいましたが、
それぞれのお付きの衆などの中には気だてのよくない者もいまして、
ときどき妙に事がこじれる折もありますけれども、
北の方(「真木柱の姫君」)がたいそう朗らかな、当世風なお方なので、
穏かに取り裁いて、御自分の方が辛く感じるようなことでも、
素直に聞き流して堪忍していらっしゃいますので、
外聞の悪いことも起らず、体裁よく暮していらっしゃいました。」
さすがは賢い「真木柱の姫君」の処世術!
こんな風にうまく流せば、難しい立場に置かれたときも、
自分の道を切り開いていけるのかも!?
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6.「紅梅」巻(谷崎潤一郎訳「源氏物語」中央公論社刊 P1168)
「真木柱の姫君」の連れ子「宮の御方」は、「匂宮」に想いを寄せられますが、
義父の「按察大納言」が自分の実の娘と「匂宮」の婚姻を希望していることもあって、
結局縁づきません。
「宮の御方」は、実父を亡くし後ろ盾のろくにない身ですが、
賢く身を処して、外聞の悪いような目にも合わない
奥ゆかしいキャラクターとして描かれています。
そんな「宮の御方」の様子を、義父の「按察大納言」視点で見るシーンから。
「殿(「按察大納言」)としましては、
継子と実子の区別をなさらず、
どなたに対しても親と思っていらっしゃるのですが、
一度(「宮の御方」の)お姿を見たいとお思いになりまして、
『そうお隠れになるのは水臭いではありませんか』と恨みを言って、
ひょっとお見えになることもあろうかと、
人知れずそのあたりをお覗きになったりしますけれども、
なかなか、絶えて片端をさえ御覧になることができません。
『母上がお留守の間は、私が代りに
お側へ参って見て上げなければなりませんのに、
そう疎々しく分け隔てをなさいますのは情けないことです』
などとおっしゃって、御簾の前におすわりになりますと、
おん答えなどは仄かになさいます。
お綺麗な、品のいいお声をしていらっしゃいますので、
姿形が想いやられて、お人柄のほどもさぞかしと察せられます。
自分は実の姫君たちのことを、誰にも引けは取るまいと思いあがっているけれども、
このお方には勝てないのではないか、
さればこそ内裏など人の多い所は厄介なのだ、
これなら人に負けるものかと思っていると、
それ以上の者がいたりするのだなどと、
ひとしお気が揉めて、一層宮の君のお顔をはっきり見たいとお思いになります。」
「宮の御方」奥ゆかしく用心深くて、男心をやきもきさせるタイプ!?
こんな風にかわいらしくて、軽薄なところのない女性であれば、
さほど恵まれた境遇になくとも、
それなりに品を保って生きていけるのかも!?
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7.「竹河」巻(谷崎潤一郎訳「源氏物語」中央公論社刊 P1189)
略奪婚のようにして、強引に「髭黒大将」と結婚する羽目になった「玉鬘」。
その「髭黒大将」とは、賢夫人としてたくさんの子を設けますが、
夫が逝去した後は、しっかりした後ろ盾もないまま
ひっそりとしたやや寂しい生活を送ります。
そんな「玉鬘」と故「髭黒大将」の間にできた娘たちは、美しいと評判のため
多くの貴公子から想いを寄せられています。
「玉鬘」の長女(「大姫君」)と次女(「中姫君」)が桜を賭けて囲碁を打つ場面から。

「お年のほどは、その頃十八九ぐらいでいらしったでしょうか、
お姿も、心ばえも、とりどりにすぐれておいでなのです。
大姫君は水際立って上品に、花やかなところがおありなされて、
いかにも尋常人にしておおき申すのはもったいないようにお見えになります。
桜の細長に、山吹などの、折にふさわしい色合いの衣が、
ほどよく重なっています裾のあたりまで
愛嬌がこぼれ落ちるようで、
おん身のこなしなどもしっくりと、
こちらが気恥かしくなるような感じさえ添うていらっしゃいます。
今お一方(「中姫君」)は薄紅梅の衣に、
つややかなお髪が、柳の糸のようにたおやかに見えます。
背がすらりとして、艶で、
澄み切った、分別のありそうな、
重々しいけはいは勝っていらっしゃいますけれども、
つやつやしいところは姉君が格段であるように、
誰もが思っています。
碁をお打ちになろうとして、差向いになっていらっしゃいますお二人の、
お頭の恰好、お髪の垂れ具合なども、まことに美しいのです。」
こういう姫君たちの容姿の描写には、なぜか垣間見する「蔵人少将」の気持ちになって「萌え」てきてしまう習性が!?
(後日談)大勢の貴公子から求婚される「大姫君」は、
「蔵人少将」などの熱心な求婚者を振り切って、退位した「冷泉院」に嫁ぎます。
そして、「冷泉院」の寵を独占するも「弘徽殿女御」や「秋好中宮」からは快く思われず、
あの「桐壺の更衣」をも思い起こさせるような、心苦しい日々を送るようになります。
一方「中姫君」は今上帝の「尚侍」(女官の長でありながら天皇の妃にもなれる存在)
の職を母「玉鬘」から譲りうけて、
「中宮」にはなれないものの世間からの評判はよく、まずまずの日々を送るのでした。
ところで、「光源氏」の逝去後の人間模様を描く「紅梅」や「竹河」巻は、
物語の筋が「宇治十帖」に直結しないため、
「源氏物語」全体のなかではやや「中途半端」とされる巻。
でも、その時代をいっしょに生きているような感覚でゆっくり読み進むのだったら、
「あのキャラクターの後日談」がいきいきと描かれていて、
その時代ならではの雰囲気を味わえるため、意外と大好きな巻かも!?
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(おまけ)「源氏物語」の世界にハマると「情操教育」にいい!?
「源氏物語」をひたすら読むうちに、紫式部に「感化」されて、おのずと立ち居振る舞いや心のうちも「しとやか」になれそうな気がしてきました…!?????
そこで、「源氏物語」風に、自分のなりたい「理想の姿」を描写してみると…
「つやつやしくふっさりとしたお髪が、絹糸をよりかけたようにたなびいておりまして、
たいそう艶に、愛嬌あるご様子にお見えになります。
物腰などもしとやかになまめいて、派手派手しいというのではございませんが、
それとはっきり見分けがつき、ひときわ婀娜めいて、目を惹くお姿でございます。
お年の割には子供らしくいらっしゃいますけれども、
さすがに世慣れたところもございまして、
恥しそうにされておいでながらも、物おじなどはなさいませんので、
あれこれ気を回してご心配なさるご性分の殿も、『これならば』と思し召されるのでございました。」
…!?????💀
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■「大和絵土佐派」の絵師「土佐光吉」の作品など、安土桃山以降の源氏絵の世界から!

※蹴鞠(「若菜・上」巻)

※蹴鞠(「若菜・上」巻)

※衣配り(きぬくばり)(「玉鬘」巻)

※衣配り(きぬくばり)(「玉鬘」巻)

※野分(台風)後の「秋好中宮」里邸(「野分」巻)

※野分(台風)後の「秋好中宮」里邸(「野分」巻)

※「桐壺帝」は若宮(「光源氏」)の将来を案じ、高麗の相人に運勢を見させる(「桐壺」巻)

※「桐壺帝」は若宮(「光源氏」)の将来を案じ、高麗の相人に運勢を見させる(「桐壺」巻)

※「桐壺帝」の行幸の楽舞で、「頭中将」と共に「青海波」を舞う「光源氏」(「紅葉賀」巻)

※「青海波」を舞う「光源氏」と「頭中将」(「紅葉賀」巻)

※「青海波」を舞う「光源氏」と「頭中将」(「紅葉賀」巻)

※幼い「紫の上」を垣間見する「光源氏」(「若紫」巻)

※幼い「紫の上」を垣間見する「光源氏」(「若紫」巻)

※都落ちし須磨にわび住まいをする「光源氏」が、「惟光」ら従者と歌を詠みかわす(「須磨」巻)

※都落ちし須磨にわび住まいをする「光源氏」が、「惟光」ら従者と歌を詠みかわす(「須磨」巻)

※宇治八の宮を訪れた薫が、箏、琵琶を奏でる大姫君と中の君を垣間見る。撥で月を招く中の君(「橋姫」巻)

※宇治八の宮を訪れた薫が、箏、琵琶を奏でる大姫君と中の君を垣間見る(「橋姫」巻)

※車争い(「葵」巻)

※車争い(「葵」巻)

※「光源氏」の養女「梅壺女御(秋好中宮)」と頭中将の娘「弘徽殿女御」が物語絵の優劣を競う(「絵合」巻)

※娘の斎宮(後の「秋好中宮」)とともに伊勢へ下向する「六条御息所」を嵯峨の野宮に訪れ名残りを惜しむ「光源氏」(「賢木」巻)

※「秋好中宮」の六条院の里邸「秋の御殿」より「紫の上」の「春の御殿」へ、童女に持たせた箱のふたに花もみじを取り交ぜて歌が贈られる「心から春待つ園はわがやどのもみぢを風のつてにだに見よ」(「乙女」巻)

※「空蝉」と「軒端荻」の囲碁対局(「空蝉」巻)

※「空蝉」の寝所に忍ぶ「光源氏」。気配を察した「空蝉」は、傍らに寝入る「軒端荻」を残して部屋を逃れ出る(「空蝉」)

※常陸宮の姫君「末摘花」に想いを寄せる「光源氏」。姫君の気配を伺おうと常陸宮邸の透垣に近づく「光源氏」は、同じく姫に想いをかける「頭中将」と出くわす(「末摘花」巻)

※「光源氏」が都落ちした後、貧しさに耐えひたすら帰りを待ち続ける「末摘花」。都に返り咲いた後、「末摘花」をすっかり忘れていた「光源氏」は、荒れ果てた館を偶然通りがかり、ようやくその存在を思い出す(「蓬生」巻)

※「朧月夜」との出会い(「花宴」巻)

※夕顔の花を所望する「光源氏」のため、花を折り取ろうとする従者に、「夕顔」の侍女から花を載せるための扇が渡される。扇に書きつけられた歌「心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花」(「夕顔」巻)

※「花散里」を訪れる道すがら、「光源氏」の一度逢ったことのある女の住まう風情ありげな館から、にぎやかな琴の音が聞こえる(「花散里」)

※物思いにふける「光源氏」(「若紫」巻)

※雛遊びに夢中の幼い「紫の上」を訪れる「光源氏」。乳母の「少納言」が、「もう奥様なのですから少しは大人らしくなさいませ」と「紫の上」をたしなめる(「紅葉賀」巻)

※「紫の上」を賀茂の祭につれだそうと「光源氏」が手ずからその髪をそぎ、「千尋」と祝いごとをいう(「葵」巻)

※六条院の春の町「船楽の遊び」(「胡蝶」巻)

※住吉に詣でて偶然「光源氏」一行の華麗な行列に遭遇し、身分の差を実感する「明石の上」(「澪標」巻)

※「紫の上」の養女として手放す娘「明石の姫君」を腕に抱く「明石の上」(「薄雲」巻)

※「明石の姫君」の御殿。生母「明石の上」から果物を入れた鬚籠や新年の食物を入れた破子などが贈られる(「初音」巻)

※六条院の新春、「明石の上」の御殿を訪れる「光源氏」(「初音」)

※「蛍兵部卿宮」に見せようと蛍の光で「玉鬘」の姿を照らしだす「光源氏」(「蛍」巻)

※「大宮」の喪に服す「玉鬘」を「夕霧」が訪れ、帝の勅旨を伝えるのにかこつけて想いを伝えようとする(「藤袴」巻)

※「略奪婚」のような形で「髭黒大将」と強引に結婚するはめになった「玉鬘」。「髭黒大将」の長年冷え切った仲の妻は、いそいそと「玉鬘」のもとに出かけようとする夫の後ろから、香炉を火と灰もろともに浴びせかける(「藤袴」巻)

※源氏の四十歳の賀宴で祝いの席につく「光源氏」「玉鬘」「玉鬘の産んだ息子たち」(「若菜上」巻)

※出家した「女三宮」と不義の子「薫」を訪れる「光源氏」。幼い「匂宮」が女房に抱かれやってくる(「幻」巻)

※「夕霧」の夢枕に「柏木」が現われ、笛を自分の子孫(「薫」)に伝えてほしいと歌を詠みかける(「横笛」)

※亡き友人「柏木」の妻「落葉の宮」に惹かれていく「夕霧」。「落葉の宮」の母からの手紙を読んでいると、妻「雲居の雁」が後ろから手紙を奪い取る(「夕霧」巻)

※「朝顔の姫君」への想いを断ち切れない「光源氏」。嫉妬する「紫の上」を慰めるため、雪月夜の二条院で雪転しをさせる(「朝顔」巻)

※「朝顔の姫君」から贈られた薫香を受け取る光源氏(「梅枝」巻)

※夕霧が六条院で催した「賭弓の還饗(のりゆみのかえりあるじ)」に匂宮と薫が招かれる(「匂宮」巻)
■好きな和歌から!
「世の中は 夢かうつつか うつつとも
夢とも知らず ありてなければ」
(@よみ人知らず(「古今和歌集」))
「見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくば
あやなく今日や 眺めくらさん」
(@「柏木」(「伊勢物語」より引き歌)「若菜上」巻)
「片糸を かなたこなたに よりかけて
あはずば何を 玉の緒にせん」
(@「薫」(「古今集」より引き歌)「総角」巻)
「あふことは 遠山鳥の 目もあはず
あはずてこよひ 明かしつるかな」
(@「紫式部」(「花鳥餘情所引」より引き歌)「総角」巻)
「深き夜の 哀ればかりは ききわけど
こと(琴)よりほかに えやはいひける」
(@「落葉の宮」「横笛」巻)
「わが恋は むなしき空に 満ちぬらし
思ひやれども 行くかたもなし」
(@「薫」「東屋」巻/「匂宮」「浮舟」巻(「古今集」より引き歌))
「白雲の 晴れぬ雲井に まじりなば
いづれかそれと 君は尋ねん」
(@「浮舟」(「花鳥餘情所引」より引き歌)「浮舟」巻)
「へだてなく 蓮の宿を ちぎりても
君がこころや すまじ(住まじ)とすらん」
(@「女三宮」「鈴虫」巻)
「おほかたの 我が身一つの うきからに
なべての世をも 恨みつる哉」
(@「中の君」「寄生」巻/「弁のお許」「早蕨」巻/「浮舟の母」「東屋」巻(「拾遺集」より引き歌))
「わが庵は 都のたつみ 然(しか)ぞすむ
世をうぢやまと 人はいふなり」
(@「紫式部」(「古今集」より引き歌)「椎本」巻)
「世の人は 我を何とも 言わば言え
我なす事は 我のみぞ知る」
(@「坂本龍馬」)
「ある時は ありのすさびに 憎かりき
なくてぞ人の 恋しかりける」
(@「紫式部」(「源氏物語奥入所引」より引き歌)「桐壺」巻)
「たらちめは かかれとてしも うば玉の
わが黒髪を 撫でずやありけん」
(@「浮舟」(「後撰集」より引き歌)「手習」巻)
「ここにしも なに匂ふらん 女郎花
人のものいひ さがにくき世に」
(@「尼君の昔の婿の中将」(「拾遺集」より引き歌)「手習」巻)
■自作の和歌(´-`;)
「誰が夢ぞ 誘ふ通ひ路 吹き閉じよ
我が身ひとつは 風のまにまに」
(@「somethingspecial4」)
「逢魔が原 夢の通ひ路 閉じやせむ
恋しき人の 風の移り香」
(@「somethingspecial4」)
「夢が関 恋しき人も 来し路を
閉じやせむとて けふも過ぎぬる」
(@「somethingspecial4」)
「風そよぐ 秋の夜長の 望月の
淡き月影 ましませ吾が君」
(@「somethingspecial4」)
■好きなことわざから!
「船頭多くして船山に上る」
「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」
「沈黙は金、雄弁は銀」
「昔取った杵柄」
「三つ子の魂百まで」
「好きこそものの上手なれ」
「人間万事塞翁が馬」
「柳に雪折れなし」
「柔よく剛を制す」
「禍を転じて福と為す」
「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」
「癖ある馬に能あり」
「玉磨かざれば光なし」
「四十にして惑わず」
「いずれ菖蒲か杜若」
「百聞は一見にしかず」
「仰いで天に愧じず」
「断じて行えば鬼神も之を避く」
「精神一到何事か成らざらん」
「読書百遍義自ずから見る」
