「一本好書」(2018年 総監督/関正文 司会/陳暁楠)
全12回

「好」は日本語の「好き」ではなく「良い」の意味。
中国の名著と世界の名著を舞台劇を交えて紹介する教養系番組。ドーナツ型ステージの円形劇場にちゃんとお客さんを入れて上演した舞台劇を撮影編集したものを見ながら、番組ナビゲーターが有識者を招いて作品の解説やみどころなどを語り合い、また著者や主演俳優へのインタビューなどもついてるという面白い構成の90分番組。そのうち演劇部分は大体三幕くらいで構成されててトータル60分程度。
「月亮和六便士(月と六ペンス)」(原著/サマセット・モーム 主演/趙立新、黄維徳)
画家ゴーギャンをモデルにしたと言われる作品。この舞台劇では作家の"私"が出会った偏屈な画家と彼をとりまく人々との交流の中で、理解(共感)できるものできないものの温度差に焦点を当てている。天才の周りにはなぜか風変わりな人が集まってきて、常人には彼らの心の内がまったく理解できないよ!と観客(読者)を誘導するような脚本になってるのがとても興味深いところだった。
天才画家を演じる黄維徳も個性的で迫力のあるお芝居だったけど、狂言回し役である"私"を演じる趙立新がやっぱり凄すぎる。彼がいるから各場面の主役が引き立つ!
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「万暦十五年」(原著/黄仁宇 主演/王勁松)
歴史学者の著書。明代の皇帝や朝臣の生涯を追い当時の政治社会を紐解いていく。この舞台劇ではタイトルにもなっている万暦帝をクローズアップし、晩年の万暦帝が自身の人生を回顧するという構成。
晩年の万暦帝を演じる王勁松はちっとも皇帝っぽい威厳とかないんだけどね、実際のところ皇帝も人の子、ドラマに出てくるような特別感はなかったのかもしれないなと思わせる。
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「三体」(原著/劉慈欣 主演/趙立新)
現代中国のベストセラーSF作品。三部作のうちこの舞台劇では第二部を描いているようだ。けど、ちょっと難しすぎてよくわからなかったよ…。娯楽SFではなく本格SFで哲学的、倫理学的、社会学的要素が入って来てるので、ただでさえ言葉の壁があるのにこれはツライ。地球外生命体がいるとして彼らが地球に対して友好的である保証はないし攻撃的侵略的であった場合にどう回避するのかという問題を扱ってるのか?
お芝居と言っても大学の講義みたいな説明が大部分を占めてて、やっぱりSFを舞台劇にするのは無茶だろうと思う…。
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「人類簡史(サピエンス全史)」(原著/ユヴァル・ノア・ハラリ 出演/王自健)
これも歴史学者の著書だけど、人類の進化の歴史を描いていて生物学っぽくもある。
この回はお芝居ではなく、噺家である王自健がジョークも交えてわかりやすく内容を解説する。
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「霍乱時的愛情(コレラの時代の愛)」(原著/ガルシア・マルケス 主演/王洛勇)
ノーベル賞受賞作家ガルシア・マルケスの代表作。おそらく当時の社会を鋭く描写してるとかそういう点が評価される作品なんだろうけど、この舞台劇ではありがちな恋愛物語にしか見えなかった。原作ではビョーキなくらいの恋煩いに陥る主人公だけどそこが非常にマイルドに描かれてて、ごく普通な話。
主人公アリーサが運命の女性(だと思っている)フェルミーナに出会ったころから現在までを回想するという構成で、現在の老いたアリーサを演じる王洛勇さんのほぼ独白、一人芝居ぽくなっている。彼の思い出話で若者アリーサや若者フィルミーナも舞台に登場するんだけど、別に彼らが出てこなくても成立するなってほど、その語り口は生き生きとして物語に引き付けられる魅力があった。
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「查令十字街84号(チャリング・クロス街84番地)」(原著/ヘレーン・ハンフ 主演/潘虹、龍靖茹)
本を愛するアメリカ人ライター・ヘレーンとロンドンの古書店員らが20年にも渡って手紙のやり取りをしたものをまとめた書簡集。この舞台劇では老いたヘレーンが書店へ初めて手紙を出した頃を回想する形で始まる。
舞台中央に語り部となる老人ヘレーンが座っており当時を思い返す…と、上手(舞台右側)に若者時代のヘレーンが手紙を書いている自室、そして下手(舞台左側)にチャリング・クロス街84番地にある古書店マーカス社が出現する。手紙のやり取りは客席を挟んでちょうど対面するような形で会話を交わすことで表現され、その舞台ならではの演出が素晴らしい。ストーリーは無いに等しいのに、個性ある四人の書店員らとの会話(=手紙のやりとり)が心温まる。
この作品では老人ヘレーンは本当に場を繋ぐ程度しか出てこない、なのに演じる潘虹さんが圧倒的存在感、吸引力。
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「未来簡史(ホモ・デウス)」(原著/ユヴァル・ノア・ハラリ 出演/王自健)
「サピエンス全史」の続編にあたる。人は何のために生きるのか…こちらは現在から未来へ向かって人類の行く先を予測する内容。やはり王自健が非常にわかりやすい語り口で展開。林修か、はたまた池上彰かっていう。
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「無人生還(そして誰もいなくなった)」(原著/アガサ・クリスティ 主演/李建義)
ミステリの女王クリスティの代表作。孤島の邸宅に集められた10人が一人また一人と殺されて行くサスペンスミステリ。よく知られているようにこの物語は最後は誰もいなくなってしまうので、語り部、狂言回し役もおらず普通の舞台劇になっている。でも主演筆頭が李建義となっててキャストでネタバレるじゃん!!って思ったら、なんとお芝居は最後まで行かず6人が殺された時点で終了。続きは本を読んで確かめてね、だって。
円形舞台の使い方が巧くて正面がリビング、左右が彼らの個室、手前が屋敷の外という風に用いられてて観客はいつでも好きな所を見られる、怪しい所はないか観察できるっていうのはミステリ劇として面白い演出。
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「暗算」(原著/麦家 主演/趙立新)
現代中国の作家・麦家の代表作。戦時中の中国の軍諜報部を舞台とした短編連作っぽい、たぶん。
この舞台劇では二つの物語…全盲の障碍者として蔑まれてきた男が軍諜報部にスカウトされその驚異的な聴力で成功を収める物語と、暗号解読のため軍に雇われた女性数学者の恋とその悲しい結末が描かれる。
最初の物語は狂言回し役の趙立新のほぼ独白でお芝居というかもはや朗読?でも次の物語では彼は主役として物語に登場する。もう一人の主役を演じる田沅もまた繊細な表情を魅せる女優さんで、この二人のお芝居はなんだか格が違う!短くても濃厚というのか、すごく心にグサッと突き刺さる。
「塵埃落定」(原著/阿来 主演/喩恩泰)
これが一番よくわからなかった…。チベットの作家・阿来の処女長編作だとか。チベットのある部族に生まれた次男坊の目線で、部族間・家族間の争いや、中国との商売、駆け引きなどを描いている?舞台劇でも物語の途中までしか描かれていないので、結局のところこの作品で何を伝えたかったのか全くわからなかったよ…。
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「麦田里的守望者(ライ麦畑でつかまえて)」(原著/J・D・サリンジャー 主演/牛駿峰、張宥浩)
青春小説の金字塔と言われるサリンジャーの代表作。世の大人たちに嫌悪感を抱きグレて家出する青臭い若者の数日間。この舞台劇では物語からさらに数年後の主人公が当時の様子を回顧する形式で描く。
正直原作が嫌いで全く期待してなかったけど、文字で見るとのお芝居で観るのは全然違うかもと思わせる。作品のイメージが変わった。(まあ全員黒髪のアジア人が演じてるって時点で原作とは大幅に異なるわけだけど。)狂言回しである現在のホールデンを演じる牛駿峰が素晴らしい。びりびり響いてくるような感情のぶつけざま。その眼力。舞台人だなーって思う。
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この番組は昨年末に配信されたのだけど、シーズン1と銘打っているのでまた今年の冬にでも第二弾が配信されるのかもしれない。












