125分

原作は中国SF界のヒットメーカー劉慈欣の同名の短編小説。
――近未来。太陽が膨張を始め地球は様々な天災に襲われるようになった。数百年もすれば太陽銀河系の惑星は全て太陽に飲み込まれてしまうだろう。未曽有の事態に世界中の国々が団結し、4.2光年離れたアルファケンタウリ銀河系へ向かって地球ごと移動するという案、その名も「流浪地球計画」が採択された。
地球が太陽銀河系を離れるための動力システム「地球エンジン」を各地に建設し、同時に地球から10万キロの宇宙空間に先導のための宇宙ステーションが作られた。地下にシェルターを建設し全人類が避難した。そしていよいよ、地球は銀河の外を目指し出発した…。
17年後。最初の宇宙ステーション職員として赴任した劉培強はやっと地球へ戻ることになった。地球を出発した時4歳だった息子は大きくなっていることだろう…17年ぶりの息子との再会をずっと待ちわびていたのだ。
その頃、北京シェルターに住む劉啓と従姉妹の韓朶朶は祖父のIDキーを盗んであこがれの地球表面上へ。だがすぐに警察に見つかって牢へぶち込まれた。祖父の韓子昂がすぐに迎えに来てくれたが、その時突然地震が起こる。地球が木星の引力圏内に入ったのだ。
木星の引力は想像以上に強く、地球エンジンの半数がダウンしてしまった。推力が得られなければ地球は木星に墜落してしまう…!劉培強は義父の韓子昂と交信し息子・劉啓の無事が確認できたが、地球が非常事態に陥ったため宇宙ステーションは低動力モードへと切り替えられることに。劉培強の帰還は中止となり他の職員同様コールドスリープに入らなければならなかった――
[ここからネタバレ-----
祖父の操縦する車で崩れ落ちる建物をなんとか脱出した劉啓ら。中国の救援隊171-11隊に保護されたが、隊長の王磊は特殊車両が運転できる韓子昂の腕を見込んで同行してほしいと言う。彼らの急務は地球エンジンの動力源である"火石"を回収しに上海へ行く事。
上海へやってきたが木星の引力の影響で気圧が下がり飛行機が次々と墜落していく。その機体がぶつかり171-11隊の車輌は壊れて動かなくなってしまったが幸い火石は回収できた。王磊は上海の地表に凍り付いたままのビルディングをこじあけ避難する。エレベータ跡を利用して最上階へ向かうが、途中で韓子昂と隊の一人が犠牲となってしまった。
宇宙ステーションを統括するコンピュータMOSSによって強制的にコールドスリープに入らされそうになった劉培強は機械を壊して強引にスリープ状態から抜け出した。異常事態を感知したMOSSは劉の上官であるマカロフを覚醒させた。起こされたマカロフは劉の身勝手な行動を怒るが、MOSSが地球を見捨ててステーションのみを木星軌道から脱出させようとしていると知らされた…。
祖父の死を受け入れられない劉啓と韓朶朶はまだ助けに行くと言い張る。王磊ら171-11隊は火石を運ぶため彼らを置いて行ってしまった。
劉啓らは墜落した飛行機の中に生存者を発見する。幸い彼はエンジニアで、壊れた車を復帰させることができた。そこへ飛び込んできた通信は、抗州シェルターに閉じ込められた人々の救援要請。171-11隊が運んでいる火石が無ければ彼らの生存は絶望的となるのだ…。劉啓は祖父のIDキーを使って車を走らせる。
歩いて火石を運んでいた171-11隊だが、抗州シェルターはすでに崩落していた。絶望した隊員が銃を打ち放し火石を壊してしまった。そこへ劉啓の車が追いつく。王磊は任務は失敗し隊は解散だと告げるが、劉啓はこの車に積まれている火石をスラウェイシへ運ぼうと提案する。スラウェイシにある第三エンジンを稼働させるために…。
劉培強とマカロフはMOSSのコントロールを解除するため管制室へ向かう。通路はMOSSによって封鎖されているため強引にステーション外へ出て外から侵入を試みる。が、突如起こった爆発によって飛んできたデブリによりマカロフが飛ばされ宇宙の彼方へ消えて行った…。
なんとか管制室に入った劉培強にMOSSはこれが裏切り行為ではなく、流浪地球計画で最初から想定されていたパターン通りの任務を遂行しているだけだと告げ主要五か国の署名を表示してみせる。
劉啓らがマニラに到着した頃、世界各地の地球エンジンが復帰し始め90%が再稼働に到った。だがすでに空一面に木星の薄気味悪い縞模様が大きな目玉のようにこちらを見ているのだった。
MOSSはあらゆる演算を試みたが地球が木星に墜落することは免れず、「流浪地球計画」が失敗した時のための「ヘリオス計画」へ移行したと劉培強に告げる。地球と人間の文化を可能な限り存続させるために、ステーションには30万人の受精卵、一億以上の農作物の種子、そして地球上のあらゆる動植物のDNAマップがストックされていたのだった。いつかステーションが人類が住めそうな星にたどり着いた時のために…。
「流浪地球計画」の失敗はMOSSから地球にも伝えられた。7日後には木星の引力に引かれて地球はばらばらになってしまうだろう、それまで各々が大切な家族と暮らしなさい…MOSSのアナウンスはそう告げていた。
地球は絶望に包まれる。劉啓は小さい頃父と一緒に望遠鏡で木星を見た夜の事を思い出していた。木星には目があるね、そう言うと父は笑って、それは大嵐なんだよと言った。木星は大量のガスに覆われた星なんだと……そうか!木星の大気を燃料にして地球の推力にすれば!
地球エンジンに火石を使って木星の大気に着火させる、その爆発を推力にして木星の引力を逃れるのだ。どうせこのままでは死を待つのみ、皆は劉啓のその案に賭ける。
スラウェイシの第三地球エンジンへやってきた劉啓らは協力を要請するが、職員は皆家族の元へ戻るかあるいは絶望して自殺を選んでいた。自力でプログラムをインストールし火石をエンジンにセットしようとするがうまくいかない。韓朶朶が救援隊のIDを使ってステーションに助けを求め、それをキャッチした劉培強が連合政府を説得し広範通信の許可を得た。韓朶朶の言葉はシェルターの全市民に伝えられた。残された7日間のその先をまだ諦めきれない人々が次々とスラウェイシエンジンへとかけつけた。
ようやく火石をセットし、皆が協力して力技でエンジンを稼働させる。巨大な光の柱がまっすぐ天…木星へと伸びて行った。だが…あと5千キロほどで届かなかった。
その様子を見ていた劉培強はうなだれる。この方法は既にMOSSが計算し成功確率は0%だと結論付けていたのだ。だが…このステーションには着火のために充分な燃料がある!劉培強は酒瓶を手にすると思い切りMOSSの中枢部に投げつけた。火花がアルコールに点火し炎を上げる。劉培強は沈黙したMOSSからコントロールを奪い操縦室へ。職員の休眠室を切り離し、そして木星へ向けてステーションを全速力で飛ばす。息子よ、すまない。これはパパの一番大切な任務なんだ…劉啓へ最後の通信を送った。
ステーションの燃料が加わりついに木星に点火された、7分後には衝撃が地球に届く。すぐにシェルターへと避難しなければならない。劉啓は急ぎ戻るが韓朶朶をかばって王磊が瓦礫の下敷きとなる。シェルターへのエレベーターには間に合わない、劉啓らは地球エンジンの下へと急ぐ。すさまじい衝撃が地表を襲った。劉啓は車外へ放り出された。ヘルメットが損傷し、徐々に体温が下がっていく…。
地球は木星の引力から逃れ、少しずつ離れていった。
三年後、太陽は膨張し地球があった場所も飲み込まれてしまった。もし「流浪地球計画」が執行されていなければ今頃地球は消滅していただろう。劉啓と韓朶朶、他生き残った人々は皆今日も地球エンジンを動かすため働く。新たな太陽となる恒星を見つけるまでこの「流浪地球計画」は何代、何百代にも渡って続けられていくのだ。(終)-----ここまで]
冒頭の「地球自体にエンジンつけて宇宙船代わりにして航行する」というトンデモ設定には呆れてしまったのだけど、でもその設定を大真面目に考えて練られたハードSFだったのには驚いた。地球自体に帰る場所がなく具体的な目的地もない以上どう考えてもハッピーエンドにはならないんじゃないか…最初から追い立てられるようなディストピア感に首を絞められるような息苦しさが続き見ててしんどいんだけど結末が気になって…。
欧米のSF映画だと主人公とその相棒か恋人という極めて小人数の物語になりがちだけど、この作品はこれといって主人公らしい主人公がおらず、強いて言えば劉培強と劉啓の親子の物語だけど前半はどう見てもおじいちゃんの韓子昂がカッコ良くて大活躍だし後半は王磊隊長やティム、李一一とかいろんな人が同じくらい活躍し重要な役割を果たす。こういう風にヒーロー一人を立てるわけではなく"人々の協力"に視点を置いた描き方はつくづくアジア映画だなと思う。ハリウッド映画慣れしてる人にとっては視点がバラバラなこの作風には戸惑いを覚えるだろうけど、色んなドラマが込められていて個人的には好き。
そして結末…どうしてもこの設定上このオチしかないという不可避な結末が待っているのだけど、しんどいとわかっていても最後まで見て良かったというすっきりした気持ちになる。100%ハッピーには決してなれないけど、不幸のどん底を知れば少しくらいの不幸はむしろ幸せだと感じるという不思議な現象に包まれる。序盤に学校の先生が韓朶朶に「希望とは何か」と問う、その答を観客はこの映画を見終えた後に各々考えることになる。
先述した通り主人公らしい主人公がおらず、特に目を引いたキャストと言えば韓子昂を演じるン・マンタ(呉孟達)かな。劉培強の息子を思う気持ちにも泣けたけどそれは物語の上であって、韓子昂はその表情…つまりン・マンタのお芝居に泣かされた。
劉培強を演じるウー・ジン(呉京)は中国で大ヒットした戦争映画「戦狼」シリーズで主役を張ってる人。王磊隊長を演じるリー・クァンジェ(李光潔)は「和平飯店」主演のイケメン。同じく「和平飯店」主演のレイ・ジァイン(雷佳音)も冒頭の北京シェルターの裏の顔役で出てくる。あと原作者であるリウ・ツーシン(劉慈欣)もモブ役で出演しているという隠し要素付き。
原作の小説の英語訳版。日本語訳版は「さまよえる地球」のタイトルで雑誌掲載されたが単行本としては出版されていないようです。
